第88話 水入らず
ジンはその日の夜、風呂に入りながら一人で今後の計画をなんとなく考えていた。
「とりあえず学園に行けることは決まったし、明日明後日にでもリナリーのところに顔を出して......ロイにも一応挨拶しとくかぁ」
ジンは脇に置いて置いたタオルを頭に上に乗せると肩まで湯に浸かる。
「にしてもあの爺さんはやばかったなぁ、この二年で成長した自信はあったのに上には上がいそうだ」
ジンとゼワンの手合わせは完璧な引き分けだった。だがジンも真剣な立ち合いならば同じ結果になるなんて甘いことは考えていなかった。
「あの構え方は明らかに大楯ありきの構え。しかも横薙ぎの一線を突きで返してくるあたり獲物はスピアか.......厳しいな」
完全な引き分けと言ってもジンは自分の刀に近しい剣の木刀で相手は全く違う武器の形をしていた間合いも何もかも違うだろう。それをあそこまで完璧に返されれば、さすがのジンも少し凹んだ。
「まぁ騎士団の団長だしな、親父殿と肩を並べる実力者だと思おう」
風呂の湯を口の空気を押し出してブクブクと鳴らしながら呟く。ちょうどその時風呂に乱入者がきた。
「邪魔するぞ」
「兄さん!!」
それはジゲンとリュウキだった。
「どうしたの?二人とも」
「久しぶりに帰って来たんだ。親父の背中くらい流せ」
「それはいいけど、リュウキまで」
「食事の間だけじゃ話し足りないもん!」
リュウキは少し頬を膨れて抗議するためいくつになっても弟が可愛いと再認識するジン。
「それじゃ話の続きと親父殿のでかーい背中を流しますか」
ジンがそう言って湯船から勢いよく出ると二人が固まる。
ジゲンとリュウキはジンのある一点を見つめて口を揃えて言う。
「「青龍」」
「くだらないことを言ってないで早く座ってよ」
ジンはため息をついて話を受け流すと、洗い場を指差す。
この家のどこに一番お金が使われているかといえば浴場だ、男三人が余裕で一列になって背中を流す構図も難しくはないため、ジンがジゲンを、リュウキがジンの背中を一列で洗い始める。
「リュウキ?俺は一度洗ったよ?」
「いいんです!」
何がいいのかわからなかったがジンはそれ以上何も言わずに甘んじて受け入れることにした。
「さてジン、来月から入学という運びにはなったが、お前は刀の修行ばかりでそのほかの常識に中々疎いとジャスがこぼしていたが問題ないか?」
「正直、試験の社交と礼儀作法はやばかったね」
「そうか、ならしっかり学んでこい。学園はお前の未来への通過点ではあるが素通りしていいわけではない。しっかりと学び、失敗し、分かち合い、一歩ずつ進め」
「.......わかったよ」
「それと入学までにジャスがみっちり詰めると言っていたからな、覚悟しておけ」
「そんな大袈裟な、一応は合格したんだし」
「ジャスがああなったら逃げ道はないぞ」
「親父殿?」
「なに、骨は拾ってやる」
「嘘だろ!!」
「すまんな、ジン、無力な父を許せ」
ジゲンは大きんだか小さいんだかわからない背中で頷くとそれ以上は何も言わなかった。
そこから諦めたジンはリュウキの修行の話を時折相槌を打って聞いたのだった。
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