第39話 ロスト試食ノロジー
失われた技術のことを「ロストテクノロジー」というが、コロナ禍でほぼ失われてしまった技術・・・技術ではないが、行為のひとつとしての「試食販売」について書こうと思う。
さすがに試食販売について敢えて説明する必要はないかと思うが、いちおう説明しておこう。デパートやスーパー・百貨店・催事などで、店舗スタッフやメーカの営業などが、自社製品や仕入れ品をその場で調理し、買い物客に振る舞いながらセールストークをし、あわよくばセールス品を買ってもらおうというタイプの営業施策である。「実演販売」などと言ったりもする。
コロナ禍以前、試食販売はどこにでもあった。特にスーパーで多かった、焼いたばかりのウィンナーソーセージや餃子などが、おいしそうな匂いとともに、このポリ皿って試食以外に使ってるの見たことないんだよな~と思わんばかりのポリスチレンでできた超小さい皿(薬味皿というらしいです)でもって小分けになって供されたりしつつ、買う人は買うといったような光景は、2022年におけるコロナ真っ只中の現在、もはや無くなってしまったように思える。
今考えてみると、お試しサイズとはいえ、タダで物が食べられるのだから、訴求効果としてはこれ以上ないものがあったのではないだろうか。鰻屋はわざと煙をモクモクさせることで客を誘うなどといった言説があるように、店舗に充ちる試食品の匂いもまた、買い物客の鼻をくすぐる力は半端でなかった。年配の人ともなると、昔は試食目当てにデパートなどへ赴いたという話も決して珍しくはなく、頻度はそこまでないにしても、立派な生活様式ならぬ「買い物様式」として根付いていたのではないかと思う。
「気になる食べ物なので、あらかじめ味見して判断してから買う」という行為は、わかりやすいし、親切ではないかと思う。しかしながら2022年現在、景気もそこまで良いとは言えないご時世なので、こういったフレンドリーなやり方は、仮にコロナ禍でなかったとしても、だんだんと難しくなっていったにちがいない。実際のところ、おれの地元のスーパーで試食販売をしている店舗は、もうなくなってしまった。催事などがあれば別だが、コロナ禍以降催事自体がほとんどない。
トングでつかんでトレーに載せるタイプのパン屋や惣菜店なども、1つずつ個包装にするなどの対応が始まっているように、試食販売もまた、業界団体で中止の方向にむいていると聞く。販売効果はそれなりにあるし、やりたいのとやれないのと、ちょうど半分ぐらいなのだろう。試食自体は日本のみならず海外でも普通にあり、コストコなどでは感染対策を施したうえで復活したらしい(試食ブースを固定せずに、カップ単位で配り歩く方式とのこと)。やれる分野とやれない分野があるというのは、今後を予測するうえで大きなヒントになるかもしれない。
単純に経費ばっかりかかるのであれば本当にロストテクノロジーならぬ「ロスト試食ノロジー」として消え去ってしまうのかもしれないが、ニュースなどを読む限り、なんとか復活させたいという動きはあるようだ。消費者側としてみれば、タダで味わえるというのがある種のエンタメ感を醸成しており、楽しいことは楽しいので、ぜひ業界団体にはコロナ禍における試食などを引き続き模索していってくれればと願う。
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