第17話 リュウキの決断

 ジンとリュウキが打ち解けるのにはそんなに時間はかからなかった、ジンはリュウキを想い、リュウキはジンを尊敬したからだろう。


「リュウキ!今のは踏み込みが甘い!」


「はい!」


 ジンがリュウキに剣を教え初めてから二日が立っていた、ジゲンはすぐにでもジンを騎士団に組み込もうとしたが案の定というところか、ルイの猛反対に合い話し合いの結果、条件として一ヶ月は自宅でゆっくりとしてからということでなんとか折り合いをつけた。


「リュウキ今のは違うな、う〜んどうすればいいかな〜」


 ジンはここ二日でリュウキが言っていた才能の意味を理解した。

 リュウキは体の動かし方がハッキリとしているため柔軟な瞬刃流とは相性があまりよくはなかった。だが決して剣筋が悪いという風でもなかった。

 だからこそジンは悩んだ、根本的にリュウキは瞬刃流が向いてないのである。


「やはり才能が」


「リュウキ、弱音は吐いていいが早すぎるまだ二日だぞ」


「はい」


「そうだな、う〜ん」


 ジンはリュウキがこれから先どうすればいいのか何か示せる道はないのか考え込む。


「......あ、そっか」


(そうだ!別にこだわる必要なんてねーじゃねーか!)


 ジンは何かを閃きリュウキに「待ってろ」と伝えて家に入っていく。

 リュウキは何やら忙しなく家へ戻っていくジンを不思議そうに見つめるのだった。


「親父殿いるか!?」


「ぶふううぅぅぅ」


 バン!と大きな音を立てて書斎に転がるように入ってくるジンにジゲンは口に含んだお茶を盛大に吐き出して驚いた。


「バカタレ!驚かすんじゃない!」


 ジゲンが急に入ってきたジンに文句を言うがそんな事は全く気にする事なくジンが話す。


「親父殿!リュウキは烈刃流に入れるべきだ!」


「なに?」


 急に入ってきて何を言うかと思えばとジゲンは思うが少しジンの言った事を考える。

 リュウキは体の使い方がハッキリしていて瞬刃流には向いていない。だが烈刃流ならどうかと言うのがジンの考えだ、烈刃流とは瞬刃流と同じく刀を使った剣術の流派である。

 瞬刃流が柔なら烈刃流は豪の剣である。

 ハッキリとした体の動きに力を乗せ例え攻撃を防がれようともその防御すらをも粉砕するそれが烈刃流だ。

 

「たしかに」


 ジゲンはジンの言ったことがたしかに理にかなっていると思う。


「リュウキの動きなら烈刃流のが向いてると思う、烈刃には知り合いがいるそこにリュウキを修行に出してやればいい」


 ジンは捲し立てるようにジゲンに提案する。


「なるほどな、たしかにリュウキには烈刃流があってるかもしれん」


「なら」


「だがダメだ」


「......どうしてだよ、親父殿」


 いい案だと言われたにも関わらず断られたジンは疑問に思う。


「ルイになんて言えばいいんだ」


「はぁ?」


 ジゲンの答えにジンは素っ頓狂な声を上げる。


「お前を騎士団に組み込む話も危うく殺されかけたんだぞ?次こそわしは死ぬかもしれん」


「親父殿、息子のためだ死んでくれ」


「薄情者めが!」


「冗談だ、俺が母上に言うよ。リュウキのためにもなるきっとわかってくれるさ」


「そ、そうかすまんな」


 ジゲンは頬を伝う汗右腕で拭うと情けなく笑った、それを見たジンはジゲンの弱点は間違いなくルイだと思い知らされるのあった。

 さて、話は変わるが烈刃流とは攻めとは最大の防御という言わば脳筋的考えの流派である。

 だがこのベータル王国での門下生は多く瞬刃流などよりも多くの門下生がいた。

 東の小国で刀が生まれた流派がいくつもできていく中で出てきた烈刃流。ではなぜ烈刃流がこの国に多くの門下生を抱えているかと言えば単純に簡単だからである。

 だがここで一つ訂正を行わなければならないのは実際にはベータル王国での烈刃流はアレンジされたものである事だ、刀は幼少から慣れが必要である王国での主流の剣では独特のクセがつき刀を使った戦い方を覚えるのは至難の技だ、そこで剣を使っていた者でもなんとか刀を使えるようにと考えたのが烈刃流をアレンジした烈火流だ、即ちベータル王国で主流なのは烈刃流ではなく烈火流なのだ。烈刃流と烈火流の大きな違いは誰でもできるかどうかである烈火流は剣を嗜んだ者なら誰でも入門でき教えを乞うことができる。だが烈刃流は教えを受けるには認められなければならない。それが烈刃流と烈火流の大きな違いの一つだ。


「僕を烈刃流にですか?」


「ああ、烈刃流には知り合いがいるし、何よりお前に向いてると思う」


「そしたら僕は強くなれますか?」


「月並みなことを言えばお前次第だ。まず烈刃流には入門試験もあるしな、だがお前ならやれると思ったから俺は提案している」


 ジンは真剣に言う。

 努力とは必ず実を結ぶとはジンも思っていない、徒労に終わる努力だってあるだろう、だが努力して何かを掴んだ時、そこには確かな価値が生まれるのだ。

 もしリュウキが努力により少しでも壁を越えることが出来ずとも取っ掛かりさえ掴む事ができればそれは確実に価値ある努力だ。

 それができるのはリュウキ次第だとジンは自分の経験則で知っていた。


「行くか行かないかはお前次第だ。どうする?」


 ジンは選択肢を出しただけだそれが正解か、などジンにもわからないだから選択はリュウキ次第だ。

 ジンはここでリュウキが断ってもいいと思っていた。それならば自分が瞬刃流を叩き込めばいいと思っていたからだ。

 リュウキは数秒逡巡しゅんじゅんして顔を上げた、そこには覚悟と不安が半々と言った顔だったがしっかりとリュウキは選択した。


「僕いきます。いつか父さんや兄さんと並べるようになるために」


「そうか」


 ジンは静かに答え微笑んでリュウキの頭をぐしぐしと撫でる。


「ならすぐに連絡を取らないとな」


 ジンがリュウキの頭を撫で終えると、後ろから声を掛けられる。


「それはわしの方でやっておこう」


 振り返るとジゲンが腕を組んで立っていた。

 リュウキが「父さん」と呟くと何も言わずにジゲンは近寄ってきてジンと同じようにリュウキの頭を手荒に撫でた。


「リュウキ、お前の覚悟は無駄ではない例えこれから先何があろうとこの時の覚悟を誇れ、わしはお前の覚悟を息子として誇りに思う。お前は自慢の息子だ」


 ジゲンは誇らしそうに言った、リュウキはこれまで感じたことない高揚感に包まれ頷く。

 ジゲンがリュウキに伝えるべきことを伝え終えるとジンに顔を向ける。


「ジンにはルイの説得があるがな、手強いぞルイは」


「大丈夫だよ、母上ならわかってくれるさ」


 ジンが笑いながら言うが、この時の判断が甘かったと自分に言ってやりたくなるのは数時間後の話である。

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