第16話 進む
「才能ってのは多分存在すると思う」
ジンの話しは才能の肯定から始まった。
「全く同じ努力をして来た二人がいた場合、そいつらが戦えば才能のある奴が十中八九勝つんだろうと思う。まあ全く同じ努力なんてありはしないけどな」
ジンが話を一度切るとタオルを目の上に乗せて後頭部を背もたれに預ける。
「でもまぁ、親父殿がなんて言おうとどんなにリュウキに才能がないと思おうが、なろと思えば何にでもなれると俺は思う」
ジンがわりと綺麗事を言う。
「お前が何になりたいかだろ」
リュウキはジンの話をしっかりと聞いていたが、結局ジンも周りと一緒なのだと思い落胆する。
なりたいなら頑張ればいい。それが周りの主な主張だ。そんなものはリュウキは聞き飽きていた。
「僕は騎士になりたいです」
リュウキの言葉にジンはタオルを取るとしっかりと目を見て言う。
「ならなれ」
短い答えにリュウキは感情が昂る。
「だから!僕には才能がありま」
「才能云々は死ぬ時でいい」
リュウキが風呂から立ち上がり声を張り上げたところにジンが食い気味で言う。
「才能がなかったとか努力が足りなかったとかそんなんは道半ばで死ぬ奴は誰だって思う事だ、後悔って奴だな。そこまではその後悔をしないように血反吐吐いて這いつくばって進むしかねーのよ。それでも九割後悔はするだろうけどな」
ジンはじっとリュウキを見て言う。
「リュウキ、お前が死ぬ時後悔するかしねーかはわかんねーけど、俺は後悔しねーように今を生きる。お前はどーする?」
「僕は」
「才能が俺にあるとかオウカにあるとかそーゆーのは一旦置いとけ、目指すもん目指すなら全部ひっくるめて飲み込んで這いつくばって進め」
ジンが気持ちが昂り口調が強くなる。自分の弟が悩んでるのに自分は諭すでもなくただ自分の言いたいことだけ言っている事は分かっていたからだ、それでもジンはこれしか言えなかった。
自分の才能があるとかないとか考えたこともなかった。
それでもジンは死ぬ時後悔しない事、家族を絶対に守るという思いだけで七年間修行を死ぬ気でして来たのだ。だから、ただ自分の考えを伝える事しかできない自分にジンは少し憤り、口調が強くなっていた。
バシャっと勢いよく湯船から立ち上がりジンはタオルを腰に巻いて出口に向かって歩き出す。
「あとはリュウキ、お前次第だ。進むか、止まるか」
ジンは言いたいことを言い終えると風呂から出て行く。
リュウキは力なく湯船に座り直すとジンの言った事を考える。進むかどうかを。
翌朝早朝にジンは昨日の風呂での出来事を後悔していた。
(なにを俺は説教なんかしてんだ!初めて会った兄貴にいきなり説教されたら元々開いてた距離がもっと開いちまうじゃねーか!)
ジンはもし自分がリュウキなら反発してもおかしくないと思い昨日の自分を呪いつつ剣を振るう、ここ七年の習慣である。
「たくっ!俺のバカ」
とうとう我慢できなくなくなり自分への文句を吐いて捨てると木剣を地面に突き立てる。
「兄さん」
木剣を地面に突き刺した直後背後から声をかけられる。
「リュウキ......」
ジンはどう話始めたものかを考えて即座に謝ることにした。
「リュウキ、昨日はすま「兄さん」った、はえ?」
ジンの謝罪に被せる。
「僕は進むよ」
「お、おう」
正直もう死ぬほど嫌われたと思っていたジンは何が何だか分からなかった。
「僕は騎士になりたいから進む、誰になんと言われたって」
リュウキの顔を見てジンは「ふっ」っと鼻で笑う。
「今バカにしましたね」
「してねーさ」
リュウキは自分が笑われているのだと思い不機嫌な顔をする。
だがジンはリュウキをバカ何なんかしていなかった。それよりも自分の弟はどうやら賢くそれでいて強いらしいと溢れんばかりの喜びを表してスキップするわけにもいかないのでなんとか鼻で笑うという中途半端な形になった。
だからジンは言ってやる。
「おまえは賢くて強いな」
「?」
不思議そうに首を傾げるリュウキにジンは笑いながら頭に手を乗せると小さい頃ジゲンにやってもらったようにぐしゃぐしゃっと頭を撫でる。
「やめてくださいぃい」とリュウキが抵抗するが構わず撫で回した。
「ああ!兄様とリュウキが仲良くなってる!また私と兄様の時間がなくなるわ!」
そんなリュウキとジンに近づいて来たのはオウカとジゲンだった。
「オウカ、ならお父さんとの時間を増やせばいいんじゃないか?」
「お父様は、や!」
ジゲンは倒れた。
「兄さん僕に修行をつけて下さい!」
リュウキはジゲンがオウカに精神的に致命傷を負わされたのを視界に入れることすらなくジンに剣の指南をねだった。
「あら!ずるいのだわ!私もお願い兄様!」
「わかったから、とりあえず親父殿をどうにかしよう」
オウカにやられてからピクリとも動かない父親にジンは心配そうに目を向ける。
なんだかんだでこの家でジゲンに一番やさしいのはジンなのかもしれないと自分で思うジンだった。
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