第10話 できレース

 ディノケイドの発言に一番好色を示したのはもちろんロイストスだ。

 その件で話とは、何か好転するのではないかと思っているらしい。


「それはどう言った話でしょうか?」


 ジゲンは嫌な予感を抱えながらディノケイドに質問する。


「うむ、今ジゲンの爵位は男爵であるが近々爵位をあげる予定である」


「なに?わしは聞いとらんぞディノ」


 驚いたジゲンは敬語を忘れてディノケイドに詰め寄る。


「だから言うておろうが今からその件で話すと」


「むぅ」


「ジゲン、お前には一つ頼みたいことがあってな」


「頼み?」


「うむ、我が国にもう一つ騎士団を増やそうと思っておる」


「騎士団••••••」


「そうだ」


 この国、ベータルには近衛を抜く騎士団が三つ存在している。

 これはなぜかわからないがジンの知る前世の記憶にもある守護神の名前をしていた。


 まずは第一騎士団として名高い、剣聖が率いるベータル王国最強を誇る朱雀騎士団。

 次に第二騎士団として奇襲や工作など起用にこなし、また戦力としても申し分ない白虎騎士団。

 最後に第三騎士団としてベータル守護の要、鉄壁を誇る玄武騎士団である。

 

「第四騎士団の発足とそれに伴った親父殿の陞爵しょうしゃく••••••つまり騎士団の中核に親父殿を据ると言うことでしょうか?」


 今まで話を聞いていただけのジンが会話に参加すると驚いたという顔でディノケイドがジンを見る。


「そうだ、六つにして話を理解するか」


「父上、ジンはそこらの六歳児とは隔絶かくぜつした思考を持ちます」


 自慢げにロイストスは笑うが、ジンにはその声は届いていない、そんなことよりも今の話の先をジンは思考していた。


「だが、中核というのは間違ってはいないが七十点というところだ」


「まさか」


「至ったか、そうだジゲンには第四騎士団、通称[青龍]の団長になってもらう」


「ばかな!」


 これに驚いたのはジゲンである。

 確かに騎士団が新たに発足し、先の戦争では第一功労の名誉を承ったジゲンが中核に入るのはあり得るかもしれない、だが団長などとは身分が釣り合わなさすぎる。

 いくらそのための陞爵しょうしゃく出会ったとしても周りは納得しないだろう。


「恐れながら陛下、よろしいですか?」


 そこで口をひらいたのはジンだった。


「よい、申してみよ」


「親父殿の陞爵しょうしゃくは決まっているとおっしゃいましたが、どれだけ譲歩したところで子爵にするのが席の山でしょう」


「ふむ、続けろ」


「子爵では団長という重職にはつけないでしょう、ですが伯爵ともなれば辛うじて可能かと思います」


「ほう、なぜ伯爵ならば可能なのか質問しても良いか?」


「はい、恐らく陛下は平民出身の騎士たちを親父殿に任せられるおつもりですね?」


「ほ〜う、なぜそう思う」


「先の戦争で貴族が減り平民出の騎士爵が増えました、それにとない騎士団にも平民出の騎士が大変増えたと聞き及んでいます、また陛下の新たな方針として優秀で有れば平民も重役につけるとおっしゃられました。そうなると不満を持つのが元々重役についていた貴族です。恐らく騎士団での貴族と平民に不和があると見ました、そこで平民出の騎士を一つにまとめた騎士団を作ってしまおうと考えた、そして陛下の信頼のおける親父殿を団長につかせるという形で••••••平民出の騎士ならば伯爵ほどの位があればいいでしょうから」


「ふふ、はっはっはっは!見事だ!ジゲンお前は傑物を息子にしたな」


「わしよりは頭の回転が早いことは間違いないな」


 旧友に息子を褒められ満更でもないジゲンだがジンの話が本当ならこんな呑気にしているわけにはいかないだろうとジンは少しジゲンの楽観的な反応にため息を吐く。

 ジンが自分の考えを話し、それが的を得ていたとわかりそこから問題点を挙げる。


「ですが陛下、先程申しました通りいくら親父殿の功績があるとはいえ陞爵しょうしゃくは子爵がやっとであり、伯爵にするには周りを納得させる新たなる功績が必要と思いますがいかがですか?」


「その通りだ、だが抜かりはない。ジゲン」


 先程までのフランクな感じの雰囲気ではないと読み取ったジゲンは膝を着き首を垂れる。


「はっ!」


「そちには一年後、我が国より南の部族に属国交渉へ行ってもらう」


「属国ですかな?」


「まあ属国とは言うが南の部族に国はない集落単位での部族が複数あるだけだが、もし北の帝国に侵攻された場合後ろを危ぶんで戦争はなんとか避けたい、そこで南の部族の懐柔を行いたいと思っている」


 ジンはディノケイドの案になるほどと思った。

 南の部族は複数の集落に文明がまだそこまで発達していない人々が転々と存在しているそこをベータル王国が占領すればベータルの南に脅威はなくなる、しかもこれを平定したとなれば中々の功績としてジゲンは評価されるだろう。


「ですが、そんな簡単に行くでしょうか?武力で占領を行えば禍根を残します」


「誰も武力とは申しておらん、お前は武力ばかりの男だからなその辺は心配ではあるが、これはできレースだ」


「できレース?」


 ジゲンが眉を顰める。


「そうだ、元々もう南との話はついておるがこれを知るのは私とデイナーのみ密書によって交わされた物を表明するだけと言うところまで話が進んでおる」


 デイナーとはオルガ侯爵家当主であり第二騎士団[白虎]の団長だ。

 ディノケイドにとって、ジゲンが武力の懐刀だとするならばデイナーは知力の懐刀だ。


「なるほど、ですがそれならばデイナーの手柄では?」


「奴とも話し合ったが、面倒ごとが起きそうでな。情報では五、六年を目処にまた帝国が動き出すのではないかと思っている」


 少し衝撃を受けつつもジゲンは食い下がる。


「だとしてもわしは騎士です。戦争になれば駆り出されるが宿命、騎士団の長になる必要があるのでしょうか?」


「戦争に赴くのは確かに騎士の命ではあるが前とは状況が違う。お前は一騎士として上の者の命令に背くわけにはいかんだろう、そうなれば上によってお前の本領が発揮できない。なればお前をトップんしてしまおうと思うてな」


(ぶっ飛んでやがる。親父殿が本領を発揮するために新しい騎士団を作ろうなんて、やっぱり王様ってゆーのは考えることがちがうな)


 ジンはこの親にしてこの子ありだなとロイストスとディノケイドを交互に見た。


「して、どうだジゲンやってはくれまいか?」


 そう言われたジゲンはこれ以上は失礼であると上げていた頭を下げて了承した。



「さて、ジゲンが了承したとなれば早くて一年後からジンお前は伯爵の息子だ。まぁこれでもロイの友として側に仕えるには中々難しいが、まあ大丈夫であろうお前ならそのうちそれなりの功績を残してくれるであろうしな」


「さすが、父上!」


 ジンは喜ぶロイストスとニコニコしたいるサファイアを尻目にドンマイという顔をするジゲンに睨むことしかできなかった。

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