第82話 茶会

 リナリーとジンの婚約が発表されてから貴族界隈は荒れに荒れた。

 国の秘宝であるリナリーにお披露目会で心奪われた老若男女は多かったからだ。

 それがオオトリと言う平民出身の家に嫁ぐとは誰も思っていなかったからだ。


「聞いたかよ?あの侯爵家のお姫様に婚約者ができたって」


「ああ、俺は一回だけ見た事があるんだけど、ありゃ絶世の美女になるぜ」


「かぁ!羨ましいな!誰だよその件の婚約者様ってのは」


「それがどうやら、あのジゲン様の御子息らしいぞ」


「マジかよ!英雄の息子かそりゃお似合いだわ」


「しかも貴族様のよくある政略的なもんじゃねーらしいぜ」


「つまり?」


「好き合ってるってこったろーよ」


「だーめだ、今日はもうお腹いっぱいだ」


「とか言いながら酒は飲むんだな」


「バカお前!こんな美味いツマミがあって酒が進まねーわけねー!」


「そーかよ」


 この様に、リナリーの婚約は貴族界隈だけでなく城下町引いては国全体の話題となっていることなど梅雨知らず、リナリーはお茶会に出席していた。


「ごきげんよう、リナリー」


「お姉さま!」


「あら、リナ!端棚ないわよ」


「あう!ごめんなさい。ごきげんよう、サファイア様」


 これは定期的に行われるリナリーとサファイアのお茶会だった。

 サファイアは幼少の頃から素直で可愛いリナリーを気に入り二人は定期的にお茶会をしていた。


「全く、そろそろリナリーも高等部に入るのですから。ちゃんとしないとね」


「はい......」


 少ししょんぼりとしてしまうリナリーに我慢できずにサファイアは頭を撫でる。


「でも、私は甘いから誰か別の人に丸投げしてしまいましょう」

 

 笑いながらそう言うサファイアにリナリーも笑顔で答える。

 サファイアは運ばれて来た紅茶を一口付けるとリナリーに話を振る。


「そういえば、婚約おめでとう。まさかリナに先を越されるとはね」


「ありがとうございます!でもお姉さまはお綺麗すぎて陛下も困ってらっしゃるのではないでしょうか?」


「そうねぇ、お父様は私に甘いですからねぇ。でもリナの婚約に世の殿方は失意の底かしらね」


「何でですか?」


「貴方が恋愛婚約だと皆報告を受けているからよ」


「???」


「ふふふ」


 笑いながら答えるがサファイアだがその笑顔は作り笑いであるとリナリーは長い付き合いで知っていた。

 すぐに雰囲気を切り替えたサファイアは身を乗り出してリナリーに質問してくる。


「それで?ジン君といえばウチのロイのお友達のジン君よね?」


「え!そうなんですか?」


「あら聞いていなかったの?」


「ジン様は私と会う時はいつも聞き手に回ってくださいますから」


「そうなの、リナの話は可愛くて面白いから仕方がないかしらね」


「どう言う意味でしょうか?」


「さぁ?どう言う意味かしら?」


「むう!お姉さまも意地悪です!」


「そう言うところよ」


 サファイアはくすくすと笑う。

 それを見たリナリーは今度は作り笑いではないため一緒になって笑う。


「でもそうかぁ、あの小さかった彼がねぇ」


「面識があるんですか?」


「ええ、一度だけ。まだ彼が五歳くらいの時かしら?幼いのに好感の持てる殿方でしたよ」


「そうですか」


 リナリーは自分がサファイアより後に知り合ったいたことに、もやっとしてしまったが直ぐにそれを祓う。


「ふふふ、好きなのね?」


「ふえ?.......はい」


 顔を真っ赤にして俯きながら返事をするリナリーにサファイアはそう。と返す。

 サファイアのその顔は沈んでいく太陽のように美しく、だが、僅かな哀愁が感じられたが、リナリーは俯いてしまったためにそれに気づく事はなかったのだった。

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