第94話 敵意

「ほほほほ本日の夜会......エスコートしていただけますか?」


 ジンは言葉が進むにつれて顔を真っ赤にして行くリナリーに頬が緩むのを感じながらリナリーの席へと歩いて行く。

 最早二つの視界にドールなど入っていなかった。

 ジンはリナリーの前まで歩いて行き膝を突きリナリーの手を取って言う。


「喜んで」


 二人の姿を見たクラスメイトは様々な反応をする。

 リナリーを羨んで気になる男子生徒を探す女子生徒、リナリーに気があるであろうドール含む男子生徒、自分は誘われるかどうか不安でキョロキョロしだす男子生徒、反応は様々だった。

 リナリーが顔を真っ赤にして席へ座ってしまったのでどうやらショートしてしまったらしい。

 ジンはリナリーの席の左右に座る女子生徒に彼女をお願いします。と伝えて席へ戻る。


「なんだか凄いことが起きてるね」


「波乱だな」


 テオにそう言われてサラリと返すジンだが次はテオに迫られる。


「それより!オオトリって!オオトリってさっき言ってた!!」


「お、おう」


 興奮のあまり幼少のような喋り方になってしまうテオにジンは体を引く。


「なんで言ってくれなかったのさ!!」


「えっと、言うタイミングがな」


「これじゃ俺が馬鹿みたいにじゃないか!まさか救国の英雄の前で自分の浅はかな知識をこと自慢げに披露していたなんて!」


「そんな事は思っていない、俺はあの話に心から感心したよ」


「え?」


「俺にはない発想だった」


「マジ?」


「ああ、正直俺は友達が少ないからな、これからも友人でありたいと思ってる」


「嬉しいよ、憧れの人にそう言ってもらえるのは!」


「やめろよ、背中が痒くなる」


 テオとジンの会話はあまり聞き取れなかったがこの光景をほんの一部の女子は目に焼き付ける。

 そんな二人に喋りかけてくる女子が一名。


「はじめまして、クレア・レインフォースと申します」


 ジンはレインフォースと言う家名に聞き覚えがあった。


「レインフォースって、セシルさんの」


「セシル・レインフォースは私の姉です。ジン様のことは姉から伺っております」


「様はよしてくれ、これからはクラスメイトなんだから」


「それではジン君と呼ばせて頂きます」


 クレアを見たジンはその姿に驚いていた。

 なぜならクレアとセシルではにても似つかない点が多く合ったからだ、セシルは言葉は悪いがよくて中等部女子と言われるほどの体躯なのに対してクレアは十五歳のしては大人びた体型と容姿をしていた。

 ある一部は家系を思わされたが、それをジンはおくびにも出さなかった。


「こっちはテオだ、平民ではあるけど俺の友人だ。よろしくしてあげてくれ」


「はい、よろしくお願いしますね、テオ」


(テオは呼び捨てなんだ)


 ジンはそんなことを思っていると固まってしまっているテオを不思議に思い、脇を小突く。


「はっ!えっと!先日ぶりかな?」


「え?」


 急にそんなことを言うものだからジンはびっくりしてしまう。


「知り合いなのか?」


「......ええ」


 なぜか歯切れの悪いクレアに不思議に思ったジンだが、言いたくなさそうなので話を変える。


「まぁいいか、どうやら俺じゃなくテオに用事みたいだしこいつは差し出すよ」


「え?ちょっと待てって」


「ありがとうございます」


「いいか、テオ。男は女と母親の前ではどれだけ体を鍛えようが勉学に励もうが無力なんだよ」


「なんだその悟りを開いた様に装った裏切りは!」


「さらばだ!俺は愛する女性の元へ行ってくる!」


「馬鹿野郎!逃すと思うか?たとえ不敬罪になろうとも行かせはしない!」


「テオ?」


「はい!」


「私と二人でお話しするのはそんなに嫌なことなのですか?」


「そんなことあるわけないさ......ただ君が貴族だなんて知らなくて」


 目が泳ぎに泳いでいるテオの隙を見て二人の間をするりと抜けるジン。


「では、お二人さん!俺はこれにて!」


 同じ教室なので視界の端には映るが、さすがはSクラスと言ったところか広い上に夜会の話で至る所から会話が聞こえて来て、少し離れれがば二人の会話は聞こえなくなった。


(まぁ、近いうちにテオから相談されるだろ。それより今は)


 ジンはリナリーがまだ復旧していないことをと遠目で確認して、クラス全体を見渡す。


(ドールが敵意を向けてくることはわかっていたが、ロイのお付きだかなんだか知らねーが、なんでコールも似たような視線を向けられにゃならんのだ)


 前に会った時からあまり良い印象はなかったが、流石に恨まれる様なことをした覚えのないジンは自然とため息が出てしまう。

 ジンはそれからリナリーが復旧するまでクラスの雰囲気を感じることに専念した。

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