第98話 敵ばかり

 ジンは夜会の次の日、朝のホームルーム前にテオと駄弁っていた。


「昨日は災難だったな」


「本当にな」


「ロイ殿下が止めてなければもっと大事になってたろうからな」


 ジンは昨日のことを思い浮かべる。


「その辺にしておけ」

 

 ジン達に割って入ったのはロイだった。


「今日この場は君たち新入生の歓迎会という場ではあるが、好き勝手にやって良いわけでは無い。節度を持て」


 ロイにそう言われれば誰も何も言えない。唯一反応できるのはドールだがドールも先程のリナリーの行動で魂が抜けたように呆けていた。

 そのため結局はこの一言で解散となりその後顔を真っ赤に染めたリナリーとは会話ができずに夜会は終了となった。


「それにしても、お前のお姫様はすごいな、まさかこの国の伯爵、侯爵、終いには王子まで籠絡するとは」


「言い方!なんだよ籠絡って」


「でも間違ってもいないだろ」


「はぁ、まさか殿下に続いて、しかもゾールとコールって」


「なんか因縁がありそうだったな」


「まぁ色々とな.......もうこの話はやめよう、憂鬱になる。それでそっちの方はどうだったんだ」


「うっ、わからねぇ、ただ名前を呼び捨てにしたら機嫌が治った」


「俺の言った通りじゃないか」


「乙女心は難解だ」


「違いないね」


 二人は窓の外を見つめて同時にため息をつく。

 そのタイミングでリナリーが教室に入ってくるがその横にはドールとコールがいた。

 ジンはもう勘弁してくれと心の中で吐き捨てながらそれでも行かざるを得ないのでリナリーに近づいていく。

 ジンがこちらに向かってくるのを視界で捉えた三人は表情を変える。

 リナリーはジンを見て顔に明らかな喜色が浮かび、ドールとコールは対照的な表情をする。


「おはよう。リナリー、それと殿下とコールも」


「おはようございます!」


「「ちっ!」」


 ジンは二人の舌打ちを無視してリナリーの顔色を伺う。

 昨日はあれから一言も喋ることなく別れてしまったので一日経って元に戻ったリナリーにホッとする。


「ホームルーム始めるぞ」


 扉の前を占領している四人の後ろからホームルームにやってきたエドワードが声をかけてそれぞれが席へと向かう。

 リナリーに後で三人できたわけを聞かなきゃなと思いつつジンは自分の席へと向かうのだった。

 エドワードは全員が席についたことを確認すると出席を取りホームルームを始める。


「まずは諸君、昨日はお疲れさん。色々あったとは聞いているが無礼講ということで今回は言及しないが、時と場所には気をつけたまえ」


 エドワードはジンとドールなど昨日、騒ぎを起こした者達へ視線を向けて軽く注意する。


「さて話を戻すが、今日から正式に授業を開始する。まずは一週間は座学となるだろう、一週間後君達の革鎧が届き次第実技講習も始まる。心して置くように」


 全員が頷くのを確認してエドワードは教卓に開かれた出席簿を閉じる。


「では、朝のホームルームは終わる。各担当の先生とは初めてだろうがしっかりやりたまえ、以上」


 こうして朝のホームルームが終わり本当の学園生活が始まるのだった。

  授業開始の初日は歴史の授業で終わる。

 その授業が今始まろうとしていた。

 一人の男性教諭が入ってきて教卓の上に手をつく。


「はじめまして、諸君。私は栄えある王立学園の教師である、レペレンス・コナーである」


 コナーがそう名乗るとテオがジンに少し顔を寄せて小声で喋りかけてくる。


「レペレンスって言えば選民思想代表みたいな教師だって寮の先輩が言ってたぜ」


 コナーは教室を見回してジン達を視界に入れると心底嫌そうな顔する。


「まぁ、私が教える価値のない下賎な輩も混じっているようだがな」


 ジン達をしっかりと見てそう言うコナーは誰に言ったのかクラス全体が理解する。


「まぁ、学園の決まりではあるからこの場にいることだけは許そう。それでは始める。まずはこの国の成り立ちから.......と言いたいが、そうだな今日は初日でもあるし少し余談をしようか、ドール君最近あった戦争といえば何かな?」


