第97話 カオス

 ジンがリナリー達がいるであろう場所に近づくとその場では予想できない光景があった。

 なんとリナリーの前に三人の男が膝をついて手を差し出していた。リナリーは三人の前で心底困った表情をしていた。

 ジンはその三人中二人は見覚えがあり、どうしてこうなったのかなんとなく察して人集りの中心へ入っていく。


「これはどういうことでしょうか?」


 ジンが三人とリナリーの間に入って三人に何事かを問う。

 ジンの服の袖を掴むリナリーにジンは大丈夫と言う意思表示のために袖にある手を握る。


「貴様は下がっていろ、この場に相応しくない」


「その通りです。あなたはそもそもここにいる事すら憚られる存在だ」


 最初に言葉を発したのはドールで次に続いたのはコールだった。皇族であるドールは生徒達の挨拶がすめば一人の生徒である。当然パーティの参加資格も持っている。

 コールも同じクラスであるためここにいる事は当然ではあるのだが、なぜこの状況なのかを全くもって説明する気がなさそうだった。


「殿下、コール、相応しいかそうで無いかを問うのであれば、リナリーの婚約者である私はこの場で最も相応しいので無いでしょうか?」


「忌子が......」


 コールのボソッと言った言葉にジンは何も感じなかった。自分が大事に思っている人間以外からの誹謗中傷については最早何も感じない。なぜならそれは幼少期、ジンの日常だったのだから。

 だが、リナリーはそれを許さない。

 リナリーがコールに対して怒りをぶつけようするよりほんの少し早くに会話に割って入る存在がいた。


「なに?貴様はリナリーの婚約者だと?」


 そこで話に割って入ったのはジンが三人で唯一知らない男だった。

 少し小太りでドールと体型的にはほとんど一緒であり、茶髪に黒目の平凡な男だった。

 特徴といえばその体型と少し癖がつおい髪質くらいだ。

 リナリーを呼び捨てにしたことに多少カチンときたジンだがグッと堪えて冷静に言葉を返す。


「その通りです。私は彼女の婚約者です」


「俺は聞いていないぞ!」


「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


 ジンはクラスメイトは大体覚えたと思っていたがその男の事を知らなかったのでそう訪ねた。


「なに?貴様私を知らないとは飛んだ無知だな」


「申し訳ありません。こう言った場は初めてでして」


 ジンはその男の尊大な態度にどうやら身分的には中々の家の出だと思い下手に出る。

 この場ではジンが階級的には一番高いのだが、出来ればジンもあまり角は立てたく無いのだ。


「ふん!俺はゾール・バスターだ、よく覚えておけ忌子が」


 ジンはその名前に驚く。目の前にいるのは双子だった実の兄であった。

 ジンが驚きで黙ってしまうと、ゾールはジンを無視してリナリーに話しかける。


「リナリー、俺は婚約者なんて聞いていないぞ?」


 当たり前のように言うゾールに周囲は若干引き気味である。

 それに参加するのはコールとドールである。


「その通りです。貴女のような美しい方がこのような、いえ失敬、つい本音が」


「そう言ってやるな、ゾール、コール、流石の私も此奴が可哀想になってくるわ」


 さっきまで軽くいがみ合っていた三人は共通の敵を見つけて団結する。

 尚、ジンの耳には何一つ入ってきていなかった、正直再会はするかもと思っていたがこんなに早くと心底驚いているのだ。だが、全部聞こえている人物もいる。それがリナリーだ。

 リナリーは心の底から湧き上がる怒りで頭が沸騰していく。

 どうすれば良いかの判断がままならず、ただジンを悪く言う彼らに謝って欲しかったが、それを望んでも実行されないと心のどこかに冷静な自分がいる。

 ならばと、リナリーは思い切った行動に出る。


「ジン様は!私の婚約者です!」


 そう言うとリナリーはジンの前に出て振り返り背伸びをしてジンの頬にキスをする。

 この日会場が一番騒がしくなった。

 この行動にはジンも三人も周りの人もド肝を抜かれた。


「リ、リナリー?」


「ジン様を悪く言わないでください!」


「ジンだと?!」


 リナリーの行動と一言でゾールの頭は混乱の嵐だ。

 そもそもなぜこうなったかと言えばゾールはAクラスという侯爵家としては不名誉なクラス分けをさせられたのが今日この日で、更には夜会にて幼い頃から淡い恋心を抱いていたリナリーがそれはもう天使と見紛うほどの美しさで談笑しているのを見つけて喋りかけに行こうとすればナーダルト伯爵の息子のコールがリナリーに求婚しているところだった、それを見て暴走の末求婚、それを見ていたドールも神速の速さで駆けつけて同じく求婚。

 夜会はカオスな状況、そこへ一人の男が割って入りその男は黒髪黒目の忌子でありながら自分はリナリーの婚約者だと言う。更には侯爵家である自分を知らないとのたまう。

 自分が無礼な男に名乗ったところでリナリーが急にその男にキスをして過去自分の弟として存在していた忌子の名前を言う。

 正直何から手をつければ良いかわからなかった。

 そこにさらに割って入る存在が居るのだった

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