第75話 功労勲章授与式

 そして特に特筆するようなこともなく功労式の日がやってきた。


「これより功労勲章授与を執り行う。先の戦による功を祝すものだ。呼ばれた者から陛下の前に出ろ」


 功労式の進行は丞相であるオルガ侯爵家当主であるデイナーがよく通る声で謁見の間に集まる貴族と今回の功労者である騎士達に告げる。

 恒常から間を置き全体を見渡して口を開く。


「まずは呼ばれた物は前に陛下の御前へ」


 そういうと白虎騎士団から数名呼ばれて前に出る。


 デイナーが呼ばれた者への報酬を一通り述べる。

 ディノケイドからご苦労と一言と勲章を貰う。

 授与された者は感謝を述べて呼ばれた物は下がる。

 これが功労式の一通りの流れだった。


「では次に」


 第五功を賜った者が下がると第四功の功労が始まる。

 ここでは白虎騎士団数名とフォダム、ダンベが呼ばれ前に出る。

 先程と同様ディノケイドからご苦労の一言と共にデイナーが報酬を述べて終了となる。

 ここまではいつも通りという流れで特に特筆して活躍した者は第三功として成した行いなどを述べられるという流れになっている。


「では、ここから特別勲章へ移る。まずは白虎騎士団、団長ラージャ・ローダス。青龍騎士団セシル・レンフォース。『無天』デイダラ前へ」


「「「は!」」」


 呼ばれた二人とデイダラの代理人であるテンゼンは同時に返事をするとディノケイドの前で片膝を突き首を垂れる。


「まずは、ラージャ・ローダス、この者は白虎騎士団を指揮しタイラン防衛に尽力し時を稼いだ。よって金四千と第三特別勲章『マラク』の勲章を授与する」


「ご苦労であった」


「ありがたく」


「次にセシル・レンフォース。この者は青龍騎士団が四面楚歌の窮地に駆けつけこれを打開、その後先頭に立ち武勇を示した。よって金三千と第三特別勲章『クエレブレ』の勲章を授与する」


「ご苦労であった」


「ありがたく」


「最後に『無天』デイダラ殿はすでにこの国を去っているため代理の者に送る。『無天』デイダラ、この者は客将として我が国のために参戦し、敵将軍であるゲンジとの一騎討ちの末その武勇を示した。よって金二千と第三特別勲章『ナーガ』の勲章を授与する」


「ご苦労であった」


「感謝致します」


 こうして三人にそれぞれの勲章が送られて下がるが、ここで多くのものが驚いていた。

 白虎騎士団のラージャは今回の戦では総指揮を任されていたのは周知の事実だった。そのラージャが第三功というのはあまりに珍しい対応だったからだ。


「次に、この者は類まれなる判断力で敵の兵糧これを強襲。万の兵にも臆することなく立ち向かい右腕を失いながらもこの国の武勇を示した。よって金五千と第二特別勲章『ソウリュウ』の勲章を授与する。ジゲン・オオトリ前へ」


「は」


 周りはジゲンが呼ばれたことで納得したなぜなら今回の戦は青龍騎士団の起点によって終結したと言っても過言ではないからだ、青龍騎士団が敵の補給を断たなければ現在ここ王都すら落とされていた可能性があるのは言うまでもなかった。


「ご苦労であった」


「ありがたく」


 これで全功労が終わったものと思い貴族達は拍手でその場を締めようとする。

 ジゲンに思うところはあるが今回に関して言えば何も文句の言えない働きと見ていいからだ。だが、まだ功労勲章授与は終わっていなかった。


「最後に!この者は類い稀なる知略で帝国の弱点を見抜きこれを自ら強襲、これを成功。更にはセシル・レンフォースと共に青龍騎士団の窮地を救い共に万の兵を切り開き脱出」


 ここまで来てあの日、ジゲンが呼ばれた日に謁見の間に集まっていた貴族は誰の存在かを理解し、集まっていなかった貴族達はまさかそこまでの武功を示した者がいるのかと驚く。

 だが次の一言でこのどちらも驚愕する。


「果てには、帝国将軍、『首斬り』のザンバを一騎討ちの末討ち取った!」


「なに!?」


「誠か!!」


 ここで初めて他の貴族が驚愕を言葉で表した。

 功労賞での私語などは認められているが基本的には静かに聞くのが礼儀とされている。だが、この時ばかりは誰もそれを注意するようなことは言わなかった、なぜならそれだけ驚きが勝っていたからだ。


「よって、金八千と第一特別勲章『コクリュウ』の勲章を授与する!さらに名誉男爵の地位を与える物とする......ジン・オオトリ前へ」


「は!」


 ジンはゆっくりと立ち上がりディノケイドの御前まで進み膝をついて頭を下げる。

 そこでまた更には貴族達は驚く。そこに頭を垂れているのが自分の息子娘と歳が変わらぬ少年だったからだ。

 一瞬大きなざわめきが起こったが貴族としてのプライドですぐに大きな声で驚く者は居なくなる。

 だが、貴族達はヒソヒソと会話を交わす。

 これはジンの目と髪の色を話す者や、あの歳でそれを成せるわけがないと疑い話す者、ジンの素性について詳しく知っている者はいないか探す者と多くの思惑が交錯していた。


「ご苦労であった」


「ありがたく」


 ジンはディノケイドから勲章を貰うと立ち上がり元いた位置へ戻る。

 その時多くの貴族が目に入ったがその様は多種多様だった。

 羨望、嫉妬、驚愕、怒り、多くの感情を隠そうともせず皆同様に面に出していた。

 中でもバーンズ侯爵の顔をジンは一生忘れないだろう。顔を真っ赤にしてこちらを殺さんばかりに睨みつけるバーンズ侯爵の顔だけは。

 ジンはそれを無視して元の位置に立つのだった。

 こうして驚愕に包まれて功労式は終了したのだった。

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