第11話 授業

 ジゲンとの会話から数日が過ぎて

ジンの教育が始まった。

 今までも授業はしていたがこれからは伯爵レベルに授業内容を上げていくとジャスが張り切っていたのをジンは知っていたので少し憂鬱だった。


「さて坊っちゃまそろそろ始めましょうか?」


「頼むよ、ジャス」


「はい、今日は歴史の授業をやっていきたいと思っています。まず初めに八年前に起こった戦争がありますね?」


「ああ、帝国の侵攻だね」


「そうです。あの戦争でテイランが落とされ我が国は危機的状況に陥りました、なぜなら我が国は地図上帝国とはそこまで多く接触してはいません」


 そう言って黒板にでかい世界地図を貼る。


「テイランは対帝国の重要な砦です。帝国はテイランを得れば大きな足掛かりとなりましょう。そのため王は砦が落ちた翌日には大軍を派遣して奪還戦に入りました、通称テイラン奪還戦です」


「知ってる、そこで親父殿は武功を立てて男爵になったんでしょ?」


「その通りです。帝国三大将が一人のヴァーナム将軍を討ち取り救国の英雄とさえ言われました」


 ジンはこの戦争でジゲンが武功を立てたのは知っていたがまさか救国の英雄とまで言われていたのは初耳だった。


「さて先の戦争は歴史にも新しく知ってる内容ではありますが、まず我が国ベータルを取り巻く国をお教えします。坊っちゃまはどれだけご存知ですか?」


「ベータル王国は大陸の最南端にありその上に帝国。その帝国を中心に北部にデル王国、東にチャールズ共和国、西にホルン王国だな」


「その通り、では各国の交友関係はどうでしょうか?」


「帝国は共和国との不可侵条約中、北は帝国とバチバチ、西は我が国との同盟だな」


「その通りです、よく勉強されてますな」


 ジンが淀みなく答えたためにジャスは嬉しそうに頷く。


「ではもう少し詳しく掘り下げましょう。まず帝国と共和国の関係は不可侵条約となっていますが帝国は北を共和国は我が国南を得るまでの条約となっています。つまり基本的に我が国の歴史は共和国との戦争の歴史です」


「なるほどね」


「西のホイル王国とは対帝国同盟と言われていて帝国の侵攻があった場合援軍を両国互いに送ると言った同盟です。ですが先の奪還戦には援軍を待っている余裕がなくいませんでしたが、遥々共和国を睨むために遅れて我が国と共和国の国境に出陣、そのおかげもあって我が国は奪還戦を勝利することができました」


「そいつはホイル王国には頭が上がらんな」


「そうでもございません。二十年前帝国に侵攻を受けたホイル王国に我が国は援軍を送りこれを打ち返しました。その恩を忘れなかったからこその援軍であったと感謝はしましたが、対等な立場であることは変わりありません」


「なるほどな」


 ジンはその戦争を知らなかったので素直に納得した。


「さて、話は戻しまして北と帝国ですが現在進行形で北は帝国に戦争を仕掛けています」


「え!?仕掛ける側だったの?」


 ジンは帝国は誰彼構わず喧嘩を売る国だと思っていたので今回も北に侵攻しているのだと思っていた。


「はい。我が国に仕掛けた帝国は三大将を我が国に派遣しました。そこで薄くなった北側が侵攻を開始したため三大将の二名は本国に帰還、奪還できるとは思っていなかったのもあるとは思いますが得てして我が国は北に助けられました」


「なるほど、でも三大将を二人も返すってことは北の兵は精強であるってことか」


「ですな、北との交流はほぼありませんがその兵の強さは大陸一ではないかと言われるほどです」


(そこまでか・・・・・・)


「話が少しそれましたな、テイラン奪還戦はなぜ起こったのかそこを少しやって今日の授業は終わりです頑張ってください」


「確かに、共和国が攻めてくるならいざ知らず帝国は南を共和国に譲る条約じゃなかったか?」


「確かに不可侵条約はなされていますが、共和国は南、帝国は北を得るこれは暗黙の了解なのです。つまり帝国が南を攻めても別に誰も何も言わないと言うわけですな」


「だが、帝国との国境が限られる中最重要拠点を取られるなんて王手まじかもいいところだ、なぜそうなった?」


「油断、もあったでしょうが二つの原因がありませような」


「二つ」



「一つは宣戦布告を攻撃を開始してから行ったためです」


「つまり宣戦布告をしなかったといっても過言じゃないってことか」


「その通りです、テイランは周りが森で見通しが悪くまたここにくるまでに報告があるだろうと見回りの者がその日はサボっていますた、間諜などもいましたが帝国は我が国の領土に侵攻を成功したということです」


「だがテイランに大軍が侵攻していれば道中目につきすぎる、すぐに対応できたんじゃないのか?我が国の間諜は無能なのか?」


「無能ではありませんと言いたいところですが、これは我が国の恥であります。間諜が寝返っていました、そのため侵攻に気付くのに遅れたということです」


「全員裏切ったのか?」


「裏切ったものが中々上位の者だったため配置を知られて何人かは始末されましたな」


「戦争か・・・・・・」


「さよう、これが戦争です」


 部屋に沈黙が流れる。

 ジャスがパンパンと手を叩いて場の空気を切り替えるさせる。

 

「さて今日の授業はここまでです。初日なので触りの部分だけですが、明日からはもう少し深掘りして、そのあとは歴史的大戦などを振り返っていきますよ」


「わかった。ありがとうジャス」


 ジンはそう言って席を立つと少し固まった体を伸ばしたのだった

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