第21話 糠漬けたくあんのばあちゃん煮
※本文中に食事中の音読に適さない箇所があります
おれの祖母は昭和一桁世代ということもあり、あまり最近(具体的には平成に入ってから今まで)のグルメに詳しくない。
ふだん口にするものは、おおむね昭和のうちに出てきたものが多く、好んで新しい食べ物を口にするということはほぼない。もともと少食なのと、好き嫌いが激しいというのもある。おれは「食う物食わずで生きてきた戦中世代に『好き嫌い』がある」ということ自体がなんとなくカルチャーショックなのだが、まあ食事事情の乏しかった時代だったろうし、そんなものかもしれない。
そんな祖母なのだが、たま〜に(頻度が低い理由は本文に出てきます)、本当にたま〜になのだが、以下のようなレシピの料理を作ることがある。
<材料>
糠漬けのたくあん・・・3本
酒粕・・・300g
水・・・たくあんが浸かるまで
鮭のアラ・・・適量(食べたいぶん)
醤油、味噌・・・適量
唐辛子(鷹の爪)・・・1本
料理酒・・・適量
<作り方>
1 糠漬けのたくあんを輪切りにする。葉の部分があれば、それも適当に切る。
2 水に糠漬けのたくあんと葉、鷹の爪を入れる。
3 鮭のアラを入れる。
4 酒粕を入れる。
5 鮭のアラが煮崩れるまで煮る。水分が無くなる場合は、料理酒を足す。
6 鮭のアラが煮崩れたら醤油で味を整える。
要は「沢庵を鮭のアラと酒粕で煮るやつ」なのだが、一つ一つ見ていこう。
まずおれは「たくあんを煮る」というプロセス自体があることに驚く。一般的なたくあんというのは「漬けたやつを切って食べる」のが普通ではないかと思うのだが、祖母の場合はこれを煮るというところからスタートする。
ネットで検索すれば「たくあんを煮る」プロセス自体はそこまで珍しくはないということに気づくのだが、 検索して出てくる「たくあんの煮物」は「煮切りをしたのち、仕上げに唐辛子を散らす」など、割と料理としての細かな仕事を感じることができる(わざわざひと手間かけるので「ぜいたく煮」と呼ぶ地方もあるらしい)。が、祖母のそれはあくまで「たくあんを煮る」のみで、特に仕事という仕事はない。強いて言えば、祖母はたくあん漬けを作る時に大根の葉を取らないというポリシーがあるので、そこが仕事と呼べるものになるかもしれないが。
次に鮭のアラであるが、これは単純に「出汁」や「具材」の位置づけであるという。鮭のアラを狙って買うことが難しい場合は、鮭でなくてもいいらしい。
そして酒粕。具材を酒粕で煮る「酒粕煮」自体は知っているが、これがたくあん・鮭のアラとコラボするので、もう、なんか、ものすごいことになる。具体的には、ニオイがものすごいことになる。
おれが二階の自室でテレワークをしていても、一階の台所で「糠漬けたくあんのばあちゃん煮」を作ったことが、たくあん・鮭・酒粕の強烈なニオイとともに立ちどころに伝わってくる。なんというか「それらをいっぺんに煮たときのニオイ」としか形容できないニオイで、ストレートに表現すると「刺激臭」または「異臭」である。他のデメリットとして、どこからともなくハエが発生してしまうというものがあり、これも地味に困る。
最終的には煮込んで煮込んで煮込んで、鮭のアラが食べごろになったら醤油や味噌で味を見て、あとは食べればよい。酒粕と鮭のアラの相性もあって味自体は割とマイルドなのだが、とにかくニオイがすごい。正味な話、戦中世代でない人間からすると、強烈なニオイというデメリットと引き換えに得られる美味というメリットで比較しても、全く対価が取れていないような気さえする。
あまりにもニオイがすごいので、一度祖母に「なぜこれを食べるのか」と聞いたところ「お通じの改善になる(実際にはもっとストレートな表現だった)」とのことだった。そりゃアンタたくあんと酒粕の乳酸菌を一度に摂れば、確かに改善はされるかもしれない。が、令和なんだし、単純にそれだけが目的なのであれば、ポリエチレングリコールとか、ピンクの小粒とか、もっと他の方法があるのではないだろうか。
まぁ好き嫌いの多い祖母のことだし、自分が好きじゃない料理は作らないだろうから、たまに「糠漬けたくあんのばあちゃん煮」を作って食べるのは、やっぱりそれが好きだからなのだろう・・・と思う。思うが、とにかくニオイがすごいし、実際のところ他の家族はニオイで食欲が減衰しまくるので、なるべくニオイを抑えるように保存しつつ、食べるようにしてもらっている。
ちなみに「糠漬けたくあんのばあちゃん煮」という名前は、この文章をしたためるにあたっておれが便宜的につけた名前だ。もともと名前はなく「たくあんのアレ」という呼称が使われていて、そっちはそっちで良かったのだが、一応形だけでも残しておかなければと思い、考え出した名前になる。
いちおう作り方も掲載したが、おそらく皆さんが想像しているものの20倍程度はニオイが凄いことになるので、レシピを再現するにあたっては自己責任というかたちにできれば幸いである。味も好みが強いのは間違いなく、オススメはしない。
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