刀戦記
黒狐 善
幼少期
第1話 輪廻
『輪廻転生』この言葉知らない人間はそう多くないはずである、知らないのはまだ言葉の多くを知らない子供と本当に無知な人間だけだろう。
テレビやネットでも輪廻転生といえば多くの人間が想像することは容易い、そんなありふれた言葉である、だがこの輪廻転生を体験した人やどういったものであるかを推測以外で語れる人間は、まぁいないと思う、なぜならそれは一つの考え方であって事象として確実におこることではないからである。
人は人に生まれ変わり、虫は虫に生まれ変わる、なんてことも聞いた覚えはあるが、実際自分の前世を覚えてはいないし、テレビなどでたまに目にする前世の記憶をもった子供などどこまで本当かわからない都市伝説みたいなもんだ。
そう思っていた人間が転生をしてしまった。
転生はあった適当に流し見して申し訳ないと転生した記憶を話していたあのテレビの中の子供に言わざるを得ないだろう。
いつからとかどの瞬間とかは全然覚えてないが自分に前世があること、自分とい存在は2度目であるとジンは漠然わかっていた。
だがここで問題なのは確かに前世の記憶はあるが前世の自分の名前なんかは覚えていない、ただ断片的にやったことや言葉などを覚えていたが精神が身体に引っ張られてなのかジンは積み木遊びや鬼ごっこといった子供の遊びに本気で取り組んでいた。
そんな中、ジンの四歳の誕生日が訪れた。
この国では四歳の誕生日だけは家族が必ず揃わなければならないと言う謎の様式美があったからだ。
そうでなければジンは物置と化した部屋で今日も硬いパンと味のしないスープを飲んでいただろう。
「ゾール、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、父上!」
「貴様もな」
「ありがとうございます」
ジンは一緒に祝われているゾールの後に続く。
その日は、ジンの四歳の誕生日だった。
ベータル王国のバスター侯爵家は、家族で誕生日を祝う、侯爵家といえばなかなか裕福な貴族だ。
そこに三男として生を受けたジン・バスター黒髪黒目と父にも母にも似ていなかった。
これは先祖返りと言って稀にあることなのだがそんなもの知る由もないこの家でジンはいない者として扱われていた。
特に夫婦仲に問題ができるわけではなかったがジンの見た目には問題があった。
近年この考えは迷信であるとされて来たが歴史の古いバスター侯爵家では黒髪黒目は厄災の子として扱われていたのだ。
黒髪黒目が生まれた時殺そうと話になったが、その場に迷信であると説いた現国王がいた為ジンの命は救われていた。
そんな状況なのでジンをかまってくれたのは年配の使用人だけでその人も先日この世を去ったことでジンは家で孤独を味わうと言う奇異な状況だった。
静かに食事をするなか、徐に父、ゲイツがしゃべり出した。
「ジン、お前は三男で家を継ぐことはない、十六の歳には家を出ろ」
突然そう言うゲイツにジンは少し戸惑いながら肯定を示すと、ジンをいない者のように扱う食卓が再開され、それ以降口を開く者はいなかった。
ゲイツはジンに対して生きていく上で最低限の食事しか与えず家族の会話にジンを入れることはなく徹底してジンを除け者にした。
この日からジンは家で空気となった、父、ゲイツ・バスターには会えば睨まれ母、セスナ・バスターには母と呼んでもヒステリックに怒鳴られ、長男、デル・バスターは完全にいない者として扱われて。さらには双子の次男の兄、ゾール・バスターとは四歳の誕生日以降会っておらず。それまではずっと嫌がらせを受けていた。
そしてゾールとジンの誕生日以降家族で会うと言えばゲイツとデルだけで、それも廊下すれ違いジンが頭を下げ、それに舌打ちを返されるだけの関係性だった。
そんな毎日を過ごして、一年が過ぎたジンは、この一年やることもなく誰からも空気のように扱われたため読書と独学で軽い剣の稽古、前世の記憶を何となく思いだすということだけしていた。
遊ぶ物も、遊んでくれる者もいなくなったからである、ジンは寂しさを紛らわすために前世のことをよく思い出すようになった、前世でのジンは両親に愛されていた、そのことを断片的だが思い出し、なんとか心を保っていた。