 指名されたドールはその場に立って発言する。


「はい、帝国によるタイラン大侵攻です」


「その通りです。さて彼の侵攻はなぜ起こったのか、デネブ君」


「はい、帝国は四方との戦争による資源枯渇の結果国を上げて我が国に攻めてきたと記憶してます」


「その通りだ、さてここで問題になってくるのはこの戦争の決着です。結局この戦争は和平という形で終戦したわけですが、何故そのようになったか、コール君わかるかな?」


「はい、帝国は三万という兵を養うだけの兵糧を尽きていながら、どこぞの腰抜けが陛下に和平を求めたからであります」


「素晴らしい、まさにその通りです!」


 ここでジンは今日の授業の趣旨について理解する。


(なるほど、俺の吊上げってか)


「息子かわいさにその功績を偽り、更には陛下に和平を進言するという分不相応な行動をした何処ぞの詐欺師がいたわけです」


 教室には何かを嘲笑うような空気が流れる。

 一部納得のいかない顔をしている者達もいる、特にテオは今にも爆発しそうなほど顔を真っ赤にしていた。

 それをジンは肩に手を置いて爆発しないよう制御する。


「さて、そこのお前、今の話を聞いてどう思うか言ってみるといい」


 コナーはジンを刺してそう言うのでジンは仕方がなくその場に立つと発言する。


「そうですね、私から言えることは特にありません」


「ふっ、腰抜けが、親が親なら子も子だな」


 ジンはその言葉に冷静な心の中の自分が一瞬で失せる。


「ですが、言わせてもらうのならば、戦場にすら出ていない者たちに何を言われようが現場を見てから言えと思ってしまいますね」


「貴様......!」


「それにあなた方は理解していない。帝国という大国の恐ろしさを、あのまま戦争を続けていればどちらかの国が滅ぶまで泥沼の戦争が起きたでしょう、いくら資源が不足しているとは言っても帝国は大国です。そのことを些か軽視しているように思いますが?」


「帝国なんぞに我が国にが負けるとでも?」


「そうですね、先の戦争状況であれば負けていた可能性が高いでしょう」


「それは戦場にいる者の責任だろうが!」


「そうですね、なので落とし所を見つけたんです」


「減らず口を!そもそも貴様ら平民騎士団が独断で動いた結果だろうが!」


「ではお聞きしたい!」


 ここで話に入って来たのはテオだった。


「なんだ、平民」


「レペレンス先生ならどうしていたのでしょうか?」


「なに?」


「もし先生が先の結果をより良い結果へと導くのならどうしていたでしょうか?」


「バカを言うな、私は貴族であって騎士ではない、その議論に意味を持たない」


「ならば、あなたに戦争を終結させた者にとやかく言う資格はない」


 ジンはテオの言葉を継いでそう告げる。


「私はただ自分の考えを交えた歴史を話しているだけに過ぎない」


「ははは、それは教師にすることではないんじゃないですか?あなたがしているのは戦争評論であって歴史の教えではない」


「その通りだな」


 そこで話に入ってきたのは学園長であるローバスだった。


「学園長!」


「レペレンス、君は教師だ。それも歴史のな、歴史の教師が自分の考えを持って話し出せばそれは間違っていようが、学ぶ生徒からすればそれが事実になってしまう、そのことを忘れてはならないと思うが、どうだね?」


「くっ!その通りかと」


「わかってくれて嬉しいよ、さて邪魔したな授業を続けてくれ」


 バーンズは教室から出て行こうとしてジンに顔を向けるとウインクをして教室から出ていった。

 ジンは慌てて頭を下げるとバーンズは満足そうに退室していった。

 その後は何もなく国の始まりから授業が始まり問題なく終了するが、レペレンスは教室を出ていくときにこちらをずっと睨んでいた。

 ジンはなぜこうもポンポンと敵が増えていくのかこの貴族社会は生きづらいなと心の中でため息をつくのだった。

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