第14話 フォルム侯爵

 ジンが目を覚ますとそこは懐かしい部屋のベッドだった、ジンが初めてオオトリの家に引き取られた時の客間だった。


「まったくだらしないのお」


 ジンがボーっと天井を眺めているとドア付近から声がしてそちらを向くとドアに寄りかかるようにジゲンが立っていた。

 ジンは笑顔を見せながら返す。


「全くだ、まさか八年も修行して母上に負けるとは思わなかったよ」


「ルイはあれでいて気配を消すのが上手いからな」


「あはは、いやそう言う話でもなかったよ、母上が突っ込んできているのはわかっていたけど避けきれなかった」


「ふっ」


「はは」


 少しの沈黙がありジンがしみじみ言う。


「ただいま親父殿」


「ああ、おかえり我が息子よ」


 ジンとジゲンの久しぶりの会話は八年前と何も変わらない雰囲気ではじまって。


「まずは、ちゃんとルイ達にあいさつを済ませてこい」


「一様、母上とオウカには会ったよ、ジャスとは会ったような気がするけど記憶があやふやだ」


「まあ、いいとりあえず居間に行くぞ」


「わかった」


 ジンがベッドから起き上がりジゲンと一緒に家族が待つ部屋に向かう。


「どうだった?」


 この質問にジンは修行の日々について聞いていると思い修行の日々を思い出す。


「もう、一生あそこには戻りたくはないかな」


「ふふふ、同感だ」


「ただ強くはなった、と思う。というかあれを経て強くなってなかったら俺は多分とっくに死んでる」


「だろうな、これでお前を騎士団に組み込んでもルイが騒ぐことはないだろう」


「どうかな、母上は過保護だからなぁ」


 先刻のルイの突進を見るに多分反対はされるだろうなと思うジンだった。



 ジンとジゲンが居間に着くとルイとオウカはしゅんと落ち込んでいてそれをジャスが腕を組んで目を瞑っていた、そんな三人とは対照的にジョゼはニコニコとしていた。

 どうしたものか考えたジンだったがとりあえず挨拶から入ることにした。


「みんな改めましてただいま」


 ジンの帰還の挨拶に各々しっかりと挨拶をかえす。


「ジャス、もうその辺りしてあげてくれ、母上もオウカも反省しているだろうし」


「そうですよ、ジャス。ジンぼっちゃまが帰って来たのですから、そう怒らないであげてください」


 ジョゼはジンに乗って二人を許そうとジャスに言う。


「はぁ、仕方がありませんね。お二人ともしっかりと反省なさってください」


「「はい」」


 二人がジャスの言葉にしっかりと肯定を示すと空気を変えようとジンが少しテンションの高い声で切り出す。


「オウカとはもう話したけど、母上ただいま戻りました」


「おかえりなさい、ジンちゃん。さっきはごめんなさいね」


「いや、俺が避けられなかったのがいけなかったよ、母上はどこも怪我とかしてない?」


「ええ、大丈夫よ」


「よかったよ、ジャス、ジョゼただいま」


 ルイとの挨拶は済ませたので間違いなく家族と呼べる使用人二人にもちゃんと挨拶をするジン。


「はい、おかえりなさいジンぼっちゃま」


「おかえりなさいませ、ジンぼっちゃま」


 二人が微笑んでジンの帰還を喜ぶ。


「ありがとう。そういえばリュウキはいないの?」


「あら、もう聞いたのね」


「ああ、オウカから聞いたよ」


「今リュウキちゃんならフォルム侯爵のお家に行っているわ」


 ルイの答えに疑問を持つジンはルイに言葉を返す。


「フォルム侯爵?」


「ええ、お父さんの学校でのお友達よ」


「親父殿、陛下以外に友達いたのか」


 ジンが少し驚き、ジゲンがそれにツッコむ。


「流石に失礼じゃなかろうか?」


「ごめん、でもそんな話聞いたことなかったから、勝手に陛下以外に友達はいないんだと思ってたよ」


 ジンの失礼な物言いにジゲンは唇をとがらせるがすぐに笑うと「まあいい」と話を済ませる。


「キリルのとこにリュウキが行っているのはあいつの息子がリュウキと同い年でな、キリルはロイ殿下のよき理解者でもある。パイプは太い方がいいからな」


「そっか〜弟に早く会いたいな〜」


 ジンは若干残念そうにするがすぐに気を取り直して顔を上げた。


「フォルム侯爵ってどんな人なの?」


「キリルのやつは民衆に信頼があつい、あいつは優しいからな」


「そうなの?他の侯爵の名前は結構聞くけどフォルム侯爵の名前はあまり聞かないな」


「祭りごとがあまり好きではないのもある、やつはあまり表に出るのを好まんからな。だが王族は代々フォルム家だけとは対立してこなかった」


「どうして?」


「それは」


「人脈ですな」


 ジゲンが説明しようとしてそこにジャス割って入る。


「四つある侯爵家は一つ一つに大きな特徴を持っているのですが、フォルム侯爵家は人脈の侯爵家と言われています」


「人脈?」


「人望と呼ぶ者もいますが、フォルム侯爵家は代々人との関わりを第一に考え動いて来た家系です。民衆の指示も厚く、仁義通し決して裏切ることのない存在・・・・・・王家はそんな家を敵に回すは不利益しか被らないと考えるのも頷けます」


 ジャスが会話の主導権をジゲンから掻っ攫ったためジゲンは若干ジャスを睨むが自分より詳しいためなんともいえないような顔で頷く。


「ただ裏切らないといっても裏切られることはあります、そのためあまり政治などに表舞台には立たないのです」


「なるほどね」


 ジンはジャスの話に納得して頷く。


「ただ裏切った物はどうなるのか知っているから王家も是が非でも敵に回したくはないのでしょう、それがフォルム侯爵家という家です」


 ジャスの最後の話に少しゾクっとするジンだが裏切らなければ心強い味方であるのだし、会うことがあれば誠意を持って接しようと心に誓うのだった。

 ジャスの話が終わるとジゲンが不機嫌そうにジンに話しかける。


「そう言えば、奴にはお前と同い年の娘がいたな」


「そういえば俺、同年代の女の子と話した経験ないわ」


「たしかに、ジン坊ちゃまはずっと修行の日々でしたからな」


「今度会ってみるか?」


「そうしようかな、聞いた感じいい人達そうだし」


「その前に淑女に話しかける礼儀などを勉強しなくてはなりませんな他にも色々と」


「うっ!」


 ジンは修行を口実に勉強をぶん投げて出て行った、前世の記憶で算術などはほぼ完璧であるが、歴史が壊滅的に勉強不足である。

 戦慄するジンと対照的にジャスは嬉しそうに笑い、ジンはそれに戦慄する。ジャスがジンの教育に燃えているのを横目にジゲンがジンに話しかける。


「ジン、リュウキが帰ったら夕食にするその前に話すことがあるから一緒にこい」


 ジゲンの呼び出しにいやな予感がしたジンは自分の予感を確かめようとしてジゲンに質問する。


「それってここだと話せないこと?」


「そうだ」


 その一言でジンの嫌な予感はだいたいあってるのだろうと悟る。


「わかった。心の準備は?」


「しておけ」


 どうやらだいぶ大事らしい、ジンは腹を括るのだった。

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