第46話 色気より食い気
「色気より食い気」ということわざを辞書などでアレしてみると「異性に対する関心よりも、食べることへの関心が先であること。転じて見栄より実利を取ること」などと出てくる。
数多あることわざの中でも「具体的にそれが発生した際のシチュエーションがわかりづらい」という点においては、他のことわざの追随を許さない「色気より食い気」だが、皆さんのなかには「色気より食い気」なエピソードはあるだろうか。
おれにしてみれば「めちゃくちゃ好みの女性から言い寄られているけど、今は辛子明太子を食べる方が大事」みたいなシチュエーションなのだが、どうもそんな状況が起こりうるような感じはしないし、したところでやっぱりおれは辛子明太子の方が大事なので「いま辛子明太子食べてるんでちょっと待ってて」と言って、言い寄られたチャンスをふいにする、みたいなことにはなろうと思う。
おれの場合、自分が食事している(あるいはしつつある)状況において、その食事をないがしろにしてまでも「色気」に向きを変えるようなことは、なかなかむつかしい。それが仮に妻だったとしても「いま辛子明太子食べてるんでちょっと待ってて」ということにはなってしまうだろう(これを聞いた妻は爆笑していたが)。
目の前にいきなり女体が現出したが、同時に自分の好きな食べ物も現出して、さあどっちだ、みたいな究極感の高いシチュエーションならまだ選びようがあるかもしれないが、それこそレアケースの極地であろう。一体その状況は何なのか、思考実験なのか、あるいは夢か妄想か、異世界ファンタジーか。
似たようなことわざに「花より団子」というのがあるが、これも実際のところ「私は団子とかマジでどうでもよくて、とにかく花です」みたいな人はあんまり居ないわけで(そもそもなんで団子と比較したんだみたいな感じになるでしょ)、団子を後ろに持ってきた時点でもう花の選択肢は薄いわけですよ、分かりますか、これが。
これについてくだんの知人に意見を求めたところ、曰く「女友達同士でケーキの食べ放題に行くか、あるいはこっそり予定を入れてた合コンに行くか、みたいな話のことでしょ」とのことだが、なるほどそれなら分かりやすい。俺の場合は「ケーキ食べ放題の合コンに予定を変更してそこに行く」となる。えっ、そうじゃなくて?
おれの「色気より食い気」な思い出があるとすれば、中学生の時、風邪で休んだ同級生の女の子の家にプリントを持っていったら、昼間静養してだいぶ回復したのか、晩ごはんの唐揚げらしきものをものすごい勢いで食べていたのをたまたま目撃してしまい、やたら慌てふためいて恥ずかしがられたという、なんとも微妙なやつしかないのだが、これはまさに「色気より食い気」だったのではないかと思う。
ちなみになんで恥ずかしいのか後日聞いてみたんですが「たくさん食べてたから」とのことでした。同級生だから恥ずかしいも何もないような気がするけど。おれ、たくさん食べる女の子好きですよ。
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