第44話 カレーライスにもっとも合うもの
カレーライスに何が合うかと聞かれれば、100人中128人くらいは「福神漬け」「らっきょう漬け」など、カレーライスの延長線上に存在する添え物を挙げるだろう。福神漬けやらっきょう漬けなどは確かにおいしく、いくらあってもよい。実際、おれもカレーライスを食べる時は福神漬けの有無がそのままテンションの高低に比例するほど好きだったりはする。ほか「サラダ」や「ヨーグルト」などのサイドメニューを挙げる人もいるだろう。ちなみに福神漬は1包10gぐらいで小分けにされた1食用のパックを使うと食べ切れて至便なので、ぜひそれを使ってください。
話がずれた。が、ここでもう一度タイトルをよく読んで欲しい。
そう「カレーライスにもっとも合うもの」なのだ。なんとなく違和感はないだろうか。
カレーライスは、基本それ単体で既に完成している料理であり、そこに何か足すとしてもそれはトッピングや付け合せといったポジションで以て存在するものである。
どういうことかというと、カレーライスというのは基本「他のものならなんでも大抵カレーライスに合うようにできる」料理なのである。とんかつならカツカレーだし、魚介ならシーフードカレーだ。最近ではフルーツソースの入ったスパイスカレーなんかもある。つまり、何を合わせても基本的にカレーライスはカレーライスとして存在し続けられるのだ。
そうなると「カレーライスとは全く独立した存在で、かつ、カレーライスとの紐付けがあまり知られておらず、カレーライスに存在を飲み込まれないもの」というのが、おれ的には「カレーライスにもっとも合うもの」と呼べるのではないかと考える。
前置きが長くなってしまったが、そんなわけでおれが最もカレーライスに合うと思うもの、それは「ビール」である。
食べ物じゃなくて飲み物かよ、というブーイングが聞こえてこなくもないが、まあ落ち着いて欲しい。
そもそも、カレーライスとビールを一緒に頼む人なぞ、おれの観測範囲ではほとんど見たことがない。
誰しもカレーライスを食べることはそれなりにあるだろうが、そこにアルコールが絡んでくることがない、というコンセンサス。これはカレーライスを食べる機会がほぼ昼に固定されているというのが、大きな要因ではないかと思う。
家でも外食でも、おそらくそのほとんどが朝(翌朝)か昼の喫食だろう。もちろん夜に食べることもあるが、いざドーンとカレー皿が目の前にあったとしても、少なくとも「じゃあビールも」という気持ちにはならないだろう。おそらく「カレーライスは主食だから」というのがまずあり「だから晩酌としてのビールに合わせようなど微塵も思わない」といった理論展開になりがちだからではないか、と思う。
既にお察しかもしれないが、おれが「カレーライスに最も合うものはビールである」と考える理由は、味ではない。
果たしてカレーライスを食べると、口の中がスパイスによって支配され、スパイスの鮮烈な風味や辛味とごはんのおいしさによって、まず芳醇を感じる。この現象をおれは「口中芳醇」と呼んでいる。
この「口中芳醇」はそれはそれでいいものなのだが、ずっとその状態だと飽きがくる。
そこでビールなのである。ビールの苦味と爽快感、擦過感によって「口中芳醇」は一旦リセットされ、また新たに「口中芳醇」の機会を得ることができる。要はビール一口ごとにリセットをかけ、何度もカレーライスのおいしさを体験できるという理屈なのだ。
賢明な読者諸君であれば「じゃあ炭酸水でもいいじゃん」「おれはコーラで」「わたしはスプライト」など様々な炭酸飲料を挙げると思うが、それについてもおれはビールである。ビールのあの苦味と爽快感、あれこそがカレーに合う。もちろんコーラやスプライトなど甘い味でもそれなりの効果はあるが、個人的にはビールの苦味こそ、カレーライスの口中芳醇をリセットするのにうってつけだと考える。
よく「揚げ物にはビール」と主張する人が居るが、おれのこれもまぁ、それに近いものであろう。ただ、あっちはカレーライスの口中芳醇度合いよりも、爽快感のほうが重要視されているきらいがあると思っているのだ。味のついたフライとカレーライスでは、それそのものに含まれるスパイスの量や粘度などを考えるに、口中芳醇の度合いは後者の方が断然上であろう。
おれは普段ほぼゼロと言っていいほど酒を飲む機会がないのだが、自宅でカレーライスを食べる時だけは、一人よそよそしくビールを開けて、カレーライスとともに味わっている。家族、友人、知人、誰からも理解を得られないが、そういった逆境に置かれる状況がなお、おれにおけるカレーライスとビールの相性をより強固なものである、と確信付けるに至っている。
そんなわけで、ぜひカレーライスにはビールを添えて食べて欲しいと思う。外でやる場合は諸々の都合もあろうから、ノンアルコール飲料などで代替するのがよい。CoCo壱番屋であればキリンのノンアル飲料が置いてあるので、至極手軽に体験できよう。これを期にカレーライスにはビールというコンセンサスが広まってくれれば、おれはこんなにうれしいことはない。
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