第107話 二回戦

 ジンは先程同様、演習場の真ん中まで行き待機する。


「さぁ!二回戦も最終戦です!先程なんとか勝利を手にしたタルト選手!対するは先程、光の速さで勝負が決してしまった、ジン選手」


「両者、準備はいいか」


「「はい」」


「では、はじめ!!」


 審判役の教師の言葉でタルトが地を蹴ってジンに突貫する。

 どこか先程の光景が一回戦を見ていた人たちの間でフラッシュバックする。

 だが、同じことにはならなかった。

 ネバーは上段からの振り下ろしだったが、タルトは左からの薙ぎ払いだった。


「うりゃあああああ」


 ジンはそれを冷静に目で追いながらタルトの木刀の鋒スレスレを後ろに下がることで躱す。

 だが、タルトは二回三回と躱されても気にすることなく木刀を振り抜く。それをジンはひたすら躱すという構図だった。

 そんな光景に観客達の間にこれはいけるんじゃないか?ジン・オオトリは打開策が無いのではないか?という空気なる。が、それの空気は一瞬で覆された。


「攻める攻める!タルト選手凄まじい猛攻です!!」

 

「おらああああああ」


 タルトが再度気迫の篭った雄叫びを上げて木刀を振るうとタルトの目の前からジンが掻き消えた。

 

「え?」


「え?」


 タルトは目の前から消えたジンに動揺し木刀を振り切った体制で一瞬止まる。

 同時に実況役の生徒もタルトとは違った意味で同様の声を上げる。それは見ていた者達にとって殆どの者が思わず上げた疑問の声だった。

 すると次の瞬間、木刀があり得ないほどの重さになって支えられなくなり地面にその鋒が着く。

 タルトは木刀の鋒へと目を向けるとそこにはジンの足があり、自分の木刀を両足で踏んでいた。視線を上に向ければジンの木刀が自分の喉元にあった。


「そ、そこまで!勝者ジン・オオトリ!」


 何が起きたのかそれは側から見れば一目瞭然だった。

 タルトの雄叫びと共に振るわれた木刀、それが振り切られた時その木刀の上にジンはいた。

 しゃがむように鋒に乗るジンに観客、実況、審判、全てが驚愕する。

 世界が停止したような感覚が一瞬流れる。そして、ジンの体重を受けて、木刀が沈み振り返るタルトと同時にジンが木刀をタルトに向けたのだった。


「嘘だろ......あ、いえ!この勝負ジン選手の勝利です!」


 観客にあったのは驚愕と戦慄。

 振るわれた木刀に乗るという離業。

 およそ、予想していなかった幕切れに一回戦よりも驚愕は大き物となっていた。

 ジンは一礼してから自分が出て来た入り口へと戻って行く。

 この瞬間からジン・オオトリを無視できる同級生、上級生はいなくなったのだった。

 特に上級生は、一年生よりも剣という物を知っている。だからこそわかるのだ、ジンの異常性に。

 この大会で一番注目しなければならないのはジンであると認識した瞬間だった。

 ジンは試合が終わり更衣室に待機していると自分に近づく気配を感じてそちらを向く。


「よう、平民」


「はぁ」


 ジンは声を聞いて相手に気づかれないようため息をつき、笑顔を作って顔を向ける。


「どうかされましたか?殿下」


 ジンの反応に喋りかけたドールは心底嫌そうな顔をする。


(そんな顔するなら話しかけて来なければいいのに)


 ジンは心の中で呟くが顔色には一切出さなかった。


「次の相手は私だな、首を洗ってまっておけ」


「はぁ、まぁ、はい」


 ジンは歯切れの悪い返事を返す。

 事前にロイから、もしドールが出場しジンと対面する事になっても手加減はいらないとは言われているが、正直この国の第二王子をボコボコにする気はジンにはなく、出来るだけ早急に決着をつけようと考えていた。


「ひとつ賭けをしないか?」


「賭け?」


「そうだ、お前が負けたらリナリーとの婚約を解消しろ」


「はい?言ってる意味がわからないんだが」


「お前が負けたら婚約を解消しろと言ったんだ」


「そう言う意味じゃない、なぜ俺がそんな賭けをしなきゃならないんだ?」


「私が下しているのだ、貴様は従えばいいだけだ」


「ははは、ドール殿下、貴方は何というか王族なのですね」


 ジンはここでなんとなくおかしくなって、笑ってしまう。ロイとは似ても似つかないドールに本来王族とはこういう者なのかもしれないと思ってしまったからだ。


「なにを言っている?」


「いえ......わかりました。でも俺が勝ったら金輪際......俺とリナリーに近づくな」


 ジンは言葉尻に威圧を込めてドールに凄む。


「貴様、成り上がりの分際で!」


「賭けをするんでしょう?ならリターンがなきゃ賭けにならないでしょう」


「貴様ぁ」


 ドールが熱くなり声を荒げようとしたちょうどその時エドワードが更衣室に入ってきてジンとドールが呼ばれる。

 ドールは舌打ちをすると「いいだろう」と言っても踵を返す。

 ジンは先程とは逆の入り口から演習場に入場した。

 武園会も大詰めという事で先程よりも観客が増えていた。


「さあ!とうとう武園会も後半戦!!ここからは解説にサドラー先生にお越しいただ来ました!!」


「よろしく」


「さぁ!まずはいきなり大注目カードの対戦だ!我が国の第二王子!ドールスレス・バン・ベータル!これまで危なげなくその強さを遺憾無く発揮させて来ました。対するは詐欺師か、英雄か、ジン・オオトリ!これまでの試合、八百長疑惑が出るほどの瞬殺と来ています。さぁ!まもなく試合開始です!」


(リナリーに賭けのことがバレたらめっちゃ怒られるんだろうな)


 ジンもリナリーを賭けの対象にする事に嫌悪感はあったが、それよりも今後、一々ドールが絡んでくる事の方がジンに取っては嫌なことだった。

 今回ドールから仕掛けてくれたのならこれを利用しない手はない。


(けどこれで手加減とか言ってらん無くなったな)


 ジンは木刀を刀に見立て腰に持っていく。


(殺す気で行くぞ、王子様)


「さぁ!ここからの審判を務めて頂くのはなんと!朱雀騎士団副団長である、ジョナサン・ローレン様だ!」


 ジンはどうやら危なくなったら止めてくれそうな人材が審判になってくれたことで、本当にドールを殺してしまう心配が無くなり、ほっとする。

 ジンは手加減ができないわけでは無いが、今回のこれには一切の手加減をするつもりがなかったので懸念点がなくなり、始まる前から凄まじい殺気を放つ。

 それに気づいたのはこの会場でも数人だった。その中で今、名前を呼ばれたジョナサンはジンをじっと見つめる。

 お互いが定位置に着くと、演習場全体が静寂に包まれる。

 ここに『王子対忌み子』の三回戦が始まるのであった。

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