第99話 爪を隠せ

 放課後、ジンはリナリーの強い希望でフォルム家の馬車の中にいた。


「今日は災難でしたね」


「ははは、まぁ仕方がないよ」


 ジンは自分の見た目も相まって扱いには多少仕方がないと諦めている節があった。


「私は納得いきません!」


 頬を膨らまして可愛く起こるリナリーにジンは微笑を浮かべながら膨らんだ頬に指を立てて空気を抜く。


「あう」


「それよりも朝はどうしたの?」


「それが、朝校門でお二人にお会いして、昨日の話の続きがあると言われましたが、私はお断りしたんですけど」


「そっか、何かあったらすぐに言ってくれ、何とかするから」


「はい!」


 先程の膨れっ面はどこへ行ったのか、リナリーは満面の笑みで答える。

 ジンは自宅まで送ってもらいリナリーと別れて家に入る。

 フォルム家の馬車が見えなくなるまで見送ってから踵を返すと門番に止められる。


「若様、お客様が来られております」


「俺にか?」


「はい」


「一体誰だ?俺に客なんて」


「自分はお客様としか言えません」


「ああ、なるほど、わかった。ありがとう」


 ジンは門番の反応を見て誰だか大体把握したため特に気にすることなくいつも通りの足取りで玄関へと向かう。

 ジンが家に入るとジョゼが近寄ってきて門番と同じことを言ってジンを部屋まで先導する。

 

「こちらです」


 ジンが案内されたのは客間だった。


「失礼致します」


 ジョゼがそう言って部屋に入るりジンがそれに続くと中にはロイとセバスチャンがいた。


「やぁ、ジンは」


「珍しいな、お前がこっちに来るなんて」


「少々急ぎでね、書状どうこうを省かせて貰った」


「そうか」


 ジンは驚くことなくロイの対面の椅子に座る。

 この部屋は大和式なオオトリ家で唯一王国式の部屋となっている。


「それにしても驚かないのだな」


「俺に客なんてお前くらいしかいないからな」


「.......」


「いや黙るなよ」


「大丈夫だぞ、ジン、俺はずっとお前の友達だ」


「慰めんでよろしい」


「ははは」


「そういえば、昨日は助かった。お前が治めてくれなかったらもっと荒事になってたかもしれない」


「気にするな、こっちこそ愚弟が迷惑をかけたな」


「いや、そんなことは......あるか」


「ははは」


「それで急ぎの用事ってのは?」


「それなんだが、お前生徒会に入れ」


「はい?なんだよ藪から棒に」


「俺の側近は大体生徒会に所属している。が、一年で今のところ生徒会に入れる予定になっているのはリナリー嬢とドールの二人だ、そこに割って入って欲しい」


「いや簡単に言うが、中々難しんじゃないか?」


「そうだな、だが幸いなことに五月に武園会、学年の部がある」


「なるほどそこで結果を出せと?」


「そうだ。だが、それまでは爪を隠せ」


「なんで?」


「お前が武園会前に強敵と解れば、ドールあたりは何か実力以外の手段を講じるかもしれん」


「あぁ、なるほど。たしかにやりかねねーな」


「だろう?だから爪を隠せというわけだ」


「それはわかったが、俺が生徒会に入る意図が分からん」


「それに関して言えば実績作りだ。俺や父上や丞相の考えでは早くて一年、遅くとも三年後には共和国が仕掛けてくるだろうと読んでいる。そこにお前を組み込むとなると、先の戦の功績を考えれば申し分は無いのだが、それが通用しないのが今の貴族社会だ」


