第74話 ロイの道

 二人が部屋を出て行くとロイとジンの二人になる。

 セバスチャンは恐らく近くにい居るのだろうが、姿は見えなかった。


「俺の頼みはこれで終わりだ。ありがとうな助かった」


「いや、お前の臣下なら将来は俺の臣下だ。気にするな」


「そう言ってくれると助かる。それで?そっちの話っては?」


「ああ、まずは帝国との一件は方が付いた」


「ああ、それなら陛下からの書状で拝見したよ」


 多くの犠牲を払った帝国の大侵攻は落とされた砦と引き換えに二年の資源融通で終結した。

 この交渉は王国の圧勝と言えるだろう、砦を三つ落とし、ベータル王国の喉元まで迫った帝国だが、それを二年の食料のために返還など正直ジンは意味がわからなかった。

 いくら食料がないと言ってもベータルの喉元まで来ているのだ、もう少し帝国に有利な交渉はできたはずだ、キリルが凄いのか、帝国が相当馬鹿なのかジンにはどちらかはわからなかった。


「む?そうか、ではこの間の話の続きだが」


「続き?前の話の続きってことか?あれで終わりじゃないか?」


「お前にはしっかりと言っておこうと思ってな」


「?」


 ジンはなんのことだか本当に分からず首を傾げる。


「我が道についてだ」


「道......?」


 ジンはその言葉に最近ルイと交わした会話を思い出した。


「ああ、俺がこの国を背負う上で実現させたい進むと決めた道がある」


「急だな」


「そうでもないさ、あと数年もすれば俺かドールのどちらかが王位に着く。そして俺はその争いに負ける気はない」


「まぁ彼のことは少ししか知らないがあまり良い印象はないな」


「まぁドールの話は置いておいて本題に戻す」


「ああ」


「俺は王位についたらこの大陸を一つに纏めようと考えている」


「統一ってことか」


「そうだ.......あまり驚かないのだな?」


「王になろうって人間の野望としてはまぁ妥当と言えば妥当だからな......だけど俺の知ってるお前なら本気なんだろう」


「そうだ」


「ひとつ聞きたい。この大陸の覇者になろうとする理由を、お前のことだ伊達や酔狂で言ってる訳ではないだろう?」


「......数年前、南の部族を我が国としたのは覚えているか?」



「ああ、親父殿が陛下に言われて行ったあれか」


「そうだ、ジゲンが収めたその後二年程して俺も視察を蹴ねて彼の地に赴いたのだが、そこでは戦争をしていたよ」


「なに?」


「これは一部のものしか知り得ない情報だ。他言はお前であっても許さん」


「言ってからそれを言うのは反則だろう」


「ははは、だがお前は言わんだろう?」


「なら確認すんな」


「ふふ、まぁそう言うことだ、話を戻す。南とやり合っていたのは海を渡ってきた者たちだ」


「海を?」


「世界は広い。この大陸のようなものが世界には無数に存在している。そしてその者らは海を越える力を持ち下手をすれば我々の及ばぬ兵器すら所持している可能性すらある」


 ジンはロイの話を黙って聞く。


「そして我々はこの大陸で戦争をしている長年にわたってな。だが、我々の欠点はそれだけじゃない」


「ほう」


「まず、この国に海を越えて違う大陸に向かう船を作る技術はない、更には他大陸との兵器に置いても同等である可能性は極めて低いと見てる」


「戦争は技術を進歩させる一番の近道だとは言うけど?」


「その通りだろう、ある程度は進歩はしている。だが、他の大陸の技術が我々と同等と思うのは極めて危険だ」


「そうだろうな」


「新しく、海を超えた者達が来て我々の知らない知識と暴力でこの大陸を蹂躙したらどうだ?我々は直ぐに植民地と化すだろう」


「だが、そこまで心配することか?」


「これを見ろ」


 ロイはそう言うと元々部屋にあった大箱から弓のようなものを出す。


「これは?」


「クロスボウと呼ばれるものだ」


「クロスボウ」


 ジンはそれに見覚えも聞き覚えもあった。それは前世の朧げな記憶だ、今世の記憶と混じりあっているため知ってはいるが、なぜ知っているのか分からないと言う不思議な感覚だった。


