第68話 世代交代の予感
「誰だ」
ディノケイドは扉のノック音に怪訝そうに尋ねると扉を挟んで向こう側から声が返ってくる。
「父上、私です」
帰って来た声はロイだった。
全員が顔を見合わせる。
「入れ」
ディノケイドが許可を出すと部屋にロイが入ってくる。
「失礼します」
「ロイ、今この場がどう言うところかわかっているのか?」
「申し訳ありません、ですがすぐに伝えておきたいことがあるため失礼を承知で参りました」
「何ようだ」
「先程ジンと話をして参りました」
「ほう」
ディノケイドはジゲンを一瞥してロイに視線を戻す。
「五年です」
「なに?」
「父上、私はどうやら思ってたよりも強欲なようだ」
「ロイ、お前......」
「父上、七年後その玉座、私に譲って頂きたい」
「「「なにいいいいいいい??!!」」」
今度はディノケイド以外が驚愕した。
「お、お待ちください、殿下!殿下はいつかは即位致します!ですがそれは陛下がご決断されればのお話しです!それもこんなところで!そんな失礼な物言いはありえません!」
デイナーはすぐに正気を取り戻すと椅子から立ち上がってロイに苦言を呈す。
「デイナー、少し黙れ」
「陛下」
ディノケイドはデイナーにそう言うと黙らせる。
ディノケイドは真剣な面持ちでロイを見る。
「ロイストス、それはわしに退位しろとそう言うことか?」
「その通りです。七年後、私に潔くこの国の王の座、譲って頂きたい」
「わしは貴様とドール、どちらに後を継がせるか決めておらん」
「結構です。七年後には私に王を譲渡するでしょう、今日はその決意表明をしに来たにすぎません。くれと言ってもそれは俺が取りに行くということですから......では失礼します」
ロイはそう言うと不敵に笑い部屋から退室して行った。
「なんだかな......あれはお前の血が色濃く出たもんだ」
ジゲンはロイが出て行った扉を見てそう言う。
「間違いないな、あの破天荒さは陛下の血だ」
それに続いてキリルが苦笑いを浮かべて同意する。
「全く、ジゲンの息子といい、ロイ殿下といい、未来は明るいな」
デイナーは椅子に座り直すと少し嬉しそうに呟く。
それから全員で数分笑い合う。
「ははは、さて、ではわしの報告は以上だ。あとはディノ、お前の判断に任せる」
「わかった。おって使者を送るそれまでゆっくりしておけ」
「ああ、わかった」
そう言うとジゲンは部屋から退室して行った。
ジゲンは部屋から出ると青龍の訓練所へと足を向ける。残った三人は数分の沈黙が流れる。
「どうするんだ」
「ひとまずキリル、お前には帝国との交渉の件は任せる。帝国にしてやられるとは思わんがな」
「帝国が構わず侵攻して来た場合は?」
「それはなかろう、ここで全面戦争をすれば四方八方敵だらけの帝国の方が損をするからな」
「了解」
「デイナーは貴族達の方を頼む」
「はぁ、わかった」
「すまんないつも迷惑をかける」
「お前のせいではないからな、謝るな」
ディノケイドは頷くと立ち上がる。
「わしは白虎と青龍の件じゃな。おそらくジンが立てた作戦は成功と見ていいだろう。そうすると.......はぁ、どうするかのぉ」
ディノケイドは少しだけこの後が憂鬱で顎に手を当てるのだった。
ちょうどその頃ジンは青龍騎士団の訓練所に来ていた。
「フォダムさん」
「おお!ジン君!大丈夫だったかい?」
「ええ、問題なく終わりましたよ」
「そうか、ひとまず小隊長以下には解散命令を出しておいた徴収兵の生存者は少ないからね。功労式が終わるまでは訓練所の寮を使う手筈だよ」
「そうですか。って俺に言われても親父殿に言ってくださいよ」
「ん?それもそうだね!ははは!」
フォダムは明るい性格というより能天気に近いとジゲンが言っていた事をジンはうっすらと思い出しながら一緒に笑っておく。
「それじゃあ、俺はこれで」
「ジン君」
「はい?」
フォダムはニコニコした顔から真剣を真剣なものに変える。
「君に敬意を。よく立ち直った」
「......ありがとうございます」
ジンはフォダムの言葉に計り知れない重みを感じる。
フォダムは二十四歳にしてこの騎士団の大隊長になった男だ。
(この人はこの若さで大隊長になったんだ、色々な経験をしてるんだろうな)
ジンはフォダムと別れると元十七小隊の執務室に向かう。
ジンが執務室につくと中から人の気配を感じてドアを開く。
「ん?おお!隊長!謁見は終わったんですか」
「ああ、ダリル達は何をやってるんだ?」
「隊長こそ、帰らなくていいんですかい?」
「俺は親父殿を持ってからになるな」
「ああなるほど......俺たちは退団届けを書いてました」
ジンはびっくりしてダリル以外を見回すと他二人も頷いた。
「そ、そうか」
退団届けをジンがどうこうできる問題ではない。これは個人の問題だ、ジンは頷くしかなかった。
「それでさ、隊長に頼みがあるんだけどよ」
「ん?お前らの頼みならなんだって聞くぞ?」
「本当か!!それじゃあ、おい!ガオン、ミシェル来い」
ダリルがガオンとミシェルを呼ぶと二人がダリルのすぐ後ろまで来る。
「隊長、まずこれが退団届けだ」
ジンは三人から退団願書と書かれた封書を受け取る。
「たしかに、これはセシルさんに渡しておくよ」
ジンも二年半後には王立学園に通う予定になっているので恐らく功労賞が終われば一度退団という流れになるのでセシルに任せるしかなかった。
「そんで頼みってのだが」
「ああ」
ダリルは少し黙って後ろの二人に目を向けると二人も意志のこもった目でそれを見返す。
ダリルが二人の意思をしっかりと汲み取りジンに視線を戻すと頭を下げる。
「俺たちに鍛錬をつけてくれ!」
「「お願いします!」」
ダリルに続いて二人も頭を下げる。
「え?」
ジンは急な展開にびっくりして少し固まる。
「俺達はどうしようもないほど弱え!あんたを一人残して戦場を逃げ回るのはもうごめんだ!」
「隊長を支えると仲間に誓いました。お願いします」
「私......私何もできなくて......気遣われて、逃されて......ひぐっ、もう嫌なんです!みんなが命を賭して何かを守ろうと戦う中、守られる存在になるのは......」
三人はそれぞれが自分の心を打ち明ける。ミシェルに至っては涙まで流していた。
「だから頼む......俺たちをあんたの私兵にしてくれ。今度は必ず俺らがあんたを守る......頼む」
「......」
ジンは三人の気持ちを聞いてただただ黙る。
三人ははジンからの返事が無いため頭を下げたままだ。
「頭を上げてくれ」
ジンは頭を上げるよう三人に言うと三人はゆっくりと頭を上げる。
「俺はお前達があの戦場で生き残ってくれて本当に救われた......俺みたいな戦場を知らないガキの指示に従ってくれて、あんな死地で逃げずに隣にいてくれて本当に助かった......俺からも頼む、どうか俺に守らせてくれ、どうか俺を支えてくれ」
ジンは仲間を失う恐怖を克服できたわけではない、そもそも仲間を失う恐怖など克服することなど一生できないだろう。だが、自分を守ってくれると言う彼等をジン自身が信じないで何を守れると言うのか。そう思ったのだ。
「俺からも頼む、俺について来てくれ」
三人は顔を見合わせてすぐにジンに向き直ると三者三様の返事で肯定するのだった。
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