第77話 再び

 功労式が無事終わり数日、ジンとオウカの出立の日になった。


「それじゃ行ってくるよ」


「ああ、師匠によろしくと伝えておいてくれ」


「行ってらっしゃい!兄さん姉さん!」


「二人とも体には気をつけるのよ?」


「はーい、大丈夫よ母様!兄様がいるから」


「そうね、オウカちゃんだけだと心配だけれどジンちゃんもいることですしね」


 なぜかそう言われると釈然としないオウカは頬に空気を溜めて膨れる。


「オウカ、自分で言ったのになんで怒ってるんだ?」


「母様はたまに失礼だと思うの!」


「はいはい、それじゃ今度こそ行ってくるよ」


 こうしてジンはオウカの頭をぐしぐしと撫で回して二人はガクゼンが住む名もない山へと出発する。

 ガクゼンが住む山までは道のりにして半日と比較的に近い。馬車でオウカと他愛ない話をしていると体感すぐに着いてしまった。


「兄様ここ?」


「ああ、ここからは徒歩だ。行くよ」


「うん」


 二人は木刀と着替えなどの入った荷物を背負って山を登りだす。

 二時間ほど登ったところでジンが振り返るとオウカと二、三歩差ができてしまっていた。


「少し休憩するか?」


「はぁはぁ、ううん頑張る」


「そうか、あと少しだからな。よし!荷物は兄ちゃんが持ってやろう」


「でも!」


「ここまで頑張ったんだ、いいのいいの」


「ありがと」


 オウカは素直にお礼を言うとジンに荷物を渡し、二人はまた歩き始める、それから数十分歩くと山小屋とは正にと言った寂れた木造の古屋が見えてきた。


「着いたな。オウカはここで少し休んでな、俺は師匠がいるか確認してくるから」


「わかったの」


 ジンは汗で頬にくっついてしまったオウカの髪を指で優しく整えてから古屋に向かう。


「師匠〜?俺だけどいる〜?」


「なんじゃい!うるさいの!」


 ジンがドアの前でガクゼンを呼ぶとすぐに扉が開け放たれて中から毛だるまが出てくる。


「久しぶり師匠、相変わらずだね」


「んあ?なんじゃお前」


「嘘でしょ?まだ一年も経ってないよ?」


「冗談じゃ、よく来たなガキンチョ」


「なんだよ、等々ボケちゃったのかと思ったよ」


「失礼なやつじゃな!で?何しに来た」


「何って、まぁまた修行をつけて貰いに」


「ああん?なんでまたおま、えに......おめぇ、何門まで開いた?」


「うっ!......羅刹まで」


「......この戯けが、上がれ」


「ああ、ちょっと待って今日は妹も連れて来たんだ」


「妹?ってことはあの暴れん坊の娘か?」


「そうだよ、オウカ!おいで!」


 ジンに呼ばれてオウカがテテテと近づいて来る。


「あ、あの!オウカ・オオトリです!こんにちは!兄からお話は聞いてます!よろしくお願いします」


「......嫁さんに似て良かったな。ガクゼンじゃ上がりんさい」


「え?俺の時と差が」


「バカ言うんじゃねぇ、女の子には優しくするのがジジイの常じゃろがい」


「初耳だよ......はぁ、まあいいか」


 こうしてジンとオウカはガクゼンの古屋に到着したのだった。

 二人はガクゼンの後に続いて古屋へと上がると真ん中に囲炉裏があり他の家具と言える家具は箪笥たんすくらいだった。


「相変わらず殺風景だね」


「余計な御世話じゃい」


 ガクゼンが一番奥に腰を掛けるとジンはその正面オウカが右隣に座る。


「さぁて、まずはジン、お前羅刹まで開いたってのは本当か?」


「うん、そうせざるを得ないくて」


「そうか......まぁ無事戻れたなら文句はねぇ、羅刹まで開けたんならお前はもう第一門まで開けるじゃろーて、それでまだ何を学ぶと言うんじゃ?」


「羅刹の先を」


「バカ言ってんじゃねぇ!一回開いて戻ったくらいで調子に乗るもんじゃねぇ!次も帰って来れる保証なんか何処にもねーのよ」


「それでも、例え戻れなくて俺は必要と思うなら使うよ」


「......この不幸モンが」


「ごめん」


「......けっ!それで?この嬢ちゃんはなんじゃい?」


 ジンとガクゼンの話がさっぱりわからなかったオウカだったが急に話を振られて背筋を伸ばす。


「オウカ、自分で言いなさい」


「う、うん!えっと、私に修行をつけてくだしゃい!」


 単刀直入かつ噛むという明らかに緊張が丸わかりだったがガクゼンは微動だにせずジンに一瞬の目線を送る。

 ジンはその目線に気づいて頷くとガクゼンが口を開く。


「嬢ちゃん構えてみい」


「は、はい!」


 オウカはガクゼンに言われて緊張した面持ちで立つと一回深呼吸していつものように構えを取る。

 ガクゼンはそれを凝視されていたが、何千何百と繰り返した構えに自然と落ち着き、緊張がいい意味で緩むのを感じた。


「......よかろう」


「あ、ありがとうございます!」


 オウカは頭を行き良い良く下げてお礼を言うその姿にジンも頬が緩むのを禁じ得なかった。

 こうしてジンとオウカの修行が開始したのだった。

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