「これは弓を人の力ではなく機構によって射るものだ、南で捕虜となった物が使っていた」


「なるほど」


 ジンはこれを見ただけで理解した。この大陸で行われる戦争は殆どが近接による殺し合いだ、弓は平地でも使われるが数がいないので、主流といえば近接の戦闘。弓は籠城戦、攻城戦などで使う場面が多い。


「たしかにどうやら弓という技術に関して言えば名も知らぬ大陸の方が進歩しているな」


「そうだ、我々が使う弓は小さく弱い。だが大きくすることは可能だがそれを扱うには相応の技術がいる。だがこのクロスボウと呼ばれる物はそれを必要としない素人が打とうがそれなりの成果が見込める、これを万の軍隊が持てばどうだ?下手をすれば初日で決着が付く」


「なるほどな」


「今までは近接戦が強い軍、数が多い軍が勝ってきたがこれからは違う。時代の流れについて来れない者は淘汰されて行く。なれば変わらなければならない、置いていかれれば即刻滅亡だ、帝国が気づいているかどうかは知らんが情報ではもうすでに北での戦争は弓や戦術を重視した戦争になっていると聞く」


「だが、近接戦も馬鹿にはできない」


「そうだ、これからは近接戦に加え高度な戦術と飛び道具の有用性を考慮した戦争が覇権を取る。いいかよく聞け、そう遠くない未来大陸間での戦争は常識となる。その前に大陸を治めなければ横から掠め取られ、取り返しが付かなくなるだろう。そうなってからでは遅いのだ。もうすでに一度海を越えてやってきた者たちがいるそのことを肝に銘じなければならない」


「ちなみにそいつらはどうなったんだ?」


「数日小規模の戦闘で幕を閉じた。奴らは斥候だろう、本国へと帰ってここに大陸があることを伝え、さらにそこにいる者たちの危険性を伝えるだろうな」


「大陸の統一か」


「ああ、平和的に行うには彼の地は血を流しすぎた、辛くはあるが武力で治めなければならない。時間がないあれから四年と半年、奴らはいつ来てもおかしくないんだ」


「だがな、武力で、となれば恨みは相当なもんになるぞ?そんなんで他大陸とやりあえるのか?」


「この話を理解できる国とは平和的な話し合いができるだろう。だが、わからない国を待っている時間はない。その全てを背負って俺は王位に着く覚悟を決めた」


 ジンは黙ってロイの話を噛み砕く。


「そうか、それで俺にこの話をしたってことは」


「そうだ、お前には臣下や王に仕える貴族としてではなく、我が友としてこの夢、共に背負ってくれないか?」


「......まぁ、仕方ねぇか」


「ジン......」


「そうか、大陸制覇か......多くの血が流れるな」


「ああ、これもまた修羅の道となるだろう」


「俺はお前を信じるよ。お前が王になりこの大陸を統一できるならそこから先はこの大陸での戦争は終いってわけだ」


「ああ、そうすれば今度は外から敵がやって来るがな」


「人の業か」


「ああ、どんなに足掻いたところで争いは無くならんのかもしれん......だが、俺が諦めれば割を食うのは民だ、それだけはなんとしても避けねばならん。ならば俺に諦める道はない」


「ならそうだな、お前が諦めないで立つってんならそれを支えてやんのが俺の役目って訳か、わかりやすくて結構!任せとけ」


「ありがとう」


 ロイに頭を下げられ驚くジンは手をバタバタさせて頭を上げるように言う。


「やめろよ、照れ臭い!それで?この話を知るのは?」


「父上とセバス後一人くらいであろう」


「まじか、お前忠臣とかいないの?」


「いるにはいるが、お前が最初の忠臣だからな」


「バカ、勘違いすんなよ?俺はお前の忠臣になる気はねー、俺は一生お前の友だ。今更忠臣になれとか言われても無理だから、お前が言い出したんだからな?」


「ああ、そうだったな。覚えておく」


「ん、そんじゃ話はこのくらいか?」


「ああ、最後に三日後功労式を行う予定であるとジゲンに伝えて置いてくれるか?もうすでに書状入っているが」


「わかった伝えておくよ。こっちもガオンとミシェルを頼む」


「ああ、任せておけ」


 こうしてジンとロイの面会は終了したのだった。

 ジンは部屋から出る際覚悟を新たに決めた。

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