第79話 歴史

 次の日ジンはダリルの声で馬車の中で目を覚ます。


「隊長!」


「ああ、ダリルか。おはよう」


「おはようってもうそろそろ昼だぜ」


「んえ、まじか。鍛練し忘れた」


「鍛練バカ健在か」


「なんか言ったか?」


「なわけ無いじゃないですか!そろそろ行来ますか」


「ん?もういいのか?久しぶりだし後一日くらいは時間があるぞ?」


「いいんですよ、別れも済まして来たし、約束もして来た」


「......そうか」


「さぁて、ここで最後なんでしょう?」


「ああ、他の奴らの家にはもう行ったからな」


 ジンはどこか遠くを見てそう返す。


「そうか」


「そういえば、ちゃんと置いて来たんだろうな?」


「ああ、置いて来たよ。全く隊長もお節介が過ぎるぞ?戦死者には一様の金は降りるってのに」


「......金をいくら積んだところで逝っちまった奴らの代わりになんかならねーんだよ」


「だったら別に隊長が個人的に渡す必要もねーべや」


「うっせーいいんだよ!もう行くぞ!」


「何照れてんだか」


 そう言うとダリルは馬車を引くため御者の席に座ると数秒、村を見つめて出発する。


「いいのかよ?隊長、もう王様から貰った金すっからかんだろ?」


「しつこい奴だな、いいんだよ俺の家は伯爵家だぞ?金ならたんまりあるさ」


「けっ!これだからボンボンは」


「ダリル、人が下手に出てればお前。不敬罪で死にたいのか?」


「冗談だよ!そんな怒んなさんな!」


 ジンとダリルは帰りの馬車で戯れあっていたが急にダリルが真剣な顔をする。


「隊長、ありがとうな」


「あ?」


「何でもねぇ。俺は強くなるぜ、あんたの右腕くらいにはな!」


「ほう、俺の右腕か、んー?なれて左足くらいじゃないか?」


「ああ?!上等だよ!今に見てやがれ!」


 後世の歴史書にはこんな事が記されている。

 ジン・オオトリには五本指と呼ばれる忠臣あり、中でも紅牙のダリルはその剣技と剛腕で名を馳せたと。

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