第81話 害意

 ドールはここ数日荒れに荒れていた。


「くそ!何度、目覚めても奴の顔がチラつく!おい!影!」


「ここに」


 ドールが影を呼ぶとすぐ後ろから中性的な声が帰ってくる。


「あれを暗殺してこい」


「申し訳ありません。陛下から暗殺による手助けは禁じられております」


「ちっ!使えない奴め!」


 ドールはジンが憎くてたまらなかった。


「どいつもこいつも使えねぇ!ダートもそうだ!あいつめ!目をかけてやったのに大した情報も持ってこないとは!」


(奴が第一功だと!?ふざけやがって!自分の息子可愛さに戦功をくれてやったのかあの平民上がりめ!)


 ジンは実力でその功を立てたのだが、ドールがそれを信じるわけがなかった。

 そんなドールの部屋をノックする音が聞こえてドールは現実に引き戻される。


「誰だ」


「私です」


 ドールは声の主に心当たりがあり入室を許す。


「入れ」


 そう言われて部屋に入って来たのは、朱雀騎士団団長であるレオン・テグラム侯爵であった。


「何故貴様がここに?」


「殿下、少しばかり人払いをして頂いてもよろしいでしょうか?」


「......影下がれ」


 レオンは影の気配が消えるのを感じてドールの話に答える。


「今日伺ったのは他でもありません。殿下のこれからについてです」


「これからだと?貴様何様だ?」


「勘違いなされるな、私は貴方の味方です」


「なに?」


「リナリー・フォルム」


「!?」


「キリル侯爵は後日正式にリナリー・フォルムとジン・オオトリの婚約を発表なさるそうです」


「なんだと!?」


(もうそこまで話が!)


「殿下」


「なんだ!!」


「この婚約を破棄させる方法は三つほどあります」


「なに?言ってみろ」


「はい、一つはジン・オオトリを抹殺することです。ですがこれは現実的ではないでしょう」


「何故だ?」


「ジン・オオトリはロイストス殿下と親しくされています。奴の周りには暗が付いているでしょう」


「忌々しい。二つ目は?」


「二つ目は学園の中で奴を陥れることです」


「なるほど」


「ですがこれも先程同様、ロイストス殿下が居ては困難でしょう」


「くっ!あの邪魔者め!」


「そして最後ですが」


「ああ」


「ドール様が王座に就かれることです」


「......なるほど、だから貴様がここに来たと言う事か」


「はい、殿下が王座に就けば障害となるロイストス殿下はおりません。あとはあの平民上がりをどう料理しようとドール様の思うがままです」


「......条件は?」


「は?」


「貴様が私につく条件だ」


 ドールはこの時愚かな子供ではなく王族としての雰囲気を感じさせた。


「そうですね、貴族絶対主義復活の確約でしょうか」


「そんなことか、いいだろう」


「ありがとうございます。ではドール様が王座に就くにあたってこれから私が殿下に稽古をおつけします。学園での成績は多くの同胞の獲得に至るでしょう。更には学園には武園会もございます。ジン・オオトリに武が勝っていればもっと早く事が進むやもしれません」


「くくく、見ていろ平民。貴様の前でリナリーを抱くのが今から楽しみだ」


「......」


 こうして一人の女性のためにドールは兄から国を奪う御旗となる事を決めた。

 彼のリナリーに掛ける想いは本物だった。だが努力方向さえ間違わなければ彼にももしかしたら輝かしい未来が有ったのかもしてない。

 それを静かに認めるレオンはドールが王座についた後の計画まで考えていた。

 ドールストスとレオンこの二人もまた動乱の中心になる人物だった。

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