第18話 デイダラ

 ルイの説得は困難を極めた。

 ジンは長い間帰ってこなかったのも一つの原因だが一番の原因はジンが騎士団に入れば家にあまりいられなくなるそしてリュウキも帰ってこないとなればルイは寂しくて死んでしまう自信があったからだ。

 だがなんとかわかってくれた。

 ジン達は知らないがルイも元は騎士である、上を目指す者の想いがどんなものなのか少しは理解できていた、ただリュウキが修行に行って会えなくなってしまう、それは悲しいと思うのが親心である。

 ルイが許可を出してから話はすぐに進んだ、ジンとジゲンの知り合いで烈刃流の師範が今日到着する予定だった。


「全く奴はフットワークが軽いな」


「師匠だったらお前が来いって言うだろうね」


 ジンとジゲンは知り合いなため、気の抜けた感じで話をしているがリュウキはそれどころではなかった、今からくる烈刃流師範の名前を聞いて落ち着くなんて無理だったからだ。

 烈刃流師範代デイダラ、西の大国でベータルとも友好のあるホイル王国で少しの間騎士に剣を教えていたが短い期間にもかかわらずその卓越した剣技は世界に轟いた。戦争などには参加し一人で一軍隊ともやりあった伝説もあった。


「リュウキそんなに緊張しなくても大丈夫だよ、気さくでいい人さ」


「そうだな、ノリが軽いのがたまに傷ではあるがな」


「親父殿それは失礼じゃない?」


 ジンとジゲンは冗談まじりに言うがそんな冗談で平静が保てるほどリュウキの肝は太くはなかった。

 リュウキが黙って高鳴る鼓動を落ち着かせようと躍起になってると扉をノックする音が聞こえた。


「旦那様、デイダラ様とテンゼン様が到着なさいました」


「わかったすぐに行く。さ、行くか」


 軽い調子でいうジゲンとすぐに席から立ったジン、リュウキはさっきよりも早く脈打つ鼓動と共に席を立つのだった。


 ジン達が客間の前に着くとジゲンが「入るぞ」と言って部屋に入っていきそれに続いてジンも部屋に入っていく、リュウキは一つ深呼吸をしてから部屋に入った。

 リュウキが部屋に入ると、眼帯をした糸目で白髪の青年と金髪で優しそうな少年が席に座っていた。

 少年は席から立つとジゲンに頭を下げる。


「お久しぶりです、ジゲンさま」


「ああ、久しいなテンゼン。そんな畏まらなくてもいいんだぞ?」


「そうだよテンゼン、俺っちと旦那は兄弟みたいなもんだからな俺の弟子もジゲンさんの友達ってことさ」


 礼儀正しく礼をするテンゼンと呼ばれた少年とは対照的に眼帯をつけた青年の男性はケラケラと笑う。


「デイダラ、貴様は少しテンゼンを見習え、人と会ったら挨拶をするのは常識だろう」


 ジゲンは気にした風もなく建前的にデイダラに苦言を呈す。


「おいおい、旦那俺っちに常識を求めるのはナンセンスだぜ?」


 そんな会話を聞いていたリュウキは衝撃を受けた。

 デイダラが想像より数倍若かったからである。


「やぁ、ジン君久しぶりだね強くなったかい?」


「お久しぶりです、デイダラさん。前よりは、ですかね」


「それはいいね、後でテンゼンとやってみるといいよ」


 デイダラはニコニコと笑いながら言う。


「テンゼンさんも久しぶりです」


「久しぶりだね、ジン。毎度ながらうちの師匠が申し訳ない」


「いや、これこそがデイダラさんって感じですしね」


「そうだろう、そうだろう、いやぁ流石はジン君わかってらっしゃる。所で今日の要件は後ろの子かい?」


 ニコニコとしていた雰囲気からすっと場の空気が引き締まるのを感じてリュウキが姿勢を正す。


「ああ、わしの息子だ。お前に修行をつけてもらおうとおもってな」


「俺っちに修行をね」


 デイダラは糸目を薄く開いてリュウキをじっと見つめる。

 リュウキは目を逸らすことなくデイダラを見返した。


「うんうん、なるほどね」


 デイダラは軽い口調で頷くが空気はさらに緊張していく、常人まら立っていることすらできない威圧感である。   

 そんな空気が一瞬で晴れると笑いながらデイダラが言う。


「わかった!預からせてもらうよ」


 デイダラは軽い口調でそういうとリュウキのところまで歩いていき顔をグッと近づける。


「今日から君に剣を教える、デイダラだよ?よろしくね?」


「えっと、試験は」


 話の流れについていけずにいたリュウキがなんとか声を絞り出す。


「必要ないよ、旦那のお願いは俺っち無下にはできないし、それにね」


