第108話 対ドール
「それでは、始める。両者準備はいいか?」
ジョナサンの言葉にジンとドールはうなずく。
「では、始め!」
その一言で試合が始まった。
時は少し遡り、ジンとドールが入場する少し前。
観客席ではリナリーがジンの試合を見るためにテオ、ノア、カナリア、クレアが談笑しながら座っていた。
「次はドール殿下か」
「ジン様なら余裕です」
「ははは、まぁ実際そうなんだろうけどね」
テオとリナリーの会話にノア達は肯定的なことは言えなかった。
テオはジンから手合わせの仕組みを聞いていて、ジンの実力が高いことを知っている、リナリーは元々ジンに全幅の信頼を置いているため、その信頼を表す言動を取る。
逆にノア達はジンの実力を知らなかった。情報で言えばクラスメイトが言っていることしか無いため少しテオ達の意見とは異なっていた。
だが、ここまでの試合危なげどころか圧勝をするジンに本当に強いんじゃないかと思い始めてもいた。
そんな五人に声をかける人物がいた。
「失礼、隣、失礼してもいいかな?」
「あ、どうぞ」
テオの隣に優しそうな男性が笑顔で隣席に座っていいかの許可を求めてくる。
全員の目がそちらを向くと女性陣は固まってしまう。
「殿下......」
「やぁ、リナリー嬢学園で会うのは初めてだね。ノア嬢もカナリア嬢もクレア嬢も久しぶりだ。そして君がテオ君だね」
ロイの物腰の柔らかさにテオは固まったままだったが、ロイが自分の名前を言うので慌てて立ち上がって頭を下げる。
「は、はじめまして!ロイストス殿下!」
「ははは、今は学園の中だ。私は一先輩だよ。一先輩にそこまでの礼は不要だ」
ロイがそう言うのでテオは頭を上げる。
「君の話しはジンからよく聞いているよ」
「ジンから?」
テオとリナリー以外の女性陣はジンがロイと面識がある事にも驚いたが、その中でも
テオはあまり良い事は言われていなさそうだと思うとロイから思いがけないことを言われる。
「ああ、優秀な友人だとね」
「え?」
ジンがまさかそんなことを言っている事など考えもしていなかったため驚くテオ。
「ははは、是非私とも友人になってくれ」
ロイはそう言うと右手を差し出すのでテオはその右手を凝視してしまう。
ロイはその意味に数秒して気づき慌ててその手を握る。
二人が握手を交わすとロイは演習場に視線を向ける。
ちょうどその時二人が入場して来たのだった。
「その殿下?よろしいですか?」
「なにかな?リナリー嬢」
「殿下はどちらが勝つと思いますか?」
「ジンだね」
ロイの即答に女性陣はは少し驚く。
テオの即答した事には驚き訳を聞く。
「なぜそう思うのですか?」
「ジンとは同じ師の元で修行したこともある、私は王族としての義務があってそれほど長くはいなかったが、私は手合わせで彼に勝てた事はない」
「え!?」
テオは驚く。ロイは文武両道の王子として有名で学園の中で武門においても名の知れた存在だ。そのロイが一度も勝てないという事はジンとロイには隔絶した実力差があるという事だからだ。
「それに奴は私の
これにはテオ以外も驚く。
まさか、ロイにそこまで言わせるジンとは一体何者なのかと。
テオはその事は置いておいて気になることを聞く。
「一緒の師という事は、殿下も瞬刃流という事ですか?」
「ああ、そうだよ」
「では、お聞きしたいにですが瞬刃流とはどんな流派なのですか?英雄であるジゲン様の扱う流派である事は知っています。恐ろしく早い剣技であることも、ですがその実、瞬刃流とはその認識で良いのでしょうか?」
「そうだな、瞬刃流は一言で言えば、己を刀とする流派だね」
「己を刀......」
「どこまでも効率と結果を求め、自分の体を刀の一部として、敵を一刀の元断つ。そのことを求めた結果、あの速度ということだね」
