第13話 冬でもアイスコーヒーが飲みた~い

 夏真っ盛りのランチで「鍋焼きうどん食べない?」と提案してくる人が居たら皆さんはどう思うか。


 まあ別に鍋焼きうどんでなくてもいい。焼き芋でも、しゃぶしゃぶ温野菜でも、蒙古タンメン中本でもなんでもいいが、とにかく「暑い時に熱いものを食う」というやつのたとえである。よくあるといえばよくあるやつだ。


 おれの場合は「お店の冷房がガンガンに効いてるならいいよ」という返答をよくする。この手の「暑い時に熱いものを食う」ことを提案してくる人というのはたま〜にいる。これに対しおれは食事そのものの熱さと外気温の暑さに冷房を挟むことで、実質的に「暑い」という前提をナシにしたうえで「寒い時に熱いものを食う」という方向に持っていくことで、結果的にうまい食べ方を提案する、ということがよくある。


 で、この「暑い時に熱いものを食う」価値観がアリなのであれば、「寒い時に冷たいものを食う」もあっていいよね、というのを考えている。


 その代表的な例はタイトルにも書いた通りなのだが、個人的な経験などから鑑みると、なぜかこっちサイドの価値観が理解される傾向は、暑い時のそれと比べて著しく低い。


 「冬にアイスコーヒー飲むなんて信じられない」

 「なんで冬なのに氷満載のアイス飲んでんの、ホットのほうがおいしいじゃん」

 「よっぽどアイスコーヒーが好きなんだね」

 「体は冷えるよりも温める方がコストがかかるんだよ」

 「コーヒーはアイスでもホットでも体を冷やすからホット飲んだほうがいい」


 などなど。それぞれ理解はするが、夏にホットコーヒーを飲んでもここまで言われることはなかろう。


 おれ自身「寒い時に熱いものを食う」ことは好きだし、できればそうしたいと思う。ただ、それとは別に、おれはコーヒーが大好きだし、コーヒーはホットとアイスでまったく味が違う。それぞれにそれぞれのおいしさがあるから、外気温が寒かろうが、めっちゃ吹雪いていようが、アイスコーヒーを飲みたい時は飲みたいのだ。それで体が冷えたり、トイレが近くなるといったリスクを負うとしても、だ。


 だいたい冬だからと言って「冷水は飲まない」という人は居ないだろうし、夏だから味噌汁とごはんは全部冷やして食べる、という人も居ないだろう。外気温は外気温であって、それを喫食する環境が寒いか暑いかは、また別の問題なのだ。


 寒さの本場・北海道に住んでいる友人曰く、道民の幸せの一つに、住宅を高気密にしたうえで、フルパワーで暖房を焚き、こたつでアイスを食べるというのがある、といった類の意見を聞いたことがある。おれのアイスコーヒーもそれに近い感じではあるので、納得するところではある。ただ、俺の場合、別に住宅が高気密でなくても、フルパワーで暖房を焚いていなくても、外でめっちゃ寒くても、アイスコーヒーが飲みたい時は飲みたいのだ。


 この価値観のズレが招く困難は多い。例えば自動販売機のコーヒーは、冬になると8〜9割が「あったか〜い」になるので、「つめた〜い」の段に冷えたコーヒーが無いことがままある。冬場に自動販売機を利用すること自体まれだが、であるがゆえに困る場面のひとつで、あったか〜いを買って放置して冷やして飲むというのをやるのだが、あったかいのを冷やすと味が変わるので、どこか気持ちが晴れない飲後感となる。


 かつて夏季のコンビニに「肉まん」や「おでん」が無かった時代というのが結構長く存在していたのだが、最近は小さい需要でも拾っていくぜとばかりに、夏でも肉まん・おでんを陳列していたりする例もある。「雪見だいふく」は「アイスの消費が落ち込む冬になんとかアイスを食べてもらえないだろうか」という発案から生まれた商品だったりする。


 このように、食の世界にも様々な多様性が押し寄せているのだからして、おれの「冬でもアイスコーヒーが飲みた〜い」も須らく尊重されるべきではないのだろうか。というか俺は別に会う人全員に「冬でもアイスコーヒー飲めよ」とか詰めたりしている訳ではなく、ただ自分で買って飲んでいるだけなんだから、そのへんは穏やかにしておいて頂きたいという考えがずっとあるのだが、皆さんはどうか。

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