第100話 実技講習

 教師らしき男が演習場へ入ってきたのを見て生徒達はその前に整列する。


「お前達がSクラスだな。俺はサドラーだ、お前たち一年は全て俺の担当となっている」


 全員が黙ってサドラーの話を聞く。


「まずは、君たち一年には武道場を使わせることはない。あれは上級生が使うためのものだ、君達は二年間この野外演習場にて訓練を行う。いいな」


「「「「はい」」」」


 サドラーは全員の反応を見て頷くと話を続ける。


「そして、訓練では基本的に烈火流を教える。そこで聞いて置きたいんだが、他の流派の者はいるか?」


 サドラーの問いにジンは手を上げるジン以外ではアーサーだけが手を上げていた。

 この国では剣の流派と言えば烈火流以外に存在しないためジンたちが異質だった。


「そうか、では、まずお前ら二人の実力を知りたい。この後二人は俺と立ち合いをしてもらう。遠慮なく打ち込んでこい」


「わかりました」


 アーサーがそう返すとサドラーの視線はジンへ向けられる。ジンも頷くことで肯定を表すとサドラーは再度口を開く。


「それと、女子生徒諸君は騎士志望の者以外は護身用の訓練となる。先んじて騎士志望の者は把握しているのでそれ以外の者はまた追って指示を出す。いいな」


「「「「「はい」」」」」


「よし、ではまず、そっちの金髪の君、名前は?」


「アーサーです」


「では、アーサー、来たまえ」


 サドラーとアーサーは少し離れた場所へ行くと対峙する。


「君たちはそこで見学していなさい」


 サドラーはアーサー以外の生徒にそう言うとアーサーに視線を移す。


「さて、君の流派を聞いてもいいかな?」


「俺の流派は二刀流です」


「二刀流、聞いたことはないが、書いて字の如くかな?」


「はい」


「そうか、では誰か彼に木刀を貸してあげてくれないか?」


 サドラーの要求に一人の女子生徒がアーサーの前まで行って木刀を渡す。

 たしか、ハーレムの一人だったとジンは記憶していて、名前は思い出せなかった。

 女子生徒はアーサーに何か言うとアーサーがそれに返答し、顔を真っ赤にした女子生徒がこちらへ戻ってくる。

 その光景に様々な感情が篭った視線が浴びせられる。

 ジンはそれをなんとなく物語を見るように眺めていたが自分を呼ぶ声で我に帰る。


「ジンは聞いたことあるのか?」


「何を?」


 テオがジンに話しかけてきた。


「二刀流ってやつ」


「聞いたこともないな」


 アーサーは両手に一本ずつ木刀を携えて構えを取る。それを見たサドラーも構える。


「どっちが勝つと思う?」


「その質問は見当違いだぞ」


「まぁ確かに普通に考えればサドラー先生か」


「そう言う意味で言ったわけじゃないけど」


「じゃあ、どういう意味だよ?」


「そもそもこの手合わせは勝ち負けを決める手合わせじゃないって事だよ」


「??」


「まぁ見てればわかると思うよ」


「なんだよ勿体ぶって」


 テオはジンの言うことの意味が分からず勿体ぶるジンに不機嫌になる。


「口で言うより見たほうが早いし、後でしっかり説明するよ」


「約束だぞ?」


「ああ」


 ジンは自分より少し背の低いテオに笑いかける、それと同時にサドラーとアーサーの手合わせが始まった。

 サドラーとアーサーの手合わせは一方的な展開だった。

 防戦一方のサドラーに対してアーサーがひたすらに攻めると言った構図で。

 テオその戦闘に釘付けだった。


「すげぇ」


 アーサーの振るう二刀の木刀は目で捉えるのがやっとの速さで正直自分の見様見真似の烈火流では対処できないだろう。それをいなすサドラーも流石と言えた。

 暫く攻防は続いたが結果はアーサーがサドラーの剣を弾き、サドラーの手から剣が落ちることによって終了する。

 場はその結果に騒然だ。教師にアーサーが勝ってしまったからである。勝ったアーサーもキメ顔で先程の女子生徒へ笑顔を向ける。


「勝っちまった」


 テオは思わず漏れた言葉がクラスの雰囲気そのものと言えた。

 ジンはそれを静かに見ていたが木刀を二、三回振ってアーサーとサドラーの元に向かう。

 アーサーと目が合うが特に送る言葉も無いのでそのままサドラーの前まで来る。


「お願いします」


 ジンがそう言うと少し困った顔をして木刀を拾うサドラーが「ああ」と答える。 

 クラス全体は興奮冷めやらぬと言ったところだ。今までアーサーを軽視していた男子もアーサーの勇姿に尊敬に近い眼差しや言葉を送る。そして、ジンがサドラーと対峙したことでまた、クラスメイト全員静かになる。

 ジンは先の大戦で自分たちと同い年にも関わらず戦場に出てしかも、結果を残し、その結果リナリーとの婚約に漕ぎ着けたと言う者もいる。

 噂では敵将一人を討ち、雑兵に対しては無双と言っても過言ではない活躍をしたと聞いている者達も多いのでその実力が今からわかると皆が注目した。


「では、始める。お前の流派を聞こう」


「瞬刃流です」


「そうか」

 

 サドラーは答えを知っていたとでも言わんばかりに頷く。


「では、始めるいつでも来い」


「お願いします」


 ジンは木刀を中段に構えて、地面を蹴る。その一線は縦の上段斬り、皆も目で追える速度の斬撃だった。

 当然サドラーはその剣を簡単に受ける。

 一回の交錯でお互いが距離を取り距離が開く。

 するとジンから攻める気配がない事にサドラーだけが気づく。


(こいつ.......)


