第3話 記憶 (3)
「俺が冥界王。俺は王だったのか?」
「ええ、あなたは
俺は王と言われてもピンとこなかった。
王と言っても何をするものなのかわからない。
亡者を統べる?
俺にそんな大層な事ができるのか?
いやできるとするならば。
「俺は死者を蘇らせる能力があるのか? あるんだったら俺はこの地獄を変えられるのか?!」
俺は期待した。
もしかしたら俺はこの状況を変えられるのかもしれない。
だがそれは雲を掴むような話だった。
ユウキは
「いいえ。アガド君にはその能力はないよ。あなたが持っているのは死者を統べる能力。主にアンデッドやゴースト系のモンスターを操れるの。あくまでもモンスターのみなの」
そうなのか。
俺は少し残念に思う。
死者を操る能力か。
改めて考えるとそれは少し不気味な感じがした。
「そんな能力を得るために俺は何をしたんだ? 死者を操る。それほどのものなら何の苦労もなく手に入れられるはず無い」
俺は気になった。
それは能力に少し恐ろしさを覚えたからだ。
俺の表情を見たユウキは俺に丁寧に話してくれる。
「あなたのやっていたことはゲームとしてなら当たり前で当然のことだったわ」
「俺は何をしたんだ?」
「あなたのやったことはPVP。つまりプレイヤーヴァーサスプレイヤー。一対一の真剣勝負。それであなたは世界一の記録を打ち立てた」
俺はその言葉を聞いた瞬間何かはわからなかった。
しかし真剣勝負と聞いて俺は胃の中から物があふれてきた。
全身の細胞から汗が流れ出ていきその言葉の意味をゆっくりと理解する。
そして俺は一気に体の中から出せるものはすべて口から吐き散らかした。
「お、俺が殺しをしていたのか?!」
飛躍しすぎた考えだが現実味はある。
俺は剣を持っていてそれが普通な世界。
そしてそこで言われた真剣勝負。
ならば殺し以外の選択肢はない。
「お前は何も悪くない。ゲームていうのはそれが許された場所だ」
「違う、真剣勝負だからってそんな、殺しなんて」
みんなは俺のことを心配そうに見つめる。
そんなに心配されるようなことなのか?
俺のほうが狂っているのか?
俺は少しよろめき片手を地面につけしゃがみ込む。
それを見た
彼なりの気遣いのようなものだったが俺はそれを払いのける。
受け入れられない事実と彼らとの感覚のズレに俺はひどく困惑していた。
どうやらゲームとやらの世界では殺すのは当然のことらしいが俺は理解できない。
少ししゃがんで休憩していたが俺はひどく疲れていた。
思えばここに来るまでに多くの死体を見てきた。
皆苦しそうな顔をして死んでいった。
その光景を見た後に俺が殺人鬼だということを教えられた。
俺は自分でも受け入れがたい。
しかし受け入れなければ前に進めぬのだろう。
俺はゆっくりと立ち上がる。
まだ気持ち悪いが吐き気をこらえて俺は前を向く。
「俺がいなければ戦いは終わらないのだろう。ならば戦う、その道の先に俺が何なのか知ることができるのならば戦う動機はそれだけで十分だ」
「無理をするなと俺は言いたいがこの間にもモンスターは進行してきている。お前の力が必要なんだ。戦ってくれるか?」
「ああ、戦う」
「ならまずは視界の右側にアイコンが見えるのは分かる?」
「右側?」
俺は初めて視界の右側に注目してみた。
そこには青く光る丸があった。
そこに触ろうとするも透けていて触ることはできないようだ。
「このわけのわからんものは何だ? 触ることもできないし戦闘のときに邪魔になりそうだが」
「そこに意識を集中してみて。最初は扱いに困るだろうけど戦闘の助けになるはずよ」
ふむ。意識を集中。
俺はアイコンに意識を向ける。
するといくつもの情報が目の前に現れる。
「うわ!!」
俺はびっくりして尻餅をついてしまう。
「大丈夫ですかアガドさん!!」
マーヤがササッと俺のもとにかけてくる。
俺は彼女に気を使わせまいとすぐに立ち上がる。
「その様子だと開けたようね」
「何なんだこのボードのようなものは?」
「それはステータス欄。あなたの能力やアイテム、スキル、魔法の一覧がそこに書かれているわ」
なるほど、これで俺という人物が何を持ち合わせているかが分かるというわけか。
まず俺はステータスを見てみた。
ステータスと書かれていたがどうやら読めるようだ。
これは俺の知らない言語だが記憶を失う前に使っていた言語なのだろう。
ステータスには数字が書き込まれていた。
運と器用さ以外のすべてのステータスは高い数値となっていた。
次に装備品を調べた。
俺の体が立体的に表示されどこに何の武器があるのか詳細に書かれていた。
鎧は地獄の鎧。
火属性と闇属性の攻撃を弱める効果がある。
そして武器は冥界の剣。
俺が放つ攻撃に即死効果を付与してくれるがその変わりにHPなるものを吸い取られるようだ。
装備は他にもあり足には
俺は頭についた角を撫でてみる。
感覚はないが確かに角のようなものが生えていた。
「魔法やスキルはもう見た?」
ユウキが尋ねてくる。
俺は首を横に振る。
「そう。実践でスキルや魔法を使う時かなり苦労すると思うからそのスキル欄と魔法欄から技を選んで戦うことをおすすめするわ」
ふむ。
俺は魔法欄を見る。
複数の魔法名がそこに書かれていた。
しかし魔法名の右端にドクロマークがついていて不気味だった。
これが何なのかわからないからユウキに聞くことにする。
「この右端のドクロマークは何なんだ?」
「即死魔法だね」
「そ、即死?!」
「その魔法に当たったら私達は死ぬから気をつけてね」
なんて物騒なものを持ってるんだ。
そんなの言われなくとも使わないに決まっている。
命は粗末に扱うもんじゃないと誰かが言っていたような気がする。
俺は一通り魔法とスキルに目を通してユウキに尋ねる。
「一応一通り目を通したが俺はこれから何をすればいい。練習もしたいのだが」
「練習は無いよ。これから奴らから奪われた命を取りに行く。みんなを生き返らせるためにね」
「いきなり実践ということか?! バカ言うなよ!! 俺はまだ戦い方だって教えてもらってないんだぞ!!」
蒼がポンポンと肩を叩く。
俺は苛立ちながら蒼を見る。
「まあそうカッカするな。あいつだって焦ってんだ。あいつはあれでもお前のこと好きだったんだぜ」
「俺のことを?」
「ああそうだぜ。よくメールで恋愛相談に乗ったもんだ」
蒼は笑いながら話していた。
しかし俺はどうもユウキが俺のことを好きだとは思わない。
なんか寂しそうな顔をしてるし何よりつらそうだ。
ユウキは俺たちをおいて緑色に光る門に進んでいく。
「俺たちも行こうぜ。お前の背中は俺が守ってやる。慣れるまではスキルや魔法は能力を見てから使ってくれ」
蒼はそう言うと大盾を片手に走ってユウキの方に向かう。
俺も置いてけぼりは嫌だったので走って追いかけることにした。
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