第27話 答え

 ジゲンは心底困惑していた。

 ジンと別れてから幹部会とは名ばかりのただの飲み会に興じていい感じに酔いが回って来た頃にディノケイドの使いがやってきて呼ばれたからだ。


「まさか、作戦室で酒を飲んでんのがバレたか?」


 ジゲンは一人思い当たる節を呟きながらディノケイドの待つ部屋の前で向かいから歩いてくる人物に少し驚く。


「ジン」


「親父殿」


 二人は顔をみあわえて数秒ジンが顔を逸らす。


「まさかお前何かしたのか?」


「してないって言えば嘘になるな」


「何をお前は自信満々に言っとるんだ、何をしたんだ?」


「多分部屋に入ればわかると思う」


 ジンが結論を濁したため、只事ではないと推測したジゲンは頭を抱えそうになる。


「とりあえず、入ろうよ。陛下を待たせるのはあまりいいものじゃないでしょ?」


「全く、お前という奴は誰に似たんだか」


 二人はどちらも違う顔をしていたが一様に少し暗い顔をしていた。

 ジゲンはジンのやらかした内容の詳細を憂いて、ジンは先程のことを憂いてドアをノックした。


 ドアがノックされて、ドールはそれに反応する。

 リナリーと呼ばれたドールだが、部屋に入ってからはメンツが揃うまで話は一旦保留だと言われていたからだ。


(俺とリナリーの婚約にあと誰が必要だというのだ? 母上か?)


「入れ」


 短くディノケイドが言うとドアが開かれて、二人、入室してくる。

 その二人を見てドールは眉を顰める。


(誰だ?)


 ジンとジゲンが部屋に入るとジゲンはまたしても困惑した、ジンと同い年くらいの少年と少女、一人はディノケイドと同じ髪色に、ディノケイドと似ても似つかぬ体型、率直に言えば肥った体型と言えるだろう。だがしっかりと容姿はディノケイドと似ている節が見てとれた。

 もう一人の少女はジンと同い歳くらいに見えたがその美貌はジゲンがこれまで見てきた女性の中で将来誰も及ばない美女になるだろうと思わせるほどだった。

 その二人とディノケイド、そしてキリルを見てジゲンはいよいよわからなくなる。

 ジンに顔を向ければジンはある一点を見つめて固まっている。


「ジゲン・オオトリ、陛下の命でただいま馳せ参じました」


「......!、同じくジン・オオトリ、馳せ参じました」


 ジンはジゲンの挨拶で我に帰り慌ててジゲンと同じ様に膝をついて頭を下げる。

 ジンとジゲンの挨拶にドールは先程より深く眉間に皺を寄せる。


(成り上がりも騎士団長が何用で呼ばれるのだ?)


 ドールが訝しんでいるとディノケイドはジゲンの挨拶に言葉を返す。


「うむ、急な呼び出し許せ」


「いえ、それでこの状況はいったい?」


「ん?ジンから聞いておらんのか?」


 話を振られたジンはジゲンとディノケイドから視線を逸らす。


「申し訳ありません、倅とは部屋の前でたまたま鉢合わせたため、詳細は聞いていません」


「そうか、ではキリル説明してやれ」


「はっ!」


 ディノケイドに説明を求めれて、キリルは先程あったことを説明していく。

 部屋にいた面々は皆別々の表情へと変えていく。

 ジンとリナリーは顔を真っ赤にして俯き、ディノケイドはそれを見て口の端を吊り上げ、ドールは怒りで顔を赤くしていき、ジゲンはポカンとした表情をする。


「〜〜と言うわけだ」


「ふざけるな!」


 一番初めに声を荒げたのはドールであった。


「貴様!成り上がりの伯爵の息子風情が我が婚約者である、リナリーに求婚だと?立場を弁えろ!」


 ドールは顔真っ赤にしてジンに怒鳴りつける。

 ジンは、それを見て、そうか婚約者がいたのかと少し落ち込む。

 そこで声を発したのは皆が予想していない人物だった。


「まだ、私はドール様と婚約していません」


 ハッキリと透き通る声で言ったのはリナリーである。


「な!?リナリー!この席は俺とお前の婚約話の場であろうが」


 リナリーにズバッと言われてドールはたじろぎながら尚も言葉を返す。


「いや、リナリー嬢は何も間違ったことは言っとらんよ」


 そこで会話に入ったのはディノケイドだった。


「ですが父上!この様なことはあってはなりません!たかが成り上がりの息子の分際で、侯爵の令嬢に求婚などと身分を弁えぬ大罪ですぞ?」


「ふむ、お前の言い分はわかった、その言い分にいくつか言いたいことはあるが今はいい。わしは今回の件キリルに一任しておる」


 そう言われて、部屋にいる全ての視線がキリルに向く。

 キリルは視線が集まるのを確認すると深呼吸を一つして口を開いた。

 

「そうですね、私は言っては何ですが親バカでして、リナリーが認めた相手なら平民であろうと一緒にしてやりたいと考えています」


「バカな!侯爵の娘と平民などと侯爵!貴様とち狂ったか?」


 ドールは納得が出来ず声を荒げてキリルに抗議する。それは貴族社会だろうが何であろうが無礼な物言いであった。


「ドール!貴様こそ分を弁えろ!貴様は確かに王太子ではあるが口がすぎるぞ!」


 そこであまりの物言いにディノケイドがドールに叱責をする。


「ですが!」


 だが、さらに言い募ろうとしたドールにディノケイドは一言、くどいと言って黙らせる。


「だが確かに、殿下の言い分も一理いちりあります。そのため私はもし娘が分不相応な相手を連れて来た時そのものにはそれなりの立場を求めます」


「どう言うことだ」


 ドールはディノケイドの叱責に一欠片も反省せずに不遜な態度で聞く。


「つまりは、娘と結婚するならば私が認めうる何かをしなければ認めないと言うことです」


 この言葉にドールは眉を顰める。


「そんな物はどうとでもなろうが」


 確かに、ドールの言う様に手柄や活躍などは汚い手を使えばどうとでもなる。


「それは公爵家の名に誓って不正など認めるはずもありません」


「ほう」


「それに、殿下まず初めに娘の気持ちを聞かねばわかりませぬ」


 そういうとキリルはリナリーに目を向ける。


「確かにその通りだな」


 先程の激昂はどこへやらドールは間違いなくリナリーは自分を選ぶと確信していた。

 それは、政治的問題や身分的問題などではなく、今まで思ったことは思った通りになってきた生来の自信からくるものだった。

 話を振られたリナリー俯いて少し沈黙をした後にキリルに視線を向ける。


「私は.....」


 またしても沈黙。

 リナリーは賢かった、今自分が将来公爵家にどのような影響をもたらすか自分の発言にかかっている、そのため答えを出すのを躊躇っているのだ。

 キリルはそれを見てゆっくりとリナリーに目線を合わせると優しい声音で言った。


「リナリー、君は好きな様に生きていいといつもお父さんもお母さんも言っているだろう?いいんだよ、君は自分のやりたい様にやりなさい。その決断に責任を取るのが親とそして、君の選んだ殿方なのだからね」


 父の優しい言葉にリナリーは決心をして顔を上げる。


「私は、ジン様の求婚をお受けしたく思います」


 言い切ったリナリー、静まり返る部屋で数秒、ドールが奇声を上げた。

 この日完全に因縁が生まれたのだった。

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