第93話 波乱

 エドワードがジン達が席についたのを確認して教卓に手をついて今後の話を始める。


「今日はこの後親睦会として一時間自由時間を与える、それが終われば帰宅、その後新入生歓迎のパーティーがある。女子生徒の諸君はこの一時間の間にエスコートする男子を選んでおけ、男子生徒は複数の女子生徒の誘いがあれば選ぶ権利を与えるが基本的に女子生徒の誘いを断る事は許さん。これは伝統だ、しっかりと守るように」


 基本的に二、三年になれば男からエスコートするのが基本だが一年の最初は女子からエスコートを頼むのが謎の伝統となっていた。


「質問です」


「なんだ」


 一人の男子生徒が手を挙げてエドワードに質問する。


「男子から誘ってもよろしいのでしょうか?」


「基本的には女子からが通例だ。断られてもお前達のメンツの補償はしない、それでもいいなら誘うといい」


 つまり、男の誘いを断るとは、という難癖をつけて、事を荒立てるなと言う事だろう。とジンは認識する。


「では、私は今後の予定を他クラスの先生方と喋らねばならんからな、この学年の象徴たる君達に後のことは任せる」


 そう言ってエドワードは教室から出て行く。

 エドワードが教室から出て行くと同時に一人の男子生徒が声を上げる。


「ジン・オオトリ」


 ジンはその人物を見てため息を吐きたくなるがグッと我慢して返事を返す。


「なんでしょうか、殿下」


 その人物はドールだった。


「貴様は今回のパーティは欠席しろ」


「それはどうしてでしょうか?」


「この私がそう言っているのだ。貴様は従え」


 クラスの空気は一瞬で最悪だ。

 ドールの言葉に、ジンがドールに目の敵にされていることが一瞬でわかるクラスメイト達、その反応は様々だ。


「えっと、なぜ私が殿下に従わなければならないのでしょうか?」

 

 ここで驚いたのはテオ等も含める他の生徒だった。


「なに!?貴様!そんなものは私が王子で貴様は平民だからだ!」


「大変分不相応ではありますが、私には名誉男爵という身分が御座います。現状爵位の上では殿下よりも格上に当たります。ですがここは身分を極力排除した学園です。どちらにしても私が殿下の言葉に従う意味もございません」


「貴様!分不相応だというなら、その爵位返還すればいいだろう」


「返還など、あり得ません。この爵位は陛下から頂いた恩寵なれば、これを突き返すのは陛下へ大変無礼でありましょうから」


「減らず口を!」


 この喧嘩は完全にジンの勝利だった。ドールが尚も口を開こうとするがそれを割って入る人物がいた。


「ジン様」


 その声にクラスメイト全視線がそちらを向く。


「リナリー?」


「ジン様、殿下とお戯になるのは大変喜ばしい事ですが、まずは私に一言あるべきではありませんか?」


(まずい!なぜかわからないが、リナリーがご立腹だ!)


 この瞬間ジンにとってはドールの事がどうでも良くなった。

 それよりも目下もっか解決するべき事案が発生したからだ。


「えっと、すまない」


「私が何に怒っているかお分かりになりますか?」


「正直検討がつかない」


「なぜ今日!一人で学園に来てしまわれたのですか!」


「え?」


 ジンの驚いて出た声と同時にクラスメイトも同じ声を出す。


「どうせなら迎えに来てくださってもいいではありませんか!」


 まさかな理由で怒っているリナリーにジンは右手で顔を覆う。


「いいかいリナリー?今日君が俺の家の馬車で来ればフォルム侯爵家の顔に泥を塗るようなものだ、それはわかるね?」


「わかります!ですが声くらいかけてくださってもよろしいではありませんか!」


「それは俺だってできる事なら君と登校などしたいが、もし俺が君の家に泥を塗り婚約を破棄でもされた時を考えてくれ、俺は一生悔やむ」


「そんな事はあり得ませんが、一生ですか?」


「ああ、一生だ」


「そうですか......一生ですか......今日のところは許します」


「えっと、明らかに俺が言ってることが正しいとおも」


「それではジン様!」


 食い気味にジン言葉を遮ってリナリーが前に出る。

 ジンはどうやらリナリーは久しぶりに会えたことで少し暴走気味だと考え、これは後で何かしらのフォローをしないと行けないと思う。

 最近、わかったことだが、どうやらリナリーは天然の気があり、それを後になって後悔するという非常に可愛らしい癖があるとジンは認識している。

 なので今回もジンは笑ってリナリーに返事をするのだった。


「なにかな?リナリー?」

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