番外編
第78話 故郷
功労式から五日、ジンはダリルとある村にきていた。
「おーい!ダリルのバカが戦から帰って来たぞ!!」
村に二人だけいる警備の兵がジンとダリルを見て大声を上げて村に知らせに行く。
「なんだ、好かれてるな」
「やめてくれ、恥ずかしいんだ」
ダリルは顔を片手で覆いながら溜息を吐く。
「おお!ダリル帰ったか!」
「ダリ兄!お帰り!!」
次々と村の住人がダリルに駆け寄って来ていつの間にかダリルとジンは村人に囲まれてしまう。
熱烈な歓迎が続く最中、急に周りが静まり返る。
人垣がバッと二つに分かれて真ん中に道ができる。その道の先には一人の女性がおりその女性が涙を流して立っていた。
「ダリル」
「ミラ」
ミラと呼ばれた女性にジンは中隊ができる前の森林での会話を思い出した。
(あれがダリルの)
ジンは二人の関係をダイナが話していたのをなんとなく覚えていた。
ミラは止めどなく溢れる涙を拭うとダリル向かって走り出してそのまま飛び込んだ。
ダリルは勢いを殺して抱き止めると一言ただいまと口にするのだった。
「全く、見せつけてくれる」
しばらく抱き合っていた二人にジンは口を挟まない様努めたが二人共放っておいたらいつまでも抱き合ってそうだったので声をかける。
二人はジンの声で周りの暖かい目に気付いて離れる。顔の真っ赤なミラとそれに負けず劣らず真っ赤なダリルを見て笑いが起こるのは必然と言えた。
ジンはダリルにミラとの時間を過ごすよう言って一人である場所まで来ていた。
それは村のはずれにある孤児院だった。見た目は簡単に言えば古びていたが頑丈な作りをしていた。
ジンは孤児院の前で一度立ち止まると意を決して戸を叩く。
中から人の良さそうな女性の声で返事がありジンが家名まで名乗ると中から慌ただしい足音の後扉が開く。
「貴族様が何の御用でしょうか?」
扉を開けて中から出てきたのはルイよりも少し年上に見える女性だったその女性は心底不思議そうにジンを出迎えた。
ジンはトールとダイナの件で訪ねたことを説明すると女性は少し深刻な顔をしてジンを孤児院の中に通す。
ジンは応接間と言うには少し草臥れた一室に通されると女性と向かい合って座る。
「トールとダイナが何か、しでかしたのでしょうか?」
女性は深刻な顔をしてジンに尋ねる。
ジンはこの女性が勘違いしている事に気付いて笑顔でそれを否定する。
「いいえ、彼等は問題を起こした訳ではありません。今日伺ったのはこれをお届けするためです」
そう言うとジンは懐からトールのメガネとダイナのネックレスを出した。
それを見た女性は一瞬で硬直すると震える手でジンが出した二つの物を手に持つ。
「彼らは勇敢でした」
「そう、ですか......申し遅れました。私この孤児院を任されております。メリーと申します」
なんとか平静を保ったメリーは頭を下げて非礼を詫びる。
ジンはそれに対して気にしていないと返して二人の間に沈黙が流れる。
ジンは少しの間を置いて話すべき事があるため口を開く。
「彼らは私の部隊の部下として立派の戦い、命を落としました。私の力の無さを痛感するばかりです。申し訳ありません」
そう言ってジンが頭を下げるとメリーは驚いてから、それを否定する。
まさか孤児院にいる子供達と年齢が変わらない目の前の少年が隊長でしかも平民である自分にここまで礼を尽くしてくれていることにだ。
「いいえ、貴族様のせいではございません。あの子達は自分で決めて戦場へ出たのです。戦場がどういう場所かわかって出たのですからそれは自己責任と言う物です」
メリーの言っていることは正論ではあるが、人は時としてそれが正論であったとしても納得など出来ないのである。
ジンはわかっている、彼女が口から出たものは体裁を保つために出た言葉だと、ここでジンにお前のせいだと詰め寄ってもそれは無駄だと言うことを理解はしているのだ。ただ納得はできるはずもない。納得できる人の死など稀なのだから。
その点で言えば彼女の言葉にジンは深々と頭を下げる。大事に思っている存在の死を告げられて尚、理性的に会話していることをジンは一人の人間として尊敬した。
「......ダリルは?」
やっと絞り出した声にジンも答える。
「彼は今ミラさんと言う女性と一緒です。後ほどこちらに来るとの事でした」
「そうですか。申し訳ありません、せっかく来て頂いたのですが、今日はお引き取り頂いてもよろしいでしょうか?」
「......そうですね、失礼します」
ジンは立ち上がると一直線に扉に向かい部屋を出て、玄関へと向かう。
玄関を出るとちょうどダリルと鉢合わせる。
「......隊長」
「メリーさんか、いい人に育てられたな」
「もう終わったのか?」
ダリルの言葉にジンは孤児院に振り返って「いや」と言葉を返す。
「俺が何をどう取り繕おうがただの言い訳だ。俺がこれ以上あの人に言える言葉は無い。あれはお前に託す」
ジンはそう言うとダリルの胸に拳の甲で一つ叩くとすれ違う。
ジンと変わり次はダリルが孤児院の扉を開ける。ダリルはこの孤児院出身の言わば元家族である。普通に中に入り一直線に応接間に向かう。
ダリルが応接間の扉を開けると、一人涙を流すメリーと対面した。
「ただいま」
「ダリル......大きくなったのね」
「すまねぇ、久々に帰って来たのに」
「いいのよ、ちゃんと帰って来てくれればそれだけで.......」
「......ばばあ、トールとダイナもしっかり帰って来たじゃねーか」
ダリルはジンが置いていったであろうメリーの手の中にある二人の遺品を見てそう告げる。
「......あの人が連れて帰って来てくれたのね」
「ああ......ばばあ、トールもダイナも笑って逝ったってよ。だから泣くのは今日だけにしろよ、あいつらが悲しむ」
「.......そうね、本当にあなた達は親不孝なんだから」
その言葉にダリルは涙をグッと堪える。この時代だ、親より子が先に逝く事なんて珍しくも無い。だが、彼女が自分達を子供だと言ってくれる事に自然と涙が出そうになったからだ。
「隊長はさ、死んだ部下の家を一つ一つ回ってんだ」
「え?」
「別に隊長のせいなんかじゃねーのによう、責任は俺にあるって聞かねーんだ。あのバカは」
「ダリル」
「だから俺はあの人を支えるためにまた戦場へ行くよ。あいつ等に立てた誓いもあるしよ......でも死なねーから、だから心配すんな、ばばあ」
「......そう」
メリーは自分の涙を拭うとダリルに近づき背伸びをして頭を撫でる。
「本当に大っきくなって」
ダリルはもうこの人を悲しませるわけにはいかないとまた一つ誓いを立てる。自分の親を絶対に悲しませないと。
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