青年期

第84話 クソ親父

「師匠!起きてください!お兄様が行ってしまいますよ!」


「んー気をつけて行けよ小僧」


「もう!起きてください!!」


「ウガッ!」


 ガクゼンはオウカに布団を剥ぎ取られて床に転がる。


「オウカ最近師匠に容赦がないな」


 ジンとオウカがガクゼンの元で修行を初めて二年半が過ぎ、今日ジンは学園入学試験のために王都に戻ることになっていた。


「小僧、お前は飛んだじゃじゃ馬を連れてきたな」


「でもそのおかげで師匠の寿命は伸びたんじゃない?」


「お前も言うようになったな」


 ジンはこの二年半で十五にしては平均より少し高いくらいまで背丈も伸びていた。


「その通りですよ!師匠の不摂生はこのオウカが許しません!」


 オウカは今やリナリーやサファイアとも並ぼうかと言うほどの美人に成長していたがこの二年半行くところ言えば実家かガクゼンの顔見知りのところばかりだったので王都には広まっておらず一年後その美貌が一悶着起こすのだが、それはまた先の話。


「もういくのか」


「昨日行ったじゃない、今日の早朝には出るって」


「そうか、ならこれを持ってけ」


 ガクゼンは部屋の押し入れを開けると中から一振りの刀を出してジンに渡す。


「えっと?」


「お前の本気を出したら、その辺の刀じゃ大して持たんからな、餞別せんべつじゃ」


 ジンはガクゼンから受け取った刀を鞘から抜いて、その刀を観察する。


の目の刃文はもんに、乱れ込みか、凄いな......いいの?」


「ああ、持ってけ今ある中じゃ一番の刀じゃ、名は『陽炎天淵かげろうてんえん』じゃ」


「ありがとう、大事に使うよ。それじゃそろそろ行きます。また長期休暇にでも顔を出すから、オウカをお願いします」


 ジンがガクゼンに頭を下げるとガクゼンは眠そうにジンの頭を手荒く撫でると布団を敷き直す。


「まったく、オウカ師匠を頼むよ。何かあったらすぐに知らせるんだよ?」


「うん!任せて!」


 こうして、ジンは二年半に及ぶ修行を修了して帰路に着くため古屋をオウカと共に出る。

 ジンがガクゼンの古屋から出るとそこには馬車が一台止まっており中から男が出てくる。


「よう、大将もういいのか?」


「ああ、ダリルも悪いね。待たせて」


「まさか大将の師匠があんな感じだとは思わなかったよ」


「それ師匠に聞かれたら細切れにされるからな?」


「ダリルって怖い者知らずなのね」


「うっ!お嬢までそう言うってことはやばいってことか」


 ダリルはオウカにも言われたためにそっと古屋の方を見るがガクゼンが出てくる気配はなくホッと胸を撫で下ろす。

 この二年半でダリルも二十一歳となり、その体はますます筋肉を携え最早力ではジゲンを上回ったのではないかとテンゼンから言われる程にまでなっていた。

 さらにはミラとも結婚して半年前に子供も産まれたのだった。


「それよりミラは元気かい?」


「ああ、その節は心配かけたな」


「そうか、ならいいよ。さてそろそろ出発しようか?」


「ああ、そうだ!これ」


 そう言うとダリルが懐から一通の紙を出す。


「なにこれ?」


「大将に会ったら渡せって親方がよ」


「親父殿が?」


 ジンはその手紙を受け取ると中を開いて確認する。


「息子へこれを見てるってことは無事ダリルと合流したと言うことだろう。よく二年半乗り切った。こっちに帰ってきたら久しぶりに手合わせをしよう、今からお前の成長が楽しみだ。」


「親父殿......」


 ジンは手紙を見て綻ぶ。


「追伸。そう言えば忘れてたんだが、試験の開始が一週間早まった。早く帰ってこい。ジゲン」


「え?」


「どうしたんですか?」


ジンが急に目を丸くして驚いているためダリルが質問をすると質問で返される。


「ダリル、俺の入学の試験ていつだっけ」


「一週間後って聞いてますぜ?」


「だよな、てことは.......あんの!クソ親父!ダリルすぐに出発するぞ!」


「どうしたんですか!?」


「これを見ろ!」


 ジンはダリルにジゲンからの手紙を押しつけるとオウカの方に向き直る。


「それじゃオウカ行ってくるよ、くれぐれも無茶はしないように!何かあったらすぐに連絡することわかったね?」


「むう!お兄様はたまに過保護すぎるの!オウカも強くなりました!」


「それでもオウカは俺の妹だ、強かろうが弱かろうが俺の守るべき対象だ」


「あう、わかったの、いってらっしゃい」


 ジンはオウカの頭を優しく撫でるとダリルの方を向く、ダリルは手紙を読み終えてプルプルと震えていた。


「やべえって!大将!」


「わかってる急ぐぞ!ダリル!」


 二人はバタバタと馬車に乗り込むと足速に山を降り出すのだった。

 此処から先、ジンの長い旅が始める。

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