第86話 武術試験
ジンとテオの会話は盛り上がった。
ジンの刀の話から戦に関する話に発展して行ったからだ。
「んでさ、最近あった戦って言ったらタイラン大防衛だろ?」
「ああ」
「オオトリ様の御子息が十二歳で考案した作戦で見事防衛に成功。俺と同い年でそれを成し得たって聞いてよ!俺はマジで感動したね」
「そんなすげーことか?」
「すげーことさ!あの追い詰められた状況で敵国の内情まで把握しての兵糧攻め、正直震えたね」
「詳しいな」
「親父が青龍騎士団に徴収兵で出ててなよく聞かせてくれたんだ」
「そうか、よかったな親父、帰って来てさ」
「ああ、それに関しちゃ神様に感謝しても仕切れねーな」
「あの作戦は確かに全部が上手くいって収まったが犠牲を出しすぎた」
「確かに多大な犠牲者が出たことは否めねーけどよ、あの戦での勝ち筋はあれしかなかったって俺は思うね」
そう言うとテオはカバンから紙の束を引っ張り出してくる。
「これは?」
「これは俺が考えた帝国三万に対する防衛策さ」
「これが全部か?」
ジンはテオが出してきた紙の数を見て驚く。しかも紙にはびっしりと文字や記号が書かれていたからだ。
「ああ、だけどどれも成功はしなかった。やっぱり戦争に置いて数ってもんは大きい。圧倒的数に勝るのはその場の状況に合った奇策しかねぇ」
ジンはその一枚一枚をしっかりと中身を確認して行く。
(すげぇ、確かにどれも最終的には負けてはいるが幾つかはいい線を行っている物もある)
ジンは食い入るようにそれを見つめてしまいテオに呼ばれて現実に戻ってくる。
「ジン?」
「ああ、すまん。すごいなテオ、これだけの案が出てくるなんて正直尊敬するよ」
「ははは!そう言ってくれると嬉しいよ」
テオは照れ臭そうに体をくねらせる。
「ひとつ聞いてもいいか?」
ジンはそんなテオにひとつどうしても質問がしたくて口を開く。
「ん?なんだ?」
「あの作戦はテオ曰く勝ち筋だと言った、ならあの作戦でもっと犠牲者を出さない方法があったかな?」
「ん〜難しいけど、俺が思うのはオオトリ様を囮に使うのはありだったとは思う。けどもっと有効的に使えたんじゃないかなって」
「有効的?」
「ああ、例えばオオトリ様を囮の騎士団本隊に置いておかず左右の森林に五十ほどの兵と一緒に隠れて、間隔をあけて兵を配置、一人一人に青龍騎士団の旗を持たせる。その後オオトリ様の判断で旗を上げて声を上げれば敵からしたら伏兵が隠れてたってなる、そうなれば容易には囮の騎士団本隊を囲めない。更にはにオオトリ様と言う御旗がいないと言う不安要素で敵の思考がより鈍る。そうなればもっと効率的に時間を稼げたかもね」
「.......そうか」
ジンは静かに言うがその声は震えていた。
「ジン?」
「あ、いや、すまん、ありがとう。そろそろ合格発表の時間だろうし行くか」
「ああ、そうだね」
二人は立ち上がると受付があった場所へと向かう。
ジンは向かう途中無意識に自分の拳が強く握っていた。
ジン達は受付前に戻ると貼り出された結果を確認した。
「234、234、あった!よかったぁ」
「俺もあったよ、これで来週から学友だな」
「ああ、正直あまり自信がなかったからなよかったよ」
「それじゃ次に行くか、ジンは貴族だから武術以外にも社交とか色々あるんだろう?」
「え?そっちは?」
「こっちは武術だけだよ、平民が社交とか知ってるわけないしね」
「そうなんだ」
ジンはテオの言葉に首を傾げる。
(そうか、氏名の記入で家名があるのは貴族だけだからか)
ジンはなぜ受付の女性がジンを貴族だとわかったのか一瞬疑問におもったが家名があるのは貴族だけなので、そのことを思い出して納得した。
「それでは合格者の方で平民の方は校庭へ、貴族の方は武道場へ移動してください」
先程受付の女性とは違う男性の人がそう言うとバラバラと合格者は言われた方に進んでいく。
「それじゃまた学校でな!」