「なるほどな、一年で王太子や侯爵家を退けて生徒会に入れば口実としては立つということか」


「その通りだ」


「なら仕方ないか、了解した」


「すまんな」


「ん?」


「また悪目立ちすることになる」


「今更だよ。それにどんな形であれ目立たないよりかはいい、お前の隣に立つにはちょいとばっか飛ばさないと行けなさそうだしな」


「過大評価しすぎだ」


 どこか困った用に笑うロイにジンは心の中でそんなに過大評価な訳でもないだろうと思う。


「では、俺は要件を伝えたからな、帰るとする」


「ああ、そうだ、俺もひとつ用事があったんだった」


「ん?」


 ジンは立ちあがろうとするロイを呼び止めるとジンが部屋を出て行き暫くして戻ってくる。

 ジンの手には一振りの刀が握られていた。一瞬深読みしたセバスチャンが目を細めるがそれをロイが目で制す。


「今日の朝届いたんだけど、ほれ」


 ジンはロイにその刀を差し出すとロイはそれを受け取る。


「師匠から送られてきた」


「ガクゼン様から?」


「一応、お前も弟子だからって」


 ロイは渡された刀を抜くとその刃文次に鋒と見ていく。

 それは互の目に乱れ込みだった。


「俺のもらった刀と一応、二振一具ふたふりひとそなえって言うらしい。手紙にはそう書いてあった」


「そうか......だが、これは見ただけでわかる。名刀と呼ばれるものだろう。これを俺が扱える自信はないぞ」


「ん〜、師匠の手紙には最後に一文『精進せよ』って書いてあったぜ」


「そうか、それはそう言うことか」


 つまり見合う実力になれという事だろう。とロイは理解する。


「まぁ落ち着いたら俺が稽古をつけてやるよ」


「ぐっ!いや、ジゲンに頼む」


「なんだよ、別にいいじゃねーか。変な意地張ってると強くなれないぜ」


「こういう時に正論を言うな」


ロイはジンと対等でいたいがためジンに何かを教えられることに抵抗があったのだ。


「はぁ、しゃーねーな。そんじゃ今度勉強を教えてくれ、Sクラスの勉強は異常に早いからな」


「むう、それならば了承しよう」


(まったく)


 変なところで意地っ張りなロイにジンは苦笑する。セバスチャンを見ると同じような笑みを浮かべていて、二人が目が合う。

 こうしてロイは帰路にいたのだった。

 それからは何か特筆したこともなく一週間が過ぎ、等々実技講習が開始する。

 ジンは木刀と革鎧を着て、テオと共に演習場へと向かっていた。


「にしてもあれはなんだ?」


「さぁ、一週間であれよあれよと言う間に増えてった」


 ジンとテオの眼前にあったのはまさにハーレムと言った光景だった。

 その中心にいるのがアーサーで周りには四人の女子がアーサーを囲むような形で目の前を歩いている。その中にはリナリーの友達である、ノア・ダーズリーもいた。


「なんかお前が目立ったの最初の二日だけだな」


「あいつには悪いが有難いけどな」


 学園生活三日目からジンよりも目立ったのはアーサーだった。

 三日目は特に目立つことはなく終わり四日五日と変わらなかったが徐々にアーサーの周りには女子生徒が集まりだし、気づいたら四人の女子が毎回アーサーの周りにいると言う状況だった。

 その結果、アーサーは中々に目立つ生徒になった。周りにいるのが容姿のいい女子四名と言うのもあったが、一番は『平民』と言うのが原因だった。


「まぁ、本人は楽しそうだしいいんじゃないか?」


 テオが言う通り、アーサーも満更では無く、正直傍はたから見ればデレデレで、男子からは鋭い視線を浴びていた。

 ジンとしては余り気にしていない。が、最初のクールはどこに行ったのかだけが疑問だった。


「まぁ、良かったじゃないか、言い方はちょっと悪いが、アーサーがいるからお前が目立たない」


「たしかに、やっぱりそう言うことだよな」


「流石にな、俺でも気づく」


 ジンが言っているのはクレアの事だ、最初こそ遠慮している部分はあったが、一週間も過ぎればその遠慮はなく明らかにテオにアタックしている。


「まぁ、いつでも相談に乗るからさ」


 平民と貴族が恋仲になるのはいつも物語の中だけで現実でそれをするのは中々に難しい事だ。だが、Sクラスの平民ならなんとかならくはなかった。


「ありがとう。早速で悪いけど放課後にでも頼む」


「早速だな、わかった」


 二人の話が一段落つく頃に丁度、実演習場に到着するのだった。

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