第6話 会議
大きな扉の部屋に入ると長机と奥に大きな椅子があった。
そして長机には偉そうな老人妖精たちが座っていた。
老人妖精は俺たちを見ると少し嫌な顔をした。
どうやら歓迎されていないらしい。
セセリーは中央を通り奥の大きな椅子に座ろうとする。
俺たちは執事に先導されて角の小さな椅子に座ることになる。
老人妖精は腕組をして紙をぺらぺらとめくりながら会議の開始を待つ。
セセリーが座ったと同時に老人妖精たちはセセリーのほうを見る。
「氏族長の皆さん。今回はお集まりくださりありがとうございます。本日は英雄の封印についてお話があります」
氏族長といわれた老人妖精はセセリーの言葉に耳を傾ける。
セセリーは少し申し訳なさそうに言う。
「封印の祠にはいきましたがそこには誰も封印はされていませんでした。厳密には何者かに封印を解かれた状態になっていました」
氏族長は失望した感じでうなだれる。
特にげんなりとしていたのは大きな牙を持った老人妖精だった。
「やはり新米女王には荷が重かったか」
「セセロス様。言葉が過ぎるのではありませんか?」
牙の生えた老人妖精はセセロスといわれた。
セセロスは自分のひげを触りながら不満を吐き出す。
「その程度の役目もこなせぬなら女王としての格は知れたもの。なぜ今まで封印の祠に行かずにこの穴倉に閉じこもっていたのか。牙の氏族としては不満しかありませぬな」
セセリーはもうしなさげに詫びる。
「それはこの国に暮らす妖精たちの安全を確保するためにまずは土台を固めようと思ったまでのこと。国を疎かにして敵に入られれば本末転倒です。国民のいない国など国ではありません」
「ふむ。まぁ納得はできるがいささか行動が遅かったのではないか?」
セセロスはセセリーの行動を責める。
行動が遅かったのはなぜなのか。
俺もそこを知りたかった。
するとユウキが俺の疑問を察して話してくれる。
「妖精っていうのは臆病な種族であまり外に出たがらないんだ。だけど牙の氏族と火の氏族は積極的で勇猛果敢なんだ。だから牙の氏族長のセセロスはあんなにセセリーを責めているんだ」
なるほど。
妖精にもいろんな種族がいるんだな。
「しかし私は英雄に匹敵する人材を見つけてきました。その者たちはあのガドを一撃で屠り去るほどの戦闘能力を有しています。それが彼らです」
セセリーは俺たちのほうに注目を向ける。
氏族長たちが俺たちを細見する。
しかしどの氏族長も俺たちを疑いのまなざしで見る。
目を細めたり舌打ちしながら。
まるで俺たちをゴミでも見るかのようだ。
「また異界人か。われらはそれで失敗したのだろう。なぜまた異界人なのか理由を聞きたい」
「確かにアイアンレギオンの皆さんは私たちをだまし食料を奪っていきました。しかし彼らからは穏やかなオーラを放っています」
「オーラだけではどうこう言えぬ。具体性を示したらどうなんだ」
異界人が否定される中ユウキが立ち上がる。
それを見た氏族長たちはユウキに注目する。
「私たちは別に食料をとりません。ただ一点ほしいのはこの世界からガドを一掃する許可が欲しいのです」
「はったりだ!! 異界人は見返りを必ず求める。そう伝承にも書いてあった。例にアイアンレギオンはガドを倒す代わりに食料を求めた。貴様らもその下賤な思考で我らから物を奪うつもりであろう」
「いいえ。私たちは見返りは求めません。その代わり私個人から渡したいものがあります」
「金なら要らぬぞ。異界人の腐った金などもらう価値もない」
そういうとユウキはアイテム欄から様々な食材を大量に召喚する。
肉、魚、果物、ありとあらゆる食材を床に召喚したのだ。
「これくらいあれば体の小さな妖精の皆さんなら満足していただけるかと」
氏族長は目を輝かせて食材を見ている。
おいおいこれだけあれば数年は暮らせるほどだ。
俺たちの食料はあるのだろうか?
「アイアンレギオンにとられた食料は何日分でしたか?」
「そうですね、一年分ぐらいかと」
セセリーが執事に確認を取らせて言う。
そして氏族長たちは食べ物をまじまじと見ながら計算を始める。
皆無言で計算をしているのか会議室が静かになる。
そして納得したのか氏族長は大きくうなずく。
「これだけあれば数年は暮らせる。その間に戦力を蓄えることも容易にできよう」
ユウキは氏族長一人一人の目を見て話す。
「私ができるのはこれくらいです。あとはガドを滅ぼすだけですね」
氏族長たちは納得したのか今度はセセリーのほうに注目する。
そして顎の氏族長であるセセロスが話をする。
「これだけあれば数年は暮らせる。その間に戦力を蓄え邪神の使いに対応できるだけの戦力を集めれば必ずや奴らを打ち倒せるはずだ!!」
セセロスは興奮しているのか鼻息が荒くフンフンと言っている。
しかしセセリーは頭をふるう。
「だめです遅すぎます。大規模作戦は予定の日時に行います」
「私は賛成だ」
一人の氏族長が手を挙げる。
赤い髪をした強そうな妖精だ。
背中には剣が装備されていてその鋭い眼光からはいくつもの死線を潜り抜けてきた圧を感じる。
「赤の氏族長ポポロス正気か? 今でさえ兵士の人数は少ないのだ。武闘派である牙の氏族と火の氏族を足してもガドの半数にも満たない。その差をどう埋めるのだ?」
「差なんてものは埋まるわけないのだ。ガドは勝手に生まれ続け止まることを知らない。無限の軍隊に数で勝とうなどとその発想自体がやつらに負ける一つの要因なのだ」
セセロスは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「数で勝てぬなら頭を使い短期決戦で終わらせること。この地下王国が存続しているうちに叩くのだ」
火の氏族長ポポロスの言葉に皆納得したようにうなずく。
「では今まで通り作戦は変えません。私たちは一週間後に旧ティティニア王国に攻め入ります。その時に異界人の皆さんとともに進軍します。では会議は以上です」
そうセセリーが言うと皆席を立ち帰っていく。
セセリーはユウキに用事があるのか何やら別室で話をしていた。
内容はわからないが重要な話なのだろう。
するとユウキからメッセージが届く。
俺はメールボックスでその内容を読む。
『蒼君たちとアガド君は情報を集めてきて。居住区を重点的にね。私はマーヤちゃんと後から商業区を調べるから先に行っていいよ』
「なるほど。じゃあ先に行ってようか。情報取集なら俺に任せとけ」
「頼りにするよ蒼」
「そんなわけで悪いなマーヤ」
「い、いえいえ。行ってらっしゃいです」
俺たちは情報を集めるために居住区に向かうことになったのだった。
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