「ああ、昼飯ありがとう」
「おう!」
こうして二人は分かれて各々が言われた場所へと向かった。
ジンが武道館に入ると貴族らしい男女が三十人ほどいた。その中には先程テオに絡んでいた三人組の姿もあった。
三人組はすぐにジンを見つけると近づいてくる。
「なんだ貴様、貴族だったのか」
「見ない顔だな、最近成り上がったのか?黒目黒髪とは不吉なやつだ」
「けけけ」
三者三様の反応でジンに突っかかるがジンはそれをシカトする。
「おい貴様成り上がりの分際で俺を無視するのか?」
「そうは言っても、もう試験は始まっているような物なので」
「なに?」
そう言って三人は当たりを見回すと、すでに騎士服に身を包んだ男女が少しだけ高くなった場所からこちらを睨んでいた。
「っち!」
舌打ちをしてまたすぐに元いた場所へと戻っていく三人にジンはデジャブを感じた。
三人が元いた場所に戻ると、段上の一番ガタイのいい男が声を張る。
「合格おめでとう。君たちは来週から栄えある王立学園生徒だ、そこでクラス分けのためこれから武術、社交、作法のテストを行って貰う。まずは武術からだ、自分の番号を呼ばれた者はこの中から一人指名して模擬戦をして貰う。彼らは今年、玄武騎士団に入隊した騎士だ、負けて当然の相手である。自分の出来る限りの力で向かって来なさい」
「あの」
ジンはそこで手を挙げる。
「なんだ」
「えっと、貴方とは模擬戦はできないんですか?」
ジンは一眼見た時から今、目の前で喋っている屈強な男が一番強いと確信していたため、そんな質問をした。
「ほう、いいだろう。指名は私でも構わん、では呼ばれた者から前へ」
ジンはそう言われたが答えてくれた屈強な男の後ろでこちらを睨む五人の騎士達の視線に余計なことをしたなと内心思うのだった。
試験は滞りなく進み、先程の三人組も綺麗にのされて次の会場の場所を伝えられて向かって行ったのを確認した。着々と順番が進んで行き結局残ったのはジンだけだった。
「234番!」
ジンは自分の番号を呼ばれて壁際から前に出る。
「誰を指名する」
「では、右から2番目の方で」
「む?私でなくていいのか?」
「えっと、はい」
先程の質問は本当に無意識でやってしまったことだったのでジンは素直に五人の中から指名する。
指名された男は前へ出ると構えをとる、ジンも屈強な男から渡された修練用の木刀で構えを取ると指名した男が口を開く。
「よくもまぁ、舐めた口を聞いたな忌み子が」
ジンはその言葉に、確かに自分は失礼だったが、受験者のそれも子供に対して言い過ぎな目の前の男にカチンと来てしまった。
「両者準備はいいか」
どうやら屈強な騎士にはその声は届いていなかったのか、もしくは聴こえていて何も言わないのかはわからなかったが、ジンはその問いに返事をする。
「はい」
「問題ありません」
ジンが返事をしてすぐに対面している若い男の騎士も答える。
「では、はじめ!」
屈強な騎士が開始の合図を出すと若い騎士の男の前からジンが消える。
「え?」
目の前からジンが消えて間抜けな声を発した時には後ろに回りこんだジンの木刀は優しく騎士の首元に当てられていた。
「しょ、勝負アリ!」
その場で騒めきが起こる。
なぜならこの場にジンを目で捉えられた者がいなかったからだ。
「ま、待ってください!今のは何かの間違いだ!」
ジンに後ろを取られて敗北した騎士が声を上げてやり直しを要求するがそれを止める声が別から上がる。
「よい、下がれ」
全員が声のした方に顔を向けるとそこには髪と顎髭が白い初老の男が立っていた。
「団長!」
敗れた騎士が声を上げてそう呼ぶのでジンを含めた騎士たちは驚きを隠せないでいた。
そこに立っていたのは玄武騎士団、団長のレーブン伯爵家当主のゼワン・レーブンだった。
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