 そこからは、またしても一方的な展開になる。今度はサドラーが攻めジンが守ると言う構図で。


「なんだよ、あいつ強いんじゃなかったのか?」


「期待はずれだな」


 男子達はジンとサドラーの手合わせに落胆の声を上げる。


「やっぱり、噂は本当だったのか」


「噂って?」


「あいつの父親が息子可愛さに功績を偽ったって話さ」


「マジかよ」


 それから数分後、ジンの木刀が宙を舞い、決着がつく。

 それはアーサーとサドラーが斬り合っていた時間よりも長い時間が過ぎてからの決着だった。


「はぁはぁ、ありがとうございました」


「はぁはぁ、お前とやるのは二度とごめんだ」


 ジンとサドラーはお互い礼を取ってからジンが元いた位置に戻ってくる。

 その姿は疲労困憊と言った風でクラスメイトは先程の男子の話を真実なのではないかと思った。

 その後息を整えたサドラーがやってきてクラス全員がサドラーに注目する。


「それでは今後の話をする。まずはアーサー、お前は今日から男子達と手合わせをしてもらう。男子生徒諸君はその結果がクラスの結果と思って戦え」


「「「「はい」」」」


 男子は数名はアーサーに対して対抗心を燃やす。


「次にジン、お前は女子生徒の助言でもしていろ。以上!これから正式に授業を開始する。喜べ今日は午後一杯は訓練だ!ではまず十分の休憩その後男子と騎士志望の女子は私のところに集まれ。その他の女子生徒はジン、お前に一任する。では解散」


 サドラーが去って行くとそこに起こったのはジンに対する嘲笑ちょうしょうだ。

 例年騎士志望以外の女子生徒はこの授業を見学するのみである。自己防衛とはただの口実で、その実、女子の視線が有れば男子が気合いが入ると言う理由だけだった。

 二年になれば男子には武官、文官と言う選択があり、忙しくなるが逆に、女子生徒は年を重ねる毎にやる事が少なくなっていく。それは女子は将来、社交の場での身の振り方をここで学ぶため茶会などが増える事に起因している。

 結果として女子生徒と同じ枠に入れられたジンは、自分たちよりも劣る存在だと多くの男子が認識したのだった。

 ジンはそんな嘲笑など気のする事なく近くにある階段に腰掛ける。すると少し不機嫌なテオが近づいてくる。


「さっきの続き、教えてよ」


「なんか不機嫌だな」


「うるせー」


 どうやら自分のことで怒ってくれているんだと気づいたジンはテオが怒っている手前悪いとは思ったが嬉しくなる。

 ジンはテオに隣に座るよう促し先程の続きを話し始めるのだった。


「テオはさ、烈火流とさっき見た二刀流、瞬刃流の共通点て何かわかる?」


「共通点ってそもそも俺は瞬刃流も二刀流も知らないからな」


「それもそうだな、この三つの共通点は攻めに重きを置いた流派ってことだ」


「攻めにって、流派なんて言ってはいるけど結局人を殺す技術だと俺は思ってるからそれはそうだろって感じだよ」


「まぁね、防御の重きを置く流派もあるけどね。それじゃ俺とアーサーの立ち合いの違いは?」


「それはアーサーはひたすらに攻めて、ジンはひたすらに守ってた」


「じゃあ今のを踏まえて、攻めの流派対攻めの流派、戦うならどういう流れになると思う?」


「......お互いに攻め合う」


「そうだな、攻めに重きを置く流派が戦えば攻め合いだ、カウンターはあるがそれが決まらなければもう流れは一瞬で敵に行き取り返しがつかなくなる。んでさっきの戦闘はアーサーが一方的に攻めいていた、つまるところ奴の土俵でサドラー先生は戦ってたってことだ」


「だとしても」


「そう、だとしても先生だ。アーサーは強いよ」


 テオはジンの言葉にやっぱりアーサーは強いのだと言われて納得してしまう。だが、ここでテオは一つの事に気づく。


「ちょっと待てよ?じゃぁアーサーと全く逆をやってたってことか?」


「ん〜まぁお互い本気じゃなかったからな」


「本気じゃなかったって」


「今回俺はサドラー先生に俺の力量を知って欲しかったのもあるけど、ちょっと訳あってな」


 恐らくこの方法をとれば気づく者も少ないとジンは思ったのであの戦い方を選んだのだがどうやら正解だったと少しドヤ顔である。


「マジかよ、お前やっぱすげーんだな」


「最近、自覚はしてきたけど、俺が目指すのはもっと上だからな。止まってらんないから」


 ジンの瞳の力強さにテオは喉を鳴らす。それほどまでに気迫がすごかったのだ。


「さてそろそろ休憩も終わるし行くか」


「なぁ、ジン最後に聞いていいか?」


「ん?」


「なんでそこまで......」


「守りたい物が沢山あるからな」


「今でも十分じゃないか?」


「全然足んないよ、途方もなくね」


「何を守ろうってのさ」


「全部」


「はい?」


「大事に物を、全部守るために俺はまだまだ強くなる」


 テオはジンの言っていることを理想だ、夢物語だと笑い飛ばすことは簡単だった。だがそれをしなかったのは思ってしまったのだ。ジンならできるんじゃないかと。

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