第72話 フォルム一家

 その後ジンはフォルム侯爵家の長男であるルシアンを紹介された。

 彼はリュウキと同い年で、ジンが修行から帰ってきた日にリュウキが遊んでいた相手だ、人見知りでキリルの後ろにずっと隠れていたが流石リナリーの弟と言ったところだ。美少女を見間違う美少年で将来多くの女性に囲まれるだろうと思うジンだった。


「ナターシャ・フォルムです。娘がお世話になっておりますわ」


「い、いえ!あの!はい」


 ジンは緊張で硬くなってしまう。


「ふふふ、そんなに緊張しなくていいのよ?娘の婚約者さんですもの」


「その、光栄です」


「ふふふ、あなたの話をするリナリーはかわいいから、私も感謝していますの」


「お母様!」


 リナリーは顔を赤くしてナターシャに抱きつく。

 こうしてリナリーの母でキリルの妻であるナターシャ・フォルム夫人にも紹介されてフォルム家族とジンで昼食を取って解散という流れになった。


「いや驚いたよ、リナリーの母君はリナリーのお姉さんかと思ったよ」


「まさかお母様に惚れたとかは」


「ないないないない!リナリー心配しないでくれそんなに俺は節操なしに見えるかい?」


「ジン様は思っているより乙女心は複雑なんです」


「だとしても婚約者の母君に色目を使うことはないよ。安心してくれ」


「冗談です」


「冗談なら冗談の声色でお願いするよ」


「ふふふ」


 リナリーが口元に手を添えて上品に笑うのでジンも顔を綻ばせる。

 昼食後のひと時が終わり、ジンが帰宅する時間帯になり、リナリーがあれやこれやと引き止めたが等々玄関の前にフォルム一家とジンが集合する。


「それじゃあ俺は帰るよ」


「はい......」


「またいつでも来なさい。ここは君の第二の家だと思ってくれていい」


「またいつでもいらしてください」


「ありがとうございます。お世話になりました」


「ばいばい」


 キリルとナターシャに言われて頭を下げるジンにルシアンがキリルの足元で遠慮気味に手を振る。

 ジンはそんなルシアンに目線を合わせるためにしゃがむ。


「ああ、ルシアンもバイバイ、リュウキと仲良してあげてね」


「うん」


 なんだかんだ少しだけ打ち解けたかなと思うジンだった。

 ジンは立ち上がるともう一度頭を下げる。


「リナリー」


 俯くリナリーにキリルが声をかける。


「リナリー、まだ数日は王都にいるからまたすぐにでも来るよ」


「必ずですよ」


「ああ」


「本当に本当ですよ!」


「約束だ」


 そう言ってジンはその場に膝をついてしゃがむとリナリーの手の甲にキスを落とす。

 リナリーは顔を真っ赤にしてキリルとナターシャはその光景に笑顔で見守る。


「それでは失礼します」


 そうしてジンはフォルム侯爵家を後にするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る