「では、アーサーの二刀流については」
「それは私も初見だ。それを見に来た節も少しある」
「なるほど」
ロイの話は正直わからない事は多かった。
「さ、そろそろ始まりそうだ」
ロイの言葉に全員が演習場に目を向ける。
「さぁ、ドールどこまで食らいつく?」
ロイの言葉は観客の歓声の中に消えて誰の耳にも届く事はなかった。
ジョナサンの合図とともにジンは地面を力強く蹴ってドールへと接近する。
ジンはドールの前で急激に減速して止まる。
ドールから見ればジンが目の前に一瞬で現れた事で取り乱して上段に上げられた木刀を振り下ろす。
「うわああ!」
ジンはそれを敢えて紙一重で左足を後方に下げて身体半身ずらして交わすとそのままから右足を軸に回転して、無防備な首へと木刀を水平に振るう。
その木刀は綺麗にドールの首へと吸い込まれていき途中で何かに阻まれる。
「そこまで、勝負有りだ」
ジンの木刀を真剣で止めたのは審判であるジョナサンだった。
ドール、観客、実況はなにが起きたかわからないと言ったふうに黙りこくってしまっていた。だが、結果が出た事で正気を取り戻した実況の少年が、声を上げる。
「しょ、勝者!ジン・オオトリ選手!」
なんとかそう言ったが会場は静まり返ったままだった。
ジンは踵を返して数歩離れて一礼すると来た道を戻る。
ジンの知ってるドールならばここで難癖でもつけてくるんだろうとジンが首だけ振り返ると、ドールはなにが起きたのか理解できず、放心してしまっていた。
好都合だと捉えたジンはそのままその場を後にするのだった。
その場の空気を変えようと始まった時よりも明るく実況が喋る。
「いやぁ、なんというか早々の決着でしたね。どうでしょうか?サドラー先生、今の一戦を見て」
「凄まじいの一言だな」
「と言うと?」
「一連の流れに無駄が一つもない。瞬刃流という流派を知っている物もいると思うが知らん者もいるだろう。彼の流派は無駄を一切省き敵を葬る事に特化した流派だ。そのことをあの歳であそこまで体現しているのは正直信じられんよ」
「......えっと彼は、いろいろな噂がありますが、その点についてどう思いますか?」
「あまり詳しくは知らないが、剣の実力だけで言えば相当なもんだな」
「なるほど、ありがとうございました!それでは皆さん次の対戦まで、バイビ!」
実況の少年がそう言うと電子機器が切れる音がする。
その音を皮切りに観客席が段々と活気を取り戻していく。
その中にテオ達もいた。
「開門せずにか、まぁそれもそうだろうな」
ロイが黙りこくってしまった面々の代わりにそう言うと唯一反応したのがテオだった。
「開門?」
「簡単に言うと流派によって技があるが、瞬刃流では第何門という風に言うんだよ」
「つまり?」
「つまりジンは剣技の技術ではなく、体術のみでドールを圧倒したと言うことだ」
テオはドールの実力を知っている。Sクラスでもドールに勝てる相手はアーサーとイーサンくらいだったと記憶していた。
そのドールを圧倒するジンはどうやら学年では敵なしなんだと思った。
「まぁ、どうやら今の試合、ドールは油断していたね。油断していなかったらもう少しいい勝負をしたかもしれないのに」
ロイが言ったのは体術だけで圧倒される事は分かっていたが瞬殺はされなかっただろうという意味だが、テオ達はドールも油断さえ無ければ良い勝負をしたのだろうと勘違いした。
「さて、次はウォレット家のイーサンが相手だろうからね。見応えのある試合をするんじゃないかな?」
ロイの言葉にテオはイーサンといい勝負ならイーサンに勝ったアーサーには勝てないのではないだろうかと心の中で思うのだった。
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