第102話 もう一人の
前の人生には未練はない。
特に特徴も無く、退屈で空虚な人生だった。
その男は地球という国で日本人として生きていた。そして死んだ、事故だっ
そして男は前世の記憶を有して転生した。
さらにはこの世界に置いての優れた容姿に加えて、武の才能と知の才能、二つの才能がある存在として転生する。
そして気づけば、赤ん坊としてこの国、ベータルに生を受けていた。
商家の息子ではあったが三男と実家を継ぐ必要がないとわかると、その男は喜んだ。そこから男は有り余る時間を使って多くのことをした。
勉強は困らなかったなぜなら一度見たものは覚えられるという知の才能があったからだ、そして男は強かった。周りにいた同世代では相手にならない者ばかりだった。
前世の好きだった物語、小説、ゲームのキャラクターが使用していた技も模倣すらできてしまう。
そこから男は怠惰を貪りつつそれなりの修行をして過ごした。娯楽は少なかったが、自分の優れた容姿に近寄ってくる存在は多く、それなりに楽しく過ごした。
そして男は、自分中心にしか世界は回っていないのだと。
自分の都合のいい正義とそれなりの武力を携えて物語は動き出す。
そして十五歳の春、彼はこの国の王立学園に入学した。Sクラスとして。
そして、過去読んだ本のようにその主人公となったように困った女性がいれば首を突っ込んで自分の知識と力で解決した。
一人は偶々、暴漢から助け。また一人は借金を父の力を借りて解決し、また一人は勉強に悩んでいたところを助けて、最後の一人は少し優しくしたらコロッと堕ちた。
その結果男の周りには女子が集まり、男子のやっかみもあったが、今しがた執り行った、武術教師との手合わせで男子達を黙らせたと感じた。
自分の後に試合をした奴がいいアクセントになった。
入学から自分より目立て、鬱陶しいと思っていて、更には超絶美少女クラスメイトの婚約者もいるという。
だが奴は、自分とは真逆の展開で負けた。
(やっぱり、モブはモブか。待っててくれ俺のヒロイン)
男は顔にいやらしい笑みを浮かべるが俯いているためその顔を見たものはいない。
(これは近いうちに、あの子にアプローチでもしてみようか)
男はそう考えると顔を上げて対面している男子を見つめるその顔には先程の醜悪な笑みは消えていた。
そして爽やかに言い放つ。
「さあ!どこからでも来てくれ!」
男はいつか、あの美少女を自分の手に入ると考えてテンションが上がる。
あの妖艶でどこか儚げな唇も、優しくそれでいて見つめれば飲み込まれてしまいそうな瞳も。
彼女こそ自分のヒロインなんだろうと決めていた。
確かに今周りにいる女子達も幸せにする予定だが、彼女は自分の物語のメインヒロインなんだろうと完全に思っていた。
男は疑っていなかった。彼女とその婚約者の関係が政略的な物であると。
彼は勘違いしているのだ。
今、この世界の主人公が自分だと。だが、ここは現実だ。たしかに現実世界での主人公は自分自身だろうが、それは不遇も不条理も理不尽すら襲い掛かる主人公だ。
何もかもご都合主義で進む現実なんてのは存在しない。ある程度の理不尽に折り合いをつけて進んでいくのがほろ苦い現実というものだ。
ただ現状、この男、アーサーにそんな考えなんてものは無かった。
あるのはハリボテの自信と自分に都合のいい世界観と、作り物を引用して自分用に改造した正義という自尊心だった。
これが、転生者アーサーの全てだった。
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