第8話 お年寄りとスタバ
長らく「スタバ不毛の地」という烙印を押されていたおれの住む町にもついにスタバができ、休日ともなるとドライブスルーに甘い飲料や菓子などを求める車が並び、若者(だいたい大学生・短大生)でごった返すようになった。
スタバという店をどう捉えるかは人それぞれだが、少なくとも「カフェ」という単語から「セルフ式で、めっちゃ甘い飲料をメインとしながらも、コーヒーや軽食もある喫茶店のようなお店」というコンテキストを導き出すことは、田舎のオジイサン・オバアサンにはなかなか難しい。なので親世代以降の人に「スタバって何?」と聞かれた場合は、前述のような説明をすることにしている。軽食、そう「軽食」という表現が大事なのだ。フードと言ってもわからんから。
オジイサン・オバアサンでもコーヒーを飲む人は飲むので、単に「喫茶店」でいいじゃない、という人が居るが、そういうノリで「喫茶店」と伝え聞いたオジイサン・オバアサンが来店し、何も注文せずに席に座り、ウェイトレスが注文を取りに来ないのでけしからんと怒って帰ってきたという話も聞かないことはない。「喫茶店」ではコンテキストが弱すぎるのだ。
スタバがいわゆる「喫茶店」と違うところは以下のような点になるかと思う。
・席まで案内されない
・禁煙(灰皿はない、永遠に)
・席に砂糖や塩はない(なんか台の上にまとまってるやつはある)
・備え付けのマンガや雑誌、新聞はない(必要に応じて持ち込める)
・公衆電話はない
・注文はセルフ式なので自分でカウンターに行き、受け取る
・買って余ったら、可能なら持ち帰ってもよい
・喫食が終わったら自分で片付けるなり捨てるなりして帰る
じゃあ「カフェ」なら通じるだろうと思いがちだが、オジイサン・オバアサンは「カフェ」がまず判らない。オジイサン・オバアサンでも理解できそうな「カフェ」の定義としては、
・コーヒーと軽食がある
・場合に応じて持ち帰ることができる
・セルフ式、片付けも自分で
ぐらいのものではないかと思うので、その3つだけで行くに足りるかどうかを判断できるのであれば「カフェ」という伝え方をしても構わない。
まあ実際には、オジイサン・オバアサンがスタバに行き、食べておいしいメニューがあるのかとか、くつろげるかとか、そういう部分の相性は気になるところだが、それは別に年齢に限らないので、スタバがどういう店か判っていれば、あとの部分は心配に足らないだろう。
スタバに限らず、長らくそういったチェーン店がなかったところに突如として新しい店が開店すると、こういった「コンテキスト」の欠如によって様々な悲劇がおこることがある。おれの住む町には数年前に「ラーメン二郎」もオープンしたのだが、この店が単に「大盛りの店」というコンテキストで広まってしまったが故に、大盛りならちょっと自信あるぞという男性中高年が果敢に挑んだ結果、あえなく大ブタで撃沈して帰ってくるという後日譚を幾度となく聞いた。
ラーメン二郎を説明するのも、また「大盛りの店」ではコンテキストが弱すぎるのである。
こういった部分をうまく伝えられれば、本来のターゲット層である若年層以外にも販路を広げることはできるだろう。棲み分けという意味では微妙かもしれないが、あまねく老若男女に受け入れられるというのは、そういう部分の洗練にあるのではないかと思ってやまない。
オジイサン・オバアサンも、もはや「回らない回転寿司」には慣れたかと思うが、それ以上の新しさがいきなりやってきたら、さすがに混乱をきたすかもしれない。だが、どこかの段階でチェーン店の洗礼を受けておかないと、最先端のグルメにはありつけない。新しいチェーン店に行く際は、入学式ではじめて学校に来た小学校一年生の好奇心と、生まれたての仔鹿ぐらいの奥ゆかしさでもって挑もう。
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