そんなふうに過ごして五歳になり数ヶ月が過ぎた頃その日は唐突にきたのだ。
“ジンの運命を変える日が訪れる”
その日は晴天だった、珍しく家の者が慌ただしく動き回っていた。
ジンは一人名前も知らない使用人を呼び止めて事情を聞くと、使用人は少しめんどくさそうに答えた。
「今日は、国王様がお見えになられて皆てんやわんやです」
ジンは驚いたまさか国王が家に来るとは思っても見なかったからだ、だが単純な疑問を使用人にぶつける。
「それなら、前々から準備しておけばよかったんじゃ」
「いえ、それが今日の朝に使者が来て急な訪問になると報告を受けて直ぐに到着された次第でして」
「あぁ、なるほど」
ジンは家の事柄に対して何も話を聞いていないので、そういうことかと納得した。
引き止めてごめんなさいと使用人を解放すると、使用人はまた忙しそうに廊下を早歩きしていった。
「そうか、陛下か」
ジンはボソっと呟いて、なんの気無しに庭に足をむけた。
ジンからしたら王様などといったその辺の祭り事は本当に無関心だった、なぜならジンは屋敷から出たこともなく屋敷の中でも隔離された存在だ、そんな外のことなどもはやなんの関心も湧かなかった。あるとすれば朧げな記憶にある日本に文化の似た大和の国だけだ。
いつも本を読む木陰まで行くと見知らぬ黒いコートののような物を着ている黒髪の男が胡座を描いて舟を漕いでいた。
なんでこんなところに?と疑問に思ったジンだが、まぁここまで入ってきて、しかも眠っているってことは身元が取れた人間であるだろうと、起こさないようにそっといつもの位置に座り本を読み始めた。
どれくらい時間が経っただろうか、本も読み始めて半分に差し掛かるかどうかというところで、隣から身じろぎをする気配がしてジンはそちらに顔を向けた。
「んん〜、よく寝た〜」
「おはよう、おじさん。ここはいい日照りだし眠くなるよね」
「おお、おはよう坊主。確かにここはいい場所だ。ところでふつうに話かけたがおまえさんは誰だ?」
「あぁ、俺、いえ私はバスター侯爵家が三男のジン・バスターです」
「そんな畏まらんでもいい、いつも使うしゃべり方で構わんよ、そうかここは、お前さんの特等席だったか?」
「そーですね、ここはいいところなのに皆は来ませんから」
「ふむ、ところで坊主、お前さんはわしが誰なのか気にならんのか?」
「気になるにはなりますが、ここまで入って来て眠っているってことは盗賊って線はほぼないですし、陛下が訪問されているといことは聞いていたのでそれに連なる方なのかなと」
「ほう、賢いな」
壮年の男性は、ニヤニヤして無精髭を生やした顎を手でさする。
「たしかにな、ここで寝てるよな盗賊は馬鹿か肝の相当座ったやつ......いやただの馬鹿か」
「ですね、それで結局おじさんは誰なんです?」
「おお、そうだったそうだった、わしはジゲン・オオトリだ」
「オオトリ.....東の出の方ですか?」
「おお、物知りだな坊主その通り東は
「知っています!東の国には一度行ってみたかったんです!」
「お、おうそうか」
ジンが食い気味に壮年の男性に詰め寄ると若干引き笑いをしている。
「すみません、少し興奮しました」
「いや構わんよ、そこまで祖国に興味持ってくれる若者は珍しくてな少し驚いただけだ」
「本で読んだのです。東では刀と呼ばれる片刃の剣で剣術は世界から見ても他の追随をゆるさないという」
「そこまで言ってくれると恥ずかしいな」
おじさんは自分が褒められたとように照れ笑いをする。
「坊主は、剣を握るのか?」
「一様、独学ですが」
「ほう、俺もお前さんが言う刀を使う剣士だ少し教えてやろうか?」
気をよくしたのだろう壮年の男性は、そんな提案をしてきた。
「本当!?ちょ、ちょっと木刀を取ってくる!」
ジンは記憶にある侍に剣を教えてもらえることに興奮して急いで部屋にお手製の木刀を取りに走った。
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