第16話 ウォーターサーバのある風景
おれの生まれは東北の片田舎で、新幹線が停まる駅まで車だと2時間ぐらいかかる場所にある。
そんな立地なので、必然的に自宅の周りは山だし、過剰なまでに自然で溢れかえっているのだが、そのおかげもあって、湧き水があり、それを汲み上げる水道水がそこそこおいしかったりする。
上水道は山の湧き水を集合ポンプで濾過したもの、下水道は各家庭で浄化槽・・・という、地方の過疎地域ではよくあるタイプの上下水インフラとなっている。
上水道は集落全体で管理しているのだが、水道法など諸々の御達しのため、水質的に問題なくても一定の塩素を入れる必要がある。そのため、かつての水の美味しさと比べると、塩素を入れざるを得なくなったぶん、おいしさは失われている状態だ。
実際のところ、塩素を入れてから明らかに味が変わったという意見が地域住民の大半から出ており、安全面ではやむを得ないのだが、かつてのおいしい水が水道水で飲めなくなったことには一定の心残りがあることを思わせる。
とは言え、都市部の水道水と比べれば(個人的には)十分おいしいので、水に金を払うという概念をあまり持ち合わせないままオッサンになったのだが、ある日ふと新聞折込広告の「ウォーターサーバ」が目にとまり、これを導入してみようと思い立った。
ウォーターサーバというのは、かんたんに言えば「水または湯のディスペンサー」だが、
・震災などで水道がストップした場合でも、最悪ボトルを空ければ水が使える
・開封しなければ長期保存可能
・電源さえあれば部屋のどこでも水道の機能を置ける
といったあたりのメリットに魅力を感じたため、導入してみようと思ったのである。
東北在住でもれなく3.11の被害を受けていることから、災害時の上水道として使えるので絶対に困らないこと、塩素入りの水道水と比べるとやはり天然水なので味は良いこと、そしてどこでも水または湯が飲める環境を作れること、それぞれがおれにピタリとハマったようなかたちだ。
さっそく注文し、2週間ほどでディスペンサーが導入された。ボトルをバコンと差し込み、タンクに水が充填される。10分ほど放置し、よく冷えたタイミングを見て、まずは一口飲んでみる。
明らかに水道水よりおいしい。キンキンに冷えているというのもあるが、水道水よりもクセがなく、塩素を入れる前のような、清冽で素朴な味である。
水道水は季節によってはぬるくなるので、冷たいのを飲みたいときは冷蔵庫で冷やすなど一定の手間を必要とするが、ウォーターサーバは電源だけ入れておけば、あとはほぼメンテフリーでおいしい冷水が飲める。
設置場所が自分の仕事場(テレワーク部屋)というのもあるが、デスクのすぐ近い位置にウォーターサーバがあると、なんとなくそれを飲んでしまうので、ジュースなどよりもコスパが良いということに気づいたのが、導入から2ヶ月後ぐらい。水がどうこうというより「注ぐと冷えている」というのがベストマッチで、気がつくとボトルを空けているということがよくある。
料理にも使えるので、基本的に無駄になることがない。もちろん災害用に多めに備蓄し、ローテーションで消費しているので、地震など災害が発生しても上水道に関してあまり心配しなくなった。水道水は集落管理なので年に2~3度の計画断水があり、以前は飲料用の水道水を汲み置きしたりもしていたのだが、ウォーターサーバがあることでこの手間がなくなり、そのぶん便利になった。
普段使う水がおいしければそれに越したことはないのだが、やはり塩素入りの水道水とウォーターサーバの天然水では、あきらかに後者の方がおいしい。コーヒーにも合うし、焼酎の水割りなどとも相性がよい。料理だと米飯や野菜の炊き加減などにも影響してくるので、意外と無視できない違いがある。
そこそこ水のうまい場所で敢えてウォーターサーバ・・・という贅沢さ、後ろめたさがないわけではなかったのだが、同じような動機でウォーターサーバを導入したという人が、集落の2~3割居るとのことで、あながち俺の判断は間違ってなかったかな、と、ウォーターサーバの水で作ったアイスコーヒーを飲みながら、この文を思いしたためている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます