第117話 生徒会
ジンは生徒会室に向かう途中後ろで少し震えるリナリーの存在を感じながら歩く。
廊下にいる生徒たちは二人を見て何かあったのかと目を丸くして二人とすれ違って行く。
生徒会室の近くまで来た頃、廊下にいる生徒もいなくなった時を見計らってジンが振り返る。
「リナリー?」
「......はい」
「ごめん」
「なんでジン様が謝るのですか?」
「いつもリナリーは俺のために怒ってくれるから」
「ジン様はもっと自分のことに執着するべきです!」
「ごめん......」
「そうやってすぐに謝る!」
ジンにグッと顔を寄せてリナリーが頬を膨らませる。
「それじゃ、ありがとう」
「むうぅ、ずるいです」
ジンはリナリーの頭を撫でるとそのまま手を再度握り直す。
「それじゃ行こうか」
「はい!」
リナリーはジンに頭を撫でられてすっかり機嫌が治っていた。
二人が生徒会室の前について一拍置いてからドアをノックする。
「どうぞ」
初めて聞く女性の声で入室を許され、二人が生徒会室に入る。
二人が入室すると中央の一番奥で一番大きな机にロイが座っておりその横に一人の男子が立っていて、ジンたちの入室の許可を出した女性は少し離れた席に座っていた。
「来たか」
「言われた通りな」
ジンはいつものようにロイに返してしまい、ハッとする。
すぐにロイのそばにいる男性と女性を確認したら案の定少し驚いた顔をしていた。だが、すぐに女性がふふふと思わずと言った風に笑い出す。
ジンはその姿に一瞬見惚れる。女性は紫の淡い髪を腰まで伸ばしてそのはっきりとした顔立ちは可愛いというよりかは美女と言われるだろうとジンは一瞬でそこまで考えがいくが、何故かリナリーに太ももを抓れらて現実に戻ってくる。
「リ、リナリー?」
「ふん!」
「貴方にもこんな友人が私たち以外にもいたのね」
リナリーの可愛い嫉妬に気づかない女性はロイの方を振り返ってそう言う。
「だから言ったじゃないか」
「まぁ、全然信じてはなかったね」
そう言ったのはロイの隣にいる男性だ。
彼は青色の髪に優しそうという第一印象だった。
「おっと、ごめんね。リナリー嬢は何度か会ったことあるけどジン君は初めましてだね。僕はエルフリーデン・オルガだ。よろしく」
「あ、はいよろしくお願いします......俺の名前......」
ジンは頭を下げる途中で疑問が口から出てしまう。
「ああ、君の話しは彼からよく聞いているよ」
「なるほど」
エルはロイを見ながら疑問に答える。
エルの自己紹介が終わったのを見て次は女性が一歩前に出る。
「私はオリビア・レーブン。よろしく」
オリビアが誰もが魅了されるような涼しげな笑顔で挨拶をする。
「レーブン......てことは玄武の」
「ええ、入試の時はごめんなさいね。お爺さまが迷惑をかけたみたいで」
「いえ!すごく勉強になりました」
「そう言ってもらえるとありがたいわ。そんなに畏まらなくていいのよ?」
「えっと」
「そうだぞジン。エルは俺の親友だし、オリビアは許婚だ。今後も付き合っていくのだからな、最初からそれだと疲れてしまうぞ」
「ロイ」
「ふっ」
ジンに名前を呼ばれてロイはドヤ顔で笑う。
「俺以外にも友達いたんだな」
「ジン!それはないだろう!」
ロイの苦言にジンとロイを除いた三人が笑うのだった。
笑いが収まると ジン達は空いている席に座るよう言われて座る。
「さて、それじゃ単刀直入に言うが君たちには生徒会に入って貰いたい」
「わかった」
即答するジンにロイ以外は少し驚く。
「ああ、すまない。ジンには予め伝えておいた事だから」
ロイの話を聞いてなるほどと皆納得する。
「それなら私もよろしくお願いします」
続いてリナリーがそう言うとロイは両手を広げ嬉しそうに言う。
「それでは一年生二人を歓迎しよう!」