 デイダラは少し間を開けるとニコっと笑って言う。


「あの空気でよく目を逸らさなかったね、その覚悟やよし。俺っちに任せな才能があろうがなかろうが関係ない、一人前以上に俺っちがしてあげるよ」


 デイダラは優しくリュウキの頭を撫でる。


「さて、それじゃまず君の名前教えてくれないかい?」


 そういえば名前さえ名乗っていなかったとリュウキが息を吸い込んだ。


「リュウキです!」


「そうか、リュウ君かよろしく」


 ニコニコと笑うデイダラにリュウキは引き攣った笑いを浮かべるのだった。


「長旅疲れただろう、今日は休んで行け」


「さんきゅう!助かるぜ」


「お言葉に甘えます」


 こうしてデイダラ一行は一日ジゲンの屋敷で厄介になることになった。

 リュウキがデイダラの弟子になることが決まった夜、デイダラとジゲンはある一室で酒を飲んでいた。


「いやぁ、さすが旦那の息子なだけはあるね、あの歳であれを耐えるなんて異常だよ」


「わしの息子だからではないがな」


「またまた、それにジン君も流石だね、前あった時とは比べ物にならないくらい力をつけてたよ」


「あれはわしやお前以上になるだろうな」


「だねぇ、正直言って怖いくらいさテンゼン以上がいるとは俺っち思わなかったからね」


 ジゲンとデイダラは酒を飲みながら自分たちの息子や弟子について語っていた。

 ジゲンがお猪口を置いた瞬間に空気が変わったことをデイダラは感じる。


「デイダラ」


「ん?」


「リュウキの修行を頼んどいてあれだがお前わしのところに来い」


「おいおい、スカウトかい?やめてくれよ旦那、俺っち今は誰の下にもつかねぇ、旦那の下なら喜んで行きてぇが今はそん時じゃねぇ」


 少しだけデイダラの雰囲気が暗い方向に変わるがすぐにニコニコ笑うと酒を煽った。


「デイダラ、落ち着いて聞け」


「なんだよぉ、旦那らしくない」


 改めて話をしようとするジゲンにデイダラは不思議そうに首を捻る。

 ジゲンは思ったことや言わなければいけないことは結構ズバズバいうタイプだ、それが親交のある者なら尚更である。


「帝国の動きが最近活発になってな、そろそろ帝国がまた動き出すと見ていた時期と重なっとる、そこで帝国に密偵を送り込んだわけだ」


「帝国が攻めてくるから俺っちに加勢しろって?やめてくれよ旦那、俺っちにだってやることがあんのさ。わかってるだろ?」


 先程断ったのにも関わらず話を続け、しかも回りくどい言い方をするジゲンを不思議に思いながらデイダラは再度断る。


「帝国にゲンジの目撃情報がある」


 パリン!!

 甲高い音と共にデイダラの手から血が滴る。

 デイダラが自分のおちょこを握り潰したからだ。


「おいおい、ジゲンの旦那冗談じゃ済まされないぜ?」


 いつもの軽い雰囲気は一切消え去りただただ殺気を放つデイダラはジゲンの顔をじっと見つめる。


「確かな情報だ」


「そうか」


 デイダラが短く言うと殺気が霧散していく。


「すまねぇ、取り乱した」


「気にするな、わしがお前でもそうなっとるよ」


「やめてくれ旦那、旦那ならこんな失態は犯さねーさ、俺がまだまだ未熟なだけさ」


 ジゲンに手ぬぐいを渡され、それを手に巻くデイダラ。


「どうするデイダラ」


「ゲンジが出てくる保証は」


「九割」


「そいつはほぼ決まりだね、いつになる?」


「一年以内」


「リュウ君の修行は一年じゃ終わらない、申し訳ねーがリュウ君の本格的な修行はそれが終わってからだ」


「構わん、お前もここにいろゲンジが出てくるならゼルギウスも出てくると見ている」


「ゼルギウスか、勝てんのかい?」


「どうだかな、だが奴には借りがある」


 ジゲンは目に黒い炎を燃やす。


「そっか、とりあえず世話になるとするよ」


「テンゼンには伝えるのか?」


「いや、あいつには何も言ってないよ」


「テンゼンももう子供じゃないんだ真実を伝えたらどうだ?」


「いやぁ、いいのさあいつが背負うようなことでもねーよ。あいつにはちゃんとお前は愛されてたって伝えてあるしな」


「そうか、すまんな余計な口を出した」


「いや、気遣い感謝するよ」


 ジゲンとデイダラはそれから静かに飲み直した。

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