第104話 イーサン・ウォレット
「不意打ちって貴族としてどうなんですか?」
ノアがジンに対して苦言を呈すとジンはリナリーからノアに顔を向ける。
「貴族どうこうはもし大事があったときに生き残れたら考えるんだな、まぁそれも体裁を整えられるほどその時に時間がある可能性はほぼない」
「ですが」
「嫌ならいいんだ、そもそも君たちには専属の騎士がついて守ってもらえる。護身術どうこうはただの抗弁であって、暫くしたら暗黙の了解で君たちは実技講習は見学しているか最悪参加しなくてもいい」
ジンのぶっちゃけた話はロイから聞いた話だった。
「それでももし、何かあった時身を守る術が一つ二つあればいいと思う人が居れば残ってくれ」
この言葉に結局残ったのはリナリーとカナリアとノアだけだった。
「まぁ、仕方がないか」
ジンがそうこぼすと後ろから声をかけられる。
「ジン」
「ん?テオ、どうしたんだ?」
「俺もこっちに入れてくれ。あっちに居場所がない」
テオはジンの所まで来ると男子達が
「そうか、でもこっちも中々寂しくなったぞ」
「どうやらその様だね」
テオはリナリー達だけになった女子を見て笑う。
「まぁでも、あっちにいるよりはマシだよ。ジン、俺に戦い方を教えてくれ」
「俺も頼む」
「「うお!」」
テオのお願いに続いたのは初めて喋る男子生徒だった。
彼は体格ががっしりしていて、如何にも真面目という風貌だった。
「えっと、ごめん。君は?」
「すまん、俺はイーサン・ウォレットだ。昨日の手合わせを見て、君に師事を仰ぎたいと思って機会を伺っていたんだが、彼が君のところに行くのが見えたから、失礼ながら付けさせて貰った」
ジンはウォレットと聞いて少し驚く。
ウォレット家とはベータルに古くからある武門の伯爵家であり、家格で言えば侯爵家の次となるだろう。
伯爵家にもいろいろあって、ジゲンの様に最近なった者もいるが、ウォレット家は貴族の旧家であり、代々武に秀でた家系だと記憶していた。
そんな武門の家系が自分に師事とはなんとも貴族には余り見られない行動だった。
「えっと、イーサンくんの流派は烈火だよね?」
「イーサンでいい、一応そうなってるけど代々長いこと先祖様方が改良してきたって話だ」
「そっか、ていうかいいのか?俺なんかに」
「言ってる意味がわからん、俺より強い奴に師事を仰ぐ事を俺は躊躇わん。例えそれが今際の老婆であろうとも俺は教えを乞う」
「いや、今際なら勘弁してやれよ」
テオは少し呆れてそう言う。
「なるほど、でも俺は烈火にそこまで詳しくないぞ?」
「構わない、ジン君には俺と時間があれば手合わせをして貰いたい。そこで気になる事があったらどんなに細かくてもいいから言ってくれるとありがたい」
「そうか、わかった。それとジンでいい」
「そうか、ではそのようにしよう」
「おーい、多分気付いて無いと思うから言うけど誰か置いてけぼりにされてるよ?」
そんな二人の後ろでテオが寂しそうに会話に入ってくる。
「忘れてないさ、よろしくテオ」
「俺は完全に忘れてた」
「ひどい!?」
「イーサン、テオのことは知ってたのか?」
「何度か喋った事がある」
「まじか」
「ジンくらいだよ、俺以外と喋ってるのを見た事がない」
「グッ!テオ明日からお前には特別メニューだ」
「おい!逆恨みすんじゃねー!」
「まぁ冗談はこのくらいにして、今日はもう終わろう」
「了解だ」
「おっけー」
二人もすぐに了承するとジンはリナリー達女性陣に顔を向ける。
「リナリーとノアとカナリアもまた明日にしよう。今日は女性には少し厳しかったかもしれないからしっかりと休養を取るんだよ」
「はい!」
リナリーに続いてノアとカナリアも頷くのだった。
「ただ、すまないがイーサン、俺との手合わせは武園会まで待ってほしいんだ」
「手の内は見せたくないと?」
「いや、そうじゃ無くてね、まるっきりこちら事なんだけど、察してくれすまない」
「構わん。それに武園会でジンに当たるのも楽しみだからな」
「ああ、俺も楽しみにしておくよ」
ジンは、イーサンを高く評価していた。
なぜなら彼はジンの間合いに入らなかったからだ、イーサンは明らかにジンの間合いに入らないように意識していた、それは武人が行う初歩の初歩ではあるがジンが見たところこのクラスでできている人間は見当たらなかった。
(多分イーサンとやり合えば爪どうこう言ってられなくなりそうだ)
それともう一つ。
この二年の修行を経てジンは前よりも敏感に強者の匂いを感じられる様になっていた。
その感が言っていた、イーサンは強者だと。
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