第101話 それぞれの

 サドラーは生徒に休憩を言い渡すと職員室で水分を補給していた。


「サドラー先生」


「団長!」


 サドラーが振り返るとそこに居たのはバーンズだった。


「団長はもうよせ、何年前の話をしているんだ」


「うっ!すみません」


「どうだ、今年のSは」


「まだ、二人しか剣筋を見ていませんが正直、凄まじいです」


「ほう」


「一人はセンスの塊ってところでしょうか、そのセンスに溺れ無いように指導できたらと、もう一人は......」


「どうした?」


「いえ、もう一人は計り知れません、手合わせの意味を理解し、更に言えば現状で最早私より上かと」


「お前よりか?」

 

 バーンズは驚きで昔のようにサドラーをお前と呼称してしまう。


「ええ、それも実力が上であることしかわかりませんでした」


 バーンズにとってサドラーは自分の信頼できる部下だった。この学園に推薦したのもバーンズであったくらいだ。

 その、サドラーが自分よりも上と語る実力者が15歳の子供の中にいると言うのは中々に驚愕的なことだった。


「名は?」


「ジン・オオトリ、ジゲンの息子です。その試験も有利であるはずの攻め手を私に譲るあたり、生意気なあいつの息子と言ったところでしょう」


「!」


 バーンズにとってそれは心のどこかで臨んでいた答えであったと言えるだろう。

 自分の孫の婚約者として、さらに思うところがある少年の名前が上がり、少し上機嫌になりそうになるが、学園長として私情は挟むまいと口に手をやって「そうか」と返すのみだった。

 バーンズはサドラーによろしくと伝えると学園長室へ戻る。椅子に腰掛けて背もたれに体重を預けると息を吐く、サドラーもバーンズを見送ると自分も演習場に戻る。

 演習場に戻るとすでにジンは女子生徒の前にいて男子生徒達が自分に集まってくる。


「では先ほど言ったようにアーサーは皆と手合わせしてもらう。アーサーと手合わせが終わったあとは他に生徒と手合わせしてもらう。では開始しろ」


 サドラーはそう言うとジンに顔を向ける。

 そちらではジンと女子生徒が集まっていた。


「さて、こっちは護身術って話だったけど、どうしよっか?」


「あの、よろしいですか?」


「ん?」


「失礼ですが、私はアーサー様より劣る貴方に何か指導していただく必要はありませんので、失礼いたします」


 そう言うと一人の女子生徒がその場から離れていく。それに釣られて数名が去って行き男子生徒の手合わせを観戦しに行く。

 その場に残ったのはリナリー等と数名だった。


「ん〜まぁ、嫌なら仕方ないか。そんな顔のリナリーは見たくないけど」


「あら、顔に出てましたか?」


「友達が怯えているよ」


「あらあら、大丈夫よ」


 リナリーはいつもの笑顔ではなく、顔に張り付いた笑顔が周りの女子生徒達を氷つかせていた。


「さーて、それじゃ始めようか。見たところ武術の心得がある人は居なそうだけど間違いないかな?」


 ジンの疑問に女子生徒は互いに顔を見合わせて頷く。


「おーけー、それならまずは走り込みから始めようか」


「「「「「へ?」」」」」


 リナリーも含めてこの場にいる女子生徒全員が疑問符を浮かべるのだった。

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