第10話 移動メシ

 出張などで改札からホームへ向かう間に、メシどうしようかなあ、駅蕎麦は時間無いしなぁ・・・と考えながら歩いていると、キオスクなどでちょっとした弁当があったりするので、それを買って、あとは自販機であったかいお茶でも・・・というようなルーティンの人は多いかと思う。おれもだいたいそんな感じである。


 「移動メシ」はメシ自体が移動しているということではなく、喫食者である本人がどこかからどこかへ移動するときに食べるメシ、ということになる。


 だいたい「移動メシ」は出張など時間に余裕のない場合に多くなりがちで、どうやっても移動中にしかメシを食う時間がなく、多少の諦めはあるものの、少し「駅弁とか食える」みたいな期待もあったりして、ネガティブさはあるが、それ自体はそこまで悪いものではない。


 ただ、ものすごく腹が減った状態でフラフラになりながらキオスクで闇雲に弁当を調達、電車に乗ると同時に次の駅に着く間に買った弁当をすべて食べてしまうといった「フライング」もあったりする。あまつさえ車内販売でお菓子やツマミを買ったりしてしまって、こうなると殆どメシの範疇ではなく「ひとり食べ放題」のような様相を呈してくる。このタイミングで、お土産用に買ったお菓子を食べてしまうなどの事件も後を立たない。


 概ね、移動メシはプリミティブな食事になりがちである。これから行く先のことを考えると、行きの路線でメシを食べるというケースはあまりなく、どちらかと言えば帰りの路線が多い。なのでだいたい通常のそれよりも空腹度が高い状態で、なおかつ何かしら購入したものを食べるわけなので、購入した弁当が冷えていても、アイスクリームが硬すぎてスプーンが刺さらなくても、具が殆どない薄いサンドイッチの賞味期限がギリギリでも、それはそれでまあまあおいしい。


 出発する駅のデパ地下などで優雅に弁当を吟味し、発車と同時に弁当を食べるというプランもないわけではないが、移動メシは移動自体も含んでいるので、悠長にやっていると乗車や降車を逃すというクリティカルな状況に出くわしたりもする。なので個人的に「酒」は買わないようにしている。酒が無ければ、少なくとも帰りの移動メシで寝過ごす危険性は低い。


 自分なりに移動メシのルーティーンがあるとすれば、


 ・出発駅構内(だいたい東京駅が多い)でなんか探す

 ・飲み物は(持ち運ぶと重いので)ホームの自動販売機かキオスクで買う

 ・お菓子とコーヒーも買う

 ・弁当は2個買う


 という感じになっている。


 弁当を2個買うという部分については、1つだと選んだものに対して「選ばなかったアレもうまそうだったな〜」という後悔をぜったいするので、気になるものを2つ見繕って無理やり買い、もし1個でお腹いっぱいになったらもう1つは持ち帰る、といった芸当ができるのである。これはお土産手段としても有用なので、是非ご検討下さい。


 お菓子とコーヒー。特にコーヒーが重要である。食後にはやはりコーヒーが飲みたいのだが、ジャストなタイミングで車内販売がなかったりすると、1時間弱もんもんとしたまま社内で過ごすことになる。車内販売のコーヒーを買う予定なのだとしても、保険として缶コーヒーを1つ買っておくのがよい。これも飲まなければ持ち帰れるので、基本的には無駄にならない。


 そんな移動メシだが、コロナのアレとかソレで、最近はすっかり移動メシの機会自体がなくなってしまった。落ち着いたら旅行・・・というのも良いが、自分はこの「移動メシ」を楽しみにしている部分もあり、今度移動したら何を食べようかな、と一人で駅ビルのウェブサイトなどを閲覧したりしている次第である。

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