第105話 武園会前
次の日からジン達の実技講習は六人で行っていた。
基本的にテオはジンに言われて走り込みをし、それにイーサンが付き合い、女性陣はジンの監修の元、不意打ちの初歩にして一番重要な足運びを学びそれをひたすらに反復すると言う、側から見ればえらく地味な内容にジンの評価はまたしても下がっていく。
「ジ〜ン!もう無理足が、足が!」
テオは今にも倒れそうにフラフラとジンに近づく。
「まだいける、イーサンはピンピンしてるぞ?」
後ろで息は荒いがテオのようにフラフラではないイーサンに視線を向けてジンが言う。
「イーサンと一緒にするなよ!俺は平民だぞ!」
「それを盾にするなら、倍走らせるぞ」
「うう!わかったから、あと何周だ!」
「十」
「鬼め!!!」
「二十」
「うそうそ!嘘だから!!」
「いいから、行ってこい」
「最近俺に遠慮がねぇ!」
「しても意味ないからな」
「いつか見てろよ!!」
そんなテオにとっては地獄のような毎日を過ごして武園会が一週間前に迫った朝、ホームルームでエドワードが武園会の詳細の説明を始めた。
「武園会について説明する。武園会は学園行事のかでも規模の大きな催し物なのはみなの知るところだろうが、このSクラスは自由参加だ。参加する者は今配った用紙に氏名を記入して今日中に私の元に持ってきてくれ」
武園会への参加はSクラスとAクラスBクラスは自由参加となっているこれは武園会がある一定の者にのみ必要とされているからだ。
それは、武人になりたい者達だ。将来騎士団に入る者はこの武園会で結果を残せば騎士団に入団するときにある程度の評価基準になることを知っているので参加する。
また、平民も同じだ。Bクラス以上には平民は基本的には入学できないためこの武園会を通して騎士団の目に留まればもしかしたらスカウトがある可能性があるため貴族よりも躍起になって参加する。
学年ごとにトーナメントが組まれて三十人の参加者で行う。
二日間で行われ一日目が一年、二日目が二年となり三年生には武園会は行われない。
Bクラス以下に与えられた枠は基本的には二つしかなかった、だがSからBの間で参加者が二十八人を割った場合のみその枠は下に降りることとなっていた。
「S、A、Bクラスで参加者が多かった場合は、予選があるからな。では今日も勉学に励め」
そう言って教室から退室していくエドワード。だが、心の中では今年も上位クラスでの予選はないだろうと踏んでいた。
エドワードの読みは正しく、Sクラスからは六人、Aクラスからは八人、Bクラスからは十人と六枠も空いたため、今年はCクラス以下から六人選抜される事となった。
上位クラスでなぜここまで参加者が少ないかと言えば夏に行われる全校生徒対象の王立学園最大の催し物である火王祭があるからだ。
この火王祭は全校生徒が三ヶ月間の間に予選を行い勝ち残った者が本戦で王族の前で武を競うと言う栄えある武術祭なのである。
武園会は一二年が年の初めに今年はどの程度が基準になるかを格騎士団、学園側が把握するための物であった。
高位貴族達は基本的に騎士団に入るのに武園会で結果を残さなくてもいいため不参加が多い。
逆に火王祭は王の前で名前を印象付けるチャンスであるため貴族も平民も関係なく勝つために最善を尽くす。
結果として高位貴族の武園会への参加者は少なくなるのだ。
「ジンは参加するのか?」
「まぁな、ちょっと約束があってな」
「なんだ、君も参加するのか?お互い頑張ろう」
ジンにそう言ったのはアーサーだった。
アーサーは心の中ではそんな事一切思っていなかったが、ジンに笑いかける。
ジンはそうだなと短く返すと用紙に視線を戻すのだった。
そうして日にちはすぐに立ち早くも武園会当日の朝になった。
ジンは学園に向かう馬車の中で最近日に日に増す、クラスでの嫌がらせが今日の結果で何か変わるといいなと思いながら揺られていた。
特に何か被害があるわけでは無いが足を掛けようとしてくると言った嫌がらせを一々回避するのも面倒になってきたためである。
「まったく、あれが将来国を背負うって立つ貴族かと思うとロイの苦労が忍ばれるな」
「何を言ってるかわからないけど、それなら友達の君も苦労しそうだね」
馬車の中でジンにそう返すのはテンゼンである。
「俺は知らん!」
ジンは胸を張って言い切るが将来、ロイより苦労するのはジンであることをまだこの時のジンは想像すらしていなかったのだった。
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