第12話 修行開始
ジンとジゲンの修行は例の一件から数日経って始まろうとしていた。
その間にルイとジゲンのジンの教育方針による家族大喧嘩があったり授業はどうするのかと文句を言うジャスをいなしたりとあったが割愛しよう。
「親父殿どこに向かっているんだ?」
年単位で家を開けることになったジンとジゲンはルイに抱きしめられること数十分、オウカに泣き付かれる数十分を経て馬車で移動していた。
「ついたらわかる」
ジゲンは目を瞑って短く答えたため。
(こりゃあれだな、オウカに俺だけ行かないでとせがまれたことを根に持ってるな)
ジンはオウカに泣き付かれたがジゲンはそんなこともなく送り出された。これは単純にジゲンは何度か家を開けることもあったからであるが、やはりジンだけがオウカに泣き付かれるのは面白くないらしい。
馬車が止まりジンとジゲンが降りるとそこには森が広がっていた。
その森に入っていくジゲンの後をジンは何も言わずに追った。
ずんずんと進むとそこに寂れた古屋がポツンとあった。
ジゲンは古屋の前まで歩くと振り返り真剣な顔をする。
「ジンこれから始める修行はおそらくお前の想像を絶する筈だ。一年後にお前を戦場に連れて行くと言ったらルイが戦場よりはここの方がマシだと言うのでな、ここでお前の修行を行う」
「親父殿も同じ修行をしたの?」
「したな、この古小屋の師匠にな」
そう言うとジゲンの後ろの古屋から建て付けの悪い扉の音が聞こえてジゲンが振り返る。
「なんじゃ、人んちの前でうるさいいのお」
そこから出てきたのは顔中白毛で覆われた老人というより妖怪に近い存在だった。
「む?なんじゃ懐かしい顔があるな」
(その毛でどうやって顔を認識してるんだ?)
「ご無沙汰しています、師匠」
(師匠!?)
急な対面にジンは内心驚いたが顔には一切出さなかった。
「なんだい、暴れん坊か」
「師匠、その呼び方はやめてくだされ、
「せがれ?」
そう言うと毛だるまはジゲンの後ろを覗き込むように見る。
「お前のせがれか」
「はい」
じっとジンを睨むように見る毛だるまにジンも目を逸らさずじっと見返す。
「にとらんな」
興味をなくしたのかボソっとつぶやいて家に戻ろうととする毛だるまにジゲンが待ったをかける。
「師匠、こいつの居合だけ見ていただけませんか?」
「居合?こんなガキが居合などできるわけなかろう」
「できます」
イラッとしたジンは一歩前に出て堂々と言う。
「ほう」
面白そうに笑う毛だるまにジンは今までひたすらにやってきた居合の構えをする。
「腰の刀は飾りじゃなさそうか」
つぶやくように言った毛だるまの声はジンには届かなかった、それだけ集中していたのだ。
ジンが集中を高めて抜刀する。
刀を振り終わり鞘に戻した瞬間にヒュンと空気を切る音が聞こえる。
ジンが姿勢を戻して毛だるまを見ると髪の毛と髭の間から目が見えた。
どうやら驚いているらしい、ジンはそのことに満足してドヤ顔をする。
「そうか、暴れん坊このガキは置いてけ」
「師匠ならそう言われると思いました」
「生意気になりおって」
どこか嬉しそうに言う毛だるまにジゲンも頬を緩める。
「どら、お前も久々にしごいてやるか」
そう言った毛だるまにジゲンは緩んだ頬が引き攣るのだった。
-閑話休題-
ジゲンが来た道を戻りながら先程までのことを思い返す。
「どら、お前も久々にしごいてやるか」
師匠のあの言葉から一戦交えてジンを預けて帰ってきた。
(どうやら師匠は息子を気に入ったらしいな、ジンが死なんか心配ではあるがまあ、奴なら問題なかろう)
自分の幼少期を思い出しながら身震いをしたジゲンだが考えるのを放棄して楽観的に大丈夫だろうと思い歩みを進めるのだった。
先程のジゲンと毛だるまのタイマンはジンの知る人の動きではなかった。
スーパーなんちゃら人の戦いなんじゃなかったのかと思うジンは毛だるまについていって古屋に入る。
古屋に入ると中は外見よりかはマシだった。
囲炉裏や座布団などオオトリ家にあるものもあってジンとしては珍しくないがこの国的には珍しい物だった。
座布団に腰掛けると毛だるまは
「さてガキ、名前は?」
「ジン」
「あん?目上には敬語だろうが」
「俺は尊敬するやつと家族に迷惑をかける人にしか敬語はつかわない」
「なに?・・・・・・このわしが尊敬できねーってか?」
「今のところは」
「そうか」
特に怒った風もなく座布団から立ち上がり
カタンと物音がしジンが反射的にチラリとそちらに目をやり何もないことを確認してすぐに視線を戻す。
「え!?」
先程まで毛だるまの顔を覆い隠していた毛がすっかりなくなっていた。
ジンが驚いて立ち上がり声を上げると、毛だるまが振り返り老人なのにも関わらず力強い真っ黒の瞳でジンを見る。
「生意気だが、そんくらいじゃなきゃ、死んじまうからな、それくらいでちょうどいい」
ニヤリと笑いながら元毛だるまは恐ろしいことを口にするのだった。
「とりあえずガキ、てめーが教わる流派なんかは聞いてんのか?」
「いや何も、修行に行くって言われてついてきただけだ」
「そうか、そんじゃそっから説明する。てめーに今から教えるのは緋剣瞬刃流だ」
「秘剣?」
「緋剣の緋は赤いって意味だ」
「赤?」
「ああ、この流派、瞬刃流は書いて字の如く一瞬で敵を斬り伏せる剣だ基本的に刀に血をこびりつかせるのは二流や三流ってことだ、だが一人二人なら血はつかねーが大勢を斬れば流石に血がつく戦争で大勢を斬った先代たちがいつの頃からか恐れられ『緋剣』と呼ばれるようになった」
「つまり馬鹿みたいに人を斬って赤く染まった刀を見てそう言われたと?」
「そうだ、いつもなら血の一滴もつかない刀が真っ赤に染まってるそいつは何人も斬った証だ、だから人は畏怖と称賛を含んで呼ぶんだ、『緋剣』とな」
ジンは元毛だるまの説明に息を呑む。
「っと、わしはガクゼン。だがまあわしのことは師匠と呼べ尊敬してなくてもな、てめーに剣を教えてやんだからよ。5、6年で物にしろ」
「わかった、師匠」
ゼンは5、6年でジゲンやガクゼンのようになれるのか疑問に思ったがしっかりと頷いた。
ガクゼンと名乗った老人は獣のように犬歯を見せて笑うのだった。
次の日から始まった修行はジンの想像を絶する物だった。
「いいか、この剣は普通の人間にはおよそ到達することのできない速度まで斬撃のスピードを上げるもんだ、体の使いかたを完璧に把握しろ、全ての筋肉とバネを使え、出なきゃ死ぬぞ」
「はい!!」
ジンは玉のような汗をかきながらガクゼンが言ったことを必死にこなす。
それは6歳の子供がこなすに粋を完全に超えていたがなんとかやっていた。
正直何度諦めようかとも思ったがその度にジンはジゲンに拾ってもらった恩や、ジゲンに何かあった時ルイやオウカやジャスやジョゼ、自分に優しくしてくれた人々を守らなければいけないと言う使命感で必死に食らいついくのだった。
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