第2話 教え
ジンが庭に戻ってくると、ジゲンは近くに落ちていた木の棒で肩を叩きながら待っていた。
「お待たせ!おじさん!」
ジンが意気揚々と木刀を胸に抱いて走って駆け寄ると、ジゲンは困ったような顔をした。
「そのおじさんってのはやめろ、まだわしは三十七だ」
「三十七?」
いや、それはおじさんと言っても差し支えないのでは?
「おい、なんだその顔は」
「ご、ごめんなさい。その貫禄がね」
「まぁいいか、じゃあ見てやる構えな」
「うん!」
適当な言い訳をしたジンはいつものように剣を中段で構えてジゲンと対峙するが、ジゲンはさっきと変わらず、棒を肩にか乗せたままだ。
「いくよ」
ジンは深呼吸しながらゆっくりと足に力を入れて、腰を落としジゲンの隙を探ろうとするが、明らかに隙がないどこから飛び込んでも剣を交えるイメージが湧いてこない。
それだけの威圧感を放っていた。
「おいおい、坊主来ないなら俺から行くぞ」
そういうと、ジゲンがジンの視界から消える、一瞬の硬直何が起きたか思考が追いつかない中、ジンは判断したここでジゲンが消える、それはジンに剣を当てるためだ。
だとすればとりあえずこの場を動かなければ、間違いなくジゲンの棒はジンを捉える。
ジンはそう考えると思考が終わる前に左に飛ぶ。
着地に失敗して転がりながら体制を整えると右の太ももに痛みを感じ、視線を向けると右太ももは赤くなっていた。
「ほう、こら驚いた今のを避けるか」
「当たりました」
「いや、わしはお前さんの頭に棒を軽く当てるように振ったが、お前さんの足に当たった、これは避けたと言っていいだろう......いや正直驚いた見えたのか?」
「いえ、何も、ただあそこにいたら必ずやられると思ったので」
「なるほどな、いや甘く見た、すまんな小僧」
ジンは坊主から小僧にクラスアップしたらしい。
「では次は、そちらからこい」
ジンはジゲンに少し褒められたのが嬉しかったが、汗が尋常じゃないくらい背中を伝っていた。
恐怖ではない、威圧感が凄まじいのだ。
「では、いきます」
だが、ジンは覚悟を決めて言い放つ。
先程と立ち位置は逆だが、お互い対峙するが、ジゲンはさっきと打って変わって真剣に片手で棒を構える。
ジンは目でフェイントを入れて右に走り出す、だがジゲンはジンのなんちゃってフェイントなど一切引っかかることなくその瞳にしっかりとジンを写していた。
話は変わるがこの時ジンは完全に生前の記憶が覚醒していた。
生前に少しだけ習った、剣術を駆使してどうにか追い縋ろうと記憶と思考をフル回転で回した。
おじさんの右側面に回ってそこから直線的に突っ込む。
ジゲンはゆっくり体制を受けに回そうとした瞬間、ジゲンの視界から消えるようにジンは右斜めに体を沈み込ませる。
人間の視線は上下左右は追えるが斜め方向には追えないと、何か読んだのを思い出したからである。
ジンは右斜めに体を沈み込ませて下段から木刀を振るう。
だが、ジゲンの視界から消えることはできなかったらしい、しっかりと瞳に捉えたジンを見逃すことはなかった。
ジンの渾身の下段斬りを余裕で受ける。
「......なるほど」
ジゲン一言言うと、腕の力を抜く、ジンもそれに合わせて力を抜く。
「お前さんその剣誰に習った?」
「えっと、独学です」
嘘は言っていない。これはジンが前世の記憶にあった剣術をなんとなく思い出して、毎日基礎の素振りをしていただけだし、実践的な模擬戦もこれが初めてだ。
模擬戦と呼べるかはいささか疑問は残るがそれは別にジンにはどうでもよかった。
「なるほどな、ところで先ほど
侯爵殿にお会いした時御子息を紹介されたがその中に小僧はいなかったが?」
「ああ、それは俺がこの家には特に必要のない存在だからでしょう」
「ふむ、不愉快でなければ少し話してみる気はないか?」
「別に構いませんよ、特になんとも思っていませんし」
ジンはこれまでの出来事を話した。
四歳から家族とは必要最低限のコミニケーションしか取っていないこと、屋敷全体で自分が空気のように扱われていること、全てを話した。
「なるほどな、それで小僧は騎士になるのか?」
「そうですね、剣を振るのは好きですしそうなろうとは思います」
「そうか、剣は好きか」
すごく優しい顔で微笑んだジゲンは、そっとジンの頭を撫でてた。
「よし、小僧なにかの縁だこれをやろう」
そう言うとジゲンは木の下まで歩いていってなにかを拾い上げる。
さっきはジゲンの影にあって気づかなかったが、どうやらそれは剣らしい。
いや、それは大小、二振りの刀だった。
ジンの記憶ではテレビや漫画などでした見たことがなかった刀に自然とジンのテンションが上がる。
そして、ジゲンは短い刀をジンに差し出してきた。
「こいつは脇差しって言うんだが、まぁいい小僧にピッタリの大きさだろう、これをおまえさんにやるよ」
「いいの!?おじさん!」
「ああやる、んで今から見せるもんを一年間やり続けな」
そう言ってジゲンは刀を左腰に刺して、柄の部分に手を這わせる。
腰をゆっくりとおとし、目を瞑る。
数秒、瞑想して一気に刀を鞘から引き抜く。
剣を振り終えたと認識した瞬間に送れて音がヒュンと聞こえてきた。
静かに引き抜かれた刀は一才の曇りなく空気を切り裂いた。
「すげえ......」
ジンはただただ感嘆した。
「今見せたのは、居合術だ」
「すげーよ!おじさん!」
ジンは興奮で敬語を忘れて目を輝かせた。
それだけジゲンの居合は凄かったのだ。
「かっかっか!そうだろ!よし小僧それをやるから、鍛錬しとけよ」
「うん!俺やる!」
そう言うとジゲンはちらっと後方を見てジンの頭を撫でる。
「さて、そろそろわしは帰るからな、頑張れよ」
そういうジゲンの視線の先に目を向けると、ゲイツと壮年の男性がジン達に視線を向けていた。
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