ロイの言葉に合わせて生徒会の二人が拍手でジンとリナリーを迎える。
拍手が一通り終わるとオリビアが席を立って紅茶を準備しにいく。
「生徒会って俺たちを含めて五人か?」
「そうだ、副会長にオリビア、そのほか全部をエルがやっている」
「まじか」
ジンはエルの方に顔を向けるとエルははははと笑う。
「リナリー嬢にはエルの仕事を少し手伝って貰いたい」
「はい、任せてください」
「俺は?」
「お前に書類仕事は難しいだろう」
ロイの少し馬鹿にしたような流し目にジンは心外だと抗議する。
「そんなことは」
「ないことはわかってる。だが、お前には別の仕事がある」
「別の?」
ジンの抗議にロイが被せるように話を遮る。
「お前には生徒同士の私闘などの仲裁、つまり戦闘面での採用だ」
「なるほどな、まぁそういう事なら了承しよう」
「うむ」
「でも珍しいな」
「ん?」
「ロイ含め先輩二人は三年生だろ?二年生の役員がいないのがな」
「ああ、そのことも含めて今日話し合いを行う予定だった」
ロイが目配せをするとオリビアが頷く。
「リナリーさん、生徒会の仕事についてと先生への生徒会加入を報告しに行きましょうか?」
「え?」
この会話の流れだとつまりロイの話し合いにリナリーは参加させないという事だった。
ジンはロイに目を向けるがロイの顔が真面目モードだったので訳があるのだろうとリナリーに目配せをする。
リナリーはジンの目配せに気がつくと笑ってオリビアの提案に同意して二人が生徒会室から出ていくのだった。
「賢い女性だね」
「自慢の婚約者です」
「ははは」
リナリーたちが退室していき男だけとなった生徒会室でロイが背もたれに体重を預けながら話し合いを開始する。
「まぁ、まずは二年生がいないという話だが、今の情勢を物語っているってところだな」
「情勢?」
「もうすでに俺とドールどちらにつくかと言う貴族同士の探り合いが始まっているってことだ」
「それと二年生がいないことがどうつながるんだ?流石に二年生全生徒の貴族がお前につかないってこともないだろ?」
「それがそうでもない」
「まじか」
「ジンは知ってると思うがこの国には大きな権力を持つ貴族がいくつかいる。その中で最も大きな権力といえば四代侯爵家だ。リナリー嬢の実家であるフォルム家、エルの実家で現丞相のオルガ家、そして朱雀騎士団団長、レオン・テングラムが当主であるテングラム家、そしてお前とは少し縁があるバスター家ってところだろう」
「まぁそれくらいは」
「その中でテングラムとバスターはドールについた。この二人は選民思考が強いからな、そしてテングラム家の息子であるグライズが二年生なんだ」
「なるほど、でもそこまでなのか?」
「ああ、次に権力といえば五代伯爵家になってくるが、一年生に二人、そしてオリビア、後の二人は二年生にいる。その二人はテングラムの腰巾着というわけだな」
「だから生徒会は僕らだけなんだ」
「なるほどね」
ジンは頷く。
「それで?それを踏まえた上での話し合いってことだろ?」
「そうだ、現状俺についてくれている貴族はドールと拮抗している」
「まじかよ」
ジンはロイの人柄的にドールに圧勝していると思っていた。
「テングラムがドール殿下についたのが大きかったね。それだけで結構な数があっち側に流れた」
「流石は筆頭騎士団団長ってところか」
「そうだね。ベータル王国の剣聖の名前は伊達じゃないね」
「剣聖ね」
ジンの口が自然に吊り上がる。
「まったく、お前と言う奴は」
「ははは、話に聞いた通りだね」
「でもさ、リナリーを出ていかせるほどの話ではなくないか?」
「ここまではそうだが、ここからは少し内密な話だ」
ロイは和やかな空気を霧散させて、口の前で手を組み話始めるのだった。
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