第85話 試験

 整備のされていない山道を猛スピードで降りているため馬車の中はすごい振動だった。


「ダリル!壊れさえしなければいい!」


「わかってますがね!これなら馬車じゃなくって馬に乗った方が早いんじゃねーか!?」


 ダリルは馬車を操りながらジンに返す。


「たしかに、途中によく行く村がある!そこで馬に切り替えよう」


「ああもう!親方も人が悪いぜ!」


「全くだ、後で母上にチクってやろう」


 二人は途中の村に馬車を任せると馬に乗り換えて王立学園に向かう。


「最近変わったことはあったか?」


「特には、一昨日ミシェルとガオンがこっちにもどって来たくらいでさぁ」


「そうか、あの二人はいつくっつくんだ?」


「まぁ、ミシェルの鈍感は筋金入りですからね」


「それもそうか、っていうかこれ間に合うのか?」


「ギリギリ行けるとは思いますけど」


 二人は物凄い速さで馬をかけて行く。

 

「ついたぁ」


「本当にギリギリでしたね」


 二人はあれから走り続け、馬の休憩をなんとか挟みつつギリギで学園に到着したのだった。


「ここが王立学園か」


 ジンは学園を正面から見据えてそう呟く。

 ジンとダリルが汗だくなのを周りの受験者は奇異の目で見ていた。


「それじゃ大将、俺は一度屋敷に戻って報告してきます」


「ああ、任せた。くれぐれも事実を母上に伝えるんだぞ」


「了解しました」


 ダリルは心底疲れたとため息を吐いてまた馬にまたがりジンに一礼して来た道を戻っていった。


「そて俺も行くか」


 ジンはダリルを見送り前を向くと学園へと足める。

 周りを見渡せば知らない顔ばかりだった。

 

(服装で貴族かどうか丸わかりだな)


 平民と貴族の服装は基本的に違うため一目瞭然だ。

 だが、家格のある貴族は中等部から学園に入学するため今日ここに来ているのは最近貴族になった者の子供や、辺境出の者達だったため割合的には平民が大半を占めていた。

 

(にしても、貴族の方に顔を知ってる奴が一人もいないな)


 そう考えるジンだがそもそもジンの貴族の知り合いなどフォルム家くらいしかおらず他は皇族しか知らなかったことに至り納得する。


(ちょっと社交の場に出なすぎたか)


 今から少し不安になるが考えても仕方がないので迷わず受付へと足を進める。


「おはようございます。本日は受験の受付でお間違いありませんか?」


「ええ、お願いします」


「では、フルネームとお歳を記入してください」


「はい」


 ジンが言われたことを記入すると受付の人に番号の書いた紙をもらう。

 紙には234と書かれていた。


「それでは十分後に2-Aの教室に行ってください。そこで筆記試験をして午後には結果が出ます。合格した場合はクラス分けのために武術、社交、作法の心得を測りますので追ってご説明します」


(午後には合格って早いな)


「わかりました」


「2-Aはここから2階に上がって頂き一番奥から2番目の教室でございます。どうぞ頑張って下さい」


「はい」


 ジンは説明を聞き終えると言われた通り教室に向かい234の書かれた紙と一致する机を見つけてその椅子に腰掛ける。

 二時間の強行で疲れ切った体を机に突っ伏す事で労っているとすぐに教師であろう人物が入って来て紙を配り出す。

 ジンは机の上に反対側に置かれた紙を見つめていると、「始め!」と言う声と共に試験がスタートした。

 ジンはテストの中身を見て唖然とする。


(まじか、全然わからねえ)


 ジンは最初に数学の問題を軽々と解いたのだが、これは前世の記憶で割と色濃く覚えていたからだ。


(算数は日常でも使うからな)


 その後は貴族の爵位に関する問題でこれも余裕だったが問題はここからだった。


(まずい!歴史が全くわからん!)


 ジンは元々一週間前に帰宅してジャスに歴史を教えて貰う予定だったのが試験が一週間前倒しとなってその時間がなくなってしまったためノー勉の状態だった。


(辛うじてタイラン防衛の問題が多いから助かったが、それ以外はほぼわからない.......)


 なんとか捻り出しながら答えて行ったがすぐに時間が来てしまいテストは回収されて行くのだった。

 ジンは教室から出ると結果の発表までどうするかと考えながら適当に歩いてその辺を散策して行く。


「ダリルはあの様子じゃ帰ってこないだろうし昼飯も食いたいが」


 そう言うとちょうど腹の虫が音を立てる。

 ジンは懐を漁るがどのポケットにも金は入っていなかった。


「まずったなぁ、ダリルにいくらかもらっておくべきだった」


 一人言を呟きながら突き当たりを曲がるとそこには何人かの受験者がいて揉めていた。


「おい!平民がこんなところで飯なんか食ってんじゃねーよ!」


「どこで昼を食べようが俺の勝手だろう」


「おい、平民であるお前が貴族である俺に反抗する気か?」


 ジンは三人に囲まれた平民であろう男と言うなんというかお決まりな場面に居合わせてしまった。

 立ち止まってしまい四つの視線が自ずとジンへ向けられる。


「何見てんだよ、お前」


 すると貴族と自分で言っていた男がジンに突っかかってくる。


「ああ、そういうのはやめた方がいいんじゃないか?ここでは素行も見られてるだろうし教師に見つかったら問答無用で落とされるかもよ?」


「っち!行くぞ」


 ジンがそう言うと舌打ちをして三人は去って行く。

 どうやら彼らも少しは理性があったらしいとジンが胸を撫で下ろす。


「ありがとう」


 去っていた三人を眺めていたジンに囲まれていた男にお礼を言われる。


「いやいいさ、打算で追っ払っただけだし」


「打算?」


 素直にお礼を言った男はジンの言葉に警戒し始める。


「ああ、打算だ......昼飯を分けてくれないか?」


「え?」


「だから昼飯を」


 そこまで言いかけてまたしてもジンの腹の虫が音を立てる。


「く、くははは、いいぜ。俺の母さんのお手製だからなきっと美味いぞ」


「ありがとう!恩に着る!」


 そう言うと廊下なのにも関わらずジンはその場に腰掛ける。


「ん?どうした?ここで食うんだろ?」


「いや、なんつーか、お前平民か?」


「いや、これでも貴族の端くれだよ」


「そうか、立派な刀だからなそうじゃないかと思ってさ」


「それがどうかしたのか?」


「いや、敬語の方がいいのかなって」


「必要ないよ、昼飯を恵んでもらうんだ、一宿一飯とまでは言わないが恵んでもらったことには変わりないからな、それに敬語って同い年だし邪魔だろ」


「なんか変わってるなお前、俺はテオ、よろしく」


「俺はジンだ。よろしくな!」


 こうして、未来の刀将とその参謀、後の『国崩しのテオ』との出会いだった

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