第19話 異次元の手合わせ

 デイダラとテンゼンがしばらく家にいることが発表された朝一番喜んだのはルイだった。

 間接的にリュウキの家に残るからである。


「母上喜びすぎですよ」


「それは嬉しいに決まってるわ!リュウキちゃんもジンちゃんも家にいてくださるんだもの」


「兄さん早く行こうよ!」


 リュウキはジンを急かす。


(今日から始まる修行にテンションが上がってるな、まぁでもすぐに心を一回へし折られるだろうけど)


 ジンは経験則からリュウキに生暖かい視線を送る。


「では、母上行ってきます」


「行ってきます!!」


「はぁい、二人とも怪我には気をつけてね」


 ルイはニコニコで二人を見送るのだった。


 ジンとリュウキが家の庭に設けられた修練場にいくと二人以外の参加者はもう出揃っていた。

 ジゲンにデイダラ、テンゼンさらにはオウカも準備をしていた。


「姉さんも修行をつけてもらうの?」


「私は父様に修行をしてもらうのよ、それとテンゼンさんと兄様の立ち会いがあるって聞いて見にきたのもあるわ」


「兄さんとテンゼンさんが?」


 リュウキは初耳なこと聞いてデイダラに視線を向ける。


「ごめんごめん、リュウ君にはまだ伝えてなかったね、烈刃流を教えるにあたってまずはテンゼンの太刀筋なんかを見てもらおうと思ってね。ついでにテンゼンはジン君と剣を交えてお互い刺激になってくれればってね。迷惑だったかい?」


 デイダラはジンに確認をとっていなかったためジンに視線を送る。


「俺はかまいませんよ」


 ジンはデイダラ達がいるならいつかテンゼンと手合わせをしたいと思っていたので早めに叶って喜んでいるくらいだった。


「そうかい、なら準備が出来次第初めてくれ」


「はい、よろしくお願いしますテンゼンさん」


「よろしく、お互い二門だからね、手加減なしでいくよ?」


「望む所です、前とは違いますよ?」


「ふふふ、楽しみだね」


 ジンとテンゼンがお互い笑い合うが目がマジだった。

 ジンとテンゼンが含み笑いの応酬をしている横でリュウキは先程よりもテンションが高くなっている。

 ジンが強いのは知っているが自分など本気を見せてもらったことがない初めて兄の本気を見れるため先程よりもワクワクしていた。

 そんなリュウキにデイダラが話しかける。


「さて、リュウ君今日はまずテンゼンとジン君の手合わせを見て座学の時間だ」


「座学ですか?」


 急に話かけられたそれも今からやる手合わせを座学と言うデイダラにリュウキは首を傾げる。


「まぁ始まればわかるけどテンゼンの太刀筋をみて俺っちが解説する、だから座学なんだよん」


「なるほど」


 リュウキは納得したように頷くが正直ピンとはきていなかった。


「まぁまず二人の太刀筋が見えればってところからだけど」


 ボソッと言ったデイダラの言葉はリュウキには届かなかった。

 ジンとテンゼンは一礼してから構えをとる。

 テンゼンは刀を抜き中段に構えるオーソドックスな構えだ、対するジンは剣を抜かず腰の鞘に収めたまま掬に右手を這わせる。


「さて、リュウ君この勝負どちらが勝つかな?実力はほぼ同等、テンゼンの方がちょっと上って所だろうね」


「正直僕は兄さんの強さの底がわかりません、テンゼンさんもそうだとすれば僕に予想はできません」


 リュウキはわからないとはっきりデイダラに伝える。


「うんうん、たしかに今のリュウ君にジン君が本気を出したらチリのようにやられるだろうからね」


 チリのようにやられると言われてリュウキもちょっとだけムっとする。


「確かに兄さんには負けるでしょうが少しは粘って見せます」


 リュウキも幼い頃から刀を振ってきたのだプライドはある、例えジンがどれほど強かろうと少しは粘れると反論する。


「いや、それは無理だろうね」


「何故ですか?」


 それでも無理と言ったデイダラにリュウキは少しだけムキになって言う。


「ん〜?まぁ今からわかるさ、君とジン君じゃ大きな差がある。それは多分今のままじゃ決して埋まらない差だ」


 そう言うとデイダラは対峙している二人に視線を送る。


「さぁ、どうやらはじまるよ。まずは見てみたまえよ、君の兄の実力を」


 そう言われてリュウキはデイダラに向けていた視線を修練場で向かい合う二人へと戻す。

 ちょうどリュウキが視線を戻したタイミングでジゲンが開始の合図を叫んだ。


「はじめ!」


 ジゲンの開始の合図と共に二人の姿が掻き消える、それと同時に甲高い金属音が修練場に響く。


 キン!!


 一度の金属音で勝負は決した。

 ジンがテンゼンの喉元に刀を突きつけていた。


「いやまいった、あれをいなされるとは思ってなかったよ」


「今のはたまたまな節がありますが、二年前とは違いますよテンゼンさん」


「そこまで、勝負有り」


 ジゲンが手合わせの決着を宣言して二人は一歩引き刀を鞘に収めて一礼した。

 リュウキはただただ唖然としていた、一回の交錯で決した勝負、しかも自分は二人の動きを目で追えなかったため何が起こったかさっぱりわからなかったからだ。

 そんなリュウキにデイダラは声をかける。


「どうだいリュウ君?君の兄に君は粘れるかい?」


「すみません、出過ぎたことを言いました」


 リュウキは自分とジンの差がここまであるとは思いもしていなかった。


「いや、そこで認められるなら君は成長できるさ、自分のいる現在位置をしっかりと把握するのは強者でもなかなか難しい、慢心やプライドが邪魔をして認められない者の方が多いからね」


 デイダラはそう言うと視線をテンゼンに戻して口を開く。


「テンゼン、今のは歩幅が若干浅い」


「はい、師匠」


 デイダラはテンゼンに改善点を教えるとリュウキに視線を戻す。

 

「さて、こっから二人は拮抗するだろう、その間リュウ君はお勉強の時間だよん」


「あの、デイダラさん」


「ん?なんだい?」


「なんでテンゼンさんは呼び捨てで僕は君付けなのでうか?」


「ああ、それは君を認めていないからさ」


 さらっと言われてリュウキは黙る。


「いいかいリュウ君、俺っちが認めた時君の君付けがなくなる、そう思って修行に励んでくれ?」


「わかりました」


 リュウキは短かな目標ができそれに向かって走り出す、一つ一つ目標を達成していけば、いつかジンやジゲンに追いつけるはずと信じて。

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