第76話 前日

 時は遡り、功労式の前日、デイナーはディノケイドと唸っていた。


「どうするんじゃデイナー、功労式は明日じゃぞ」


「わかっております。陛下こそ、これは元々陛下の役目では?」


「だがなぁ、帝国と交渉しとるキリルが言うには本当なんだろう?」


「ええ、間違いないと」


「だが、そうなってしまうと今回の功労式第一功は間違いなくあの者だぞ?」


「何を悩んでおられるのか?仕方がありますまい!正直申し上げまして、五、六人の貴族を敵に回すより、ジゲン。いえ、オオトリ家を敵に回す方がよっぽど厄介ですし、こちらの心情的にもしたくはありません。あいつならわかってはくれるとは思いますが後に禍根を残す様なことはしたくはないでしょう?」


「わかっておるわい、ただの愚痴じゃい」


 ディノケイドはため息をついて今回の第一功の内容を考える。


「しかしまだ成人もしていなからな、叙爵も何処がいいか難しくての」


「そういえば先程、ジゲンの息子から私宛に文が届いていたのですが、それを見てみますか?」


「なに!?なぜ早く言わん」


「まだ私も中身を見ていないからですよ。中身が全く違う内容だったらどうするんですか」


「いいから早く見せい!」


「まったく」


 ディノケイドは正直疑問だった。面識のあるロイや自分にならわかるが何故面識のないデイナーに文を送ったのかがわからなかったのだ。


「まぁ、一様礼儀として陛下に直接手紙と言うのも無礼ではありますからな」


「むぅ、そうか」


 少し納得するディノケイド。ジンはこういう所では良く気を使うのはなんとなく知っていたからだ。


「では」

 

 そう言うとデイナーはしっかりと封のされた手紙を開けると中身を確認する。

 数秒目を左右に動かして静かに読み進める。それをディノケイドは何も言わずに待ち、読み終わるとデイナーは手紙を元に戻す。


「なんと?」


「ルイからでした」


「なに?」


 てっきりジゲンかジンだと思ったディノケイドだったがルイからの手紙と聞いて驚く。


「内容は?」


「簡単には叙爵じょしゃくは形式上必要だった場合、名誉叙爵で構わないと」


「なんだ?ここで話を聞いていたような内容ではないか」


「ジゲンから戦争の話を聞いてこの文を書いたとあるので予想したのでしょうな」


「そうか、それだけか?」


「はい、あとは個人的な内容になっていますので」


「そうか」


 デイナーとルイは幼い頃からの知り合いでお互いが婚約者と言う間柄だったが円満な婚約破棄をしていることはディノケイドも知っている為、あとは私情と言うならそれ以上は踏み込まなかった。

 だが、名誉叙爵であれば一代きりのお飾り貴族であるこの国ではそこまで珍しいことでもないので有難いと言えば有難い。しかしそれでもジンは一躍時の人とはなるだろう。


「だが、その申し出は有難いのう。しかし第一功は最早ジンで決まりであろう」


「どうやら功労式が終わり次第あの子はオートンの山奥に隠すとの事です」


「オートン?ガクゼン殿か」


「ジゲンの師ですな?」


「うむ、ジンの師でもあるからな、熱りが冷めるまでと言う事じゃろうな」


「それはこちらとしても有難いですな」


「うむ、それにしてもあの歳で第一功勲章か」


「ええ、あの子の人生はこれから波瀾万丈ですな」


「あれの友で、ジゲンの息子だからのう、遅かれ早かれそうなったではあろうがな」


「ですが、些か早すぎる様にも感じます」


「そうでも無かろう。台頭してくる者とはこいうことじゃ」


 更には最近キリルがジンとリナリーの婚約を認めたことを知っていたディノケイドは、山にジンを隠すというのは誠に有難い話だ。こうして、功労勲章授与式の特別第一功勲章が決定したのだった。

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