第22話 冷たい食べ物のおいしさ

 冷奴や冷や麦などに代表される「冷たい食べ物」だが、お隣の中国などでは「体を冷やすから体に悪い」という評価があったりする。一度に大量摂取すると内臓を冷やしてしまうし、特に胃腸は冷却によって活動力が低下すると食欲の減退を引き起こしたりするといった言説もある。また人によるが、内臓が冷えることによって内臓脂肪が蓄えられてしまう、といった懸念もあるらしい。


 エビデンスにあたったわけではないので本当かどうかは定かではないが、おれは冷たい食べ物が好きということもあるので、実際そのような進言を頂く事も多いし、体調的に思い当たるフシも多い。その度に「ああそうか、じゃあ温かいものも食べます」などと返すことは返すのだが、気がつくと冬でもアイスコーヒーを飲んでいたりするので、あんまり信用ならない。


 以前「冬でもアイスコーヒーが飲みた〜い」という回で似たようなことを書いたが、おれは食品というものは「温かい場合のおいしさ」「常温のおいしさ」「冷たい場合のおいしさ」という3つの異なるおいしさを持っているはずだ、と思っている。


 日本料理の「寿司」なんかは、イメージ的には冷えている感じもするが、あれはおそらく「常温のおいしさ」の範疇ではないだろうか。一方で「焼き魚」なんかだと「温かい場合のおいしさ」に対して「冷たい場合のおいしさ」なんかがあったりする。焼き立てのホクホクしている焼き魚もおいしいが、冷えた焼き魚を箸でどうにかこうにかほぐし、フレーク状にしてから食べるというのも、それはそれでしみじみとした旨さがある。サラダなんかは、それ単体で見れば完全に「冷たい場合のおいしさ」になるだろう。


 俳優の山城新伍のエピソードで「自分はおばあちゃん子だったのだが、そのおばあちゃんが『冷や飯を食ってる人間はろくな人間じゃない』という考え方の人で、毎日小学校のお昼の時間になると、炊きたての御飯を詰めた弁当を学校まで届けにきてくれていた。特別扱いを良しとするわけにはいかないので、担任が『すみませんがおやめください』とたしなめるものの、祖母は『うちの子には絶対冷や飯は食べさせません!』と怒り返し、断固として譲らなかった」というのがある(確か「徹子の部屋」だったと思う)。


 まあ、そこまでいくと凄いな〜と思うが、おそらく彼のおばあちゃんにとってのご飯は「温かい場合のおいしさ」が最上であったが故のものなのだろう。おれはコンビニに陳列されている冷たいおにぎりも、あれはあれで温かいおにぎりとは違うおいしさがあって好きだが。


 「冷たい場合のおいしさ」に気づくと、惣菜パンなどによくある「あたためるとよりいっそうおいしくめしあがれます」という表記に対し「食べ物には冷たい場合のおいしさというのもあって・・・」などと講釈をしたためたくなるのだが、あまり理解されない。「温めなくてもそこそこおいしいんでしょ?じゃあ温めないで食うよ」といった価値観なのだが「温めればよりおいしくなるのになぜ温めないのか」という感じで却下されてしまう。これもなんだか戦争と宗教のニオイがするな〜。圧倒的に不利っぽいけど。


 食後の白湯などの文化からも分かるように、おそらく大多数の食べ物に関しては、温かい状態のものを頂くというのがセオリーなのだろうと思う。ただそれでも、おれは「冷たいものにも冷たいもののおいしさがあり、それは温かいもののそれとはまったく意趣の異なるおいしさである」という考えを持ち続けたいと思う。美味しいものは体に悪いとも言ったりするが、冷たいもののおいしさというのもそれに類するもので、マジョリティにはならないのだが、それでもおいしいものはおいしい。


 ちなみに「コンビニ弁当の電子レンジ調理などによって温められたお新香は是か非か」という議論もあったりする。おれは漬物自体が好きだし、電子レンジ調理だと不可抗力なので、温められていても(コンビニ弁当の電子レンジ調理であれば)問題ない」というスタンスなのだが、皆さんはどうだろうか。

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