第89話 変わらぬ関係
ジンはそれから数日後、フォルム侯爵家へ訪ねてもいいかといった手紙を出していたが返事が返ってきて、今現状王都には居らず、家族で旅行に出掛けているとのことだったので、ジンはどうするか自室で考えていた。
「ん〜、こうなると家で鍛錬する以外なくなるんだよぁ」
ジンはここ数日、勉強に次ぐ勉強でリナリーと言う癒しがないことに心の底から落胆していた。
「まぁいいか、ロイにでも会いに行くか」
そしてジンの選択肢としてフォルム侯爵家へ行くことができないとなれば自ずと選択肢は三つほどに絞られてしまう。
(会いに行くかで会える王太子も、まぁ珍しいけど)
これはジンが特別なだけだが、あまり深く考えていないだけだった。
ジンは支度を整えて家を出る。
一時間もすれば城につきだいぶ昔のロイからの招待状を門番に見せて入る。
「いやぁ、ここは何度来ても広いな」
メイドに連れられながら独り言を呟いているとある男性と鉢合わせる。
それはジンも見覚えがある男性だった。
「セバスチャンさん」
「覚えていて下さったのですね。私のことはセバスとお呼びください」
「ではセバスさんと」
「はい、殿下に会われに来たと伺ったのですが?」
「えっと、まずかったですか?」
「いえ、殿下もジン様がいらしゃったと聞いて喜んでおられました。どうぞこちらに」
セバスチャンはメイドに目配せをするとメイドは何も言わず頭を下げて去っていく。セバスチャンに連れられていつもとは違う部屋の前で止まる。
「殿下、ジン様がいらっしゃいました」
「入れ」
扉の向こうから帰ってきた声はすっかり声変わりしており、低い男性の声だった。
ジン達が部屋に入る。
「よく来たな」
「わるいな、急に」
「いいさ、今日はどうしたんだ?」
「いやぁ、暇で」
「ふふ、お前くらいだよ、暇だからと俺を訪ねて来るのは」
「俺もお前くらいしか暇だからって遊びに行く相手もいないしな」
「そうか、ひとまずは座れ。立ったままじゃ疲れるだろ。セバスご苦労だった下がって良いぞ」
「では、失礼致します」
「それじゃお言葉に甘えて」
セバスチャンはジンとロイに会釈をすると部屋から退室して行く。
「それでどうだった試験は?」
「ああ、ぼちぼちだな。なんでかわかんねーがゼワン団長と手合わせする事になるしな」
「どうだった?」
「流石の一言だよ。国防の要、王国の盾の名は伊達じゃなかった」
「そうか......届きそうか?」
「背中は見えた」
「流石だな」
「てか、驚かないってことは、さてはお前の仕業だな?」
「そんなことはない。ちょっと煽っただけだ」
「やっぱりか」
「まぁその話は一旦置いといて、一つ面白い話を聞いてな」
「ん?」
「学園から上がった報告でお前以外に騎士を退けた者がいるらしい。しかも平民でな」
「そいつはやるな」
「だがそれだけじゃない。テストでも満点に近くを叩き出したらしい」
「マジでか?それ本当に平民か?」
「ああ、どうやらそうらしい。平民初のSクラス特待生として迎えると学園側は決定したらしい」
「はええ、すごい奴もいるもんだな」
「そこでだ、使える人間なら是非俺の味方になってもらいたいと思っている。だからジン、お前が見極めてくれ」
「まてまて、そもそも俺の成績じゃSクラスは無理だと思うぞ?武術での成績には自信はあるが、それ以外が及第点ギリギリだと思ったんだが」
「問題ない。俺がねじ込んだ」
「おい!
「問題なかろう、武術以外はなんとかしろ、それにお前と同い年の者達はドール側に傾きやすい。お前の目と耳が必要なのさ」
「それは、まぁ、しゃーねーか」
「それに俺が何もしなくてもお前はSクラスになっただろうがな」
「なんで?」
「ゼワン伯爵が推薦したからさ、その推薦でどうするか悩んでいたところに俺のダメ押しというわけだ」
「なるほどな。今度お礼言っとかないとな」
そこまで話すと部屋のドアがノックされてセバスチャンがお茶とお菓子をトレイに乗せて入室